【本編完結】番に忘れられたけど、推しとして支える事にした ~16年越しの巣作りを~

墨尽(ぼくじん)

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 そしてルキウスはというと、もう少し話し合いが残っているらしい。考えたくはないが、クラディルが関わっていないか心配なところである。
 ザザドがロジェを顔を覗き込み、悔しそうに眉を顰めた。

「あぁ……アースターさんの可愛い顔が……」
「ザザドさん……可愛いは嬉しくないです……。それに、こんなの大したことないし、もう動けますって」
「殿下がどれだけ胸を痛められたか……」
「そうでもなさそうですよ。今朝も馬鹿猫って怒られましたし……熱も下がったから」

 ゆっくりと上体を起こしてみても、殴られた場所が少々痛むだけだ。歩くのも問題ないだろう。
 窓の外を見てみれば、もう第一司令部の前まで来ているのが見えた。そのまま門を抜け、ルキウスの執務室がある棟へと馬車は向かっていく。

「アースターさん。殿下からの命令で、居室を移してもらうことになりました」
「え? どこに?」
「執務室がある第一棟です。もう部屋の準備は整っております」
「……なるほど」

 ロジェの所属である第三科からルキウスの執務室までは、確かに遠い。
 毎日執務室に通うのが面倒だと思ったことは正直あった。第一棟に寝床が移るなら、ロジェとしては万々歳である。

「荷物の移動はどうされますか? ルトルクに頼んで持ってきてもらいましょうか?」
「い、いや! 大丈夫です! 少ないし、俺が運びます」
「そのお身体で? 心配ですから、ルトルクを同行させましょう」
「お気遣ありがとうございます。でも荷物は少ないので、本当にお気になさらず……」

 ロジェは出向者なので、最低限の荷物しか持ってきていていない。しかしその大半が見られたくない荷物である。
 特に抑制剤やマグウェルの手紙などは、絶対に隠し通さなければならない。

 心配そうなザザドを説得し、ロジェは途中で馬車を降ろしてもらった。第二棟と第三棟の間にある中庭で、文官らの居室も近い場所だ。
 馬車を見送ったあと、ロジェは身体の向きを変える。

(……ルトルクさんを手伝いに向かわせるってザザドさんは言ってたけど……先に行こう……)

 こちらに向かっているであろうルトルクを待たず、ロジェは第三科がある第三棟へ向けて、ゆっくりと歩きだした。

 歩いていると、自分がいかにボコボコにされたか痛感してしまう。一歩踏み出すがごとにずきずきと全身が痛んだ。しかし歩けないほどではない。
 始業が迫っているからか、中庭にはちらほら人がいる。ひょこひょことロジェが歩いていると、人ごみの中からコーレンが走り出してきた。

「……アースター……! お……お前、今度はどうしたんだ⁉」
「コーレン! はよーさん、今から出勤か?」
「いやいや、はよーじゃねぇって。ほんとに、まったくお前は……」

 ロジェの姿を上から下まで眺めて、コーレンは顔を顰める。

「……もしかして、鬼将軍にやられたのか?」
「まさか! そんなわけないだろ?」

 笑うと、口の端や頬骨辺りが痛む。変な笑顔になったせいか、コーレンは神妙な面持ちとなってしまった。
 彼も相変わらず隈が酷いため、まるで亡霊のようになっている。

「……アースター……お前さ、アカツキに帰った方が良いんじゃないか? そんな暴力まで受けて、我慢している必要なんてないぞ」
「コーレン? 違うって言ってるだろ? これはさ、ただ俺が……」
「もう言うな。分かってるから」

 ロジェの言葉を遮るように、コーレンはロジェの肩を労わるように抱き寄せる。

「お前が見た目の割に真面目で一生懸命なことは、俺たちはみんな分かってる。付き合いは短いけど、お前の働き方には感服するしかないよ。だけどな、アースター……だからこそな……お前が心配なんだよ」
「おい、コーレン。俺の話聞いてる?」

 ぺらぺらと捲し立てるコーレンを呆れ顔で見つつ、ロジェは身体を彼へと凭れさせた。
 少しの移動だったが、やはり傷ついた身体には酷だったのだろう。いつもの倍以上にどっと疲れてしまう。

 コーレンは文官だが魔族で、その身体はロジェよりも大きい。身体つきも逞しく、ロジェが凭れ掛かってもびくともしなかった。
 コーレンもロジェの状態を察したのか、身体をしっかりと受け止めてくれる。
 すると、二人の様子を見ていた女性陣から、こそこそと囁く声が聞こえてきた。

「閣下のお気に入りってあれよね? ボロボロじゃない。閣下に不敬でも働いたのかしら」
「綺麗って聞いたけど、そうでもないわね」
「……っていうか、もう新しい男? 信じられない」
「尻軽っていうか、男娼みたいなものね」

 囁いているつもりなのか、それともわざとかは知らないが、会話は丸聞こえである。こちらに向けての視線も侮蔑が含まれていて、ロジェと目が合っても反らす気配はない。
 コーレンが慌て始め、ロジェへと捲し立てる。

「そ、そうだ、アースター! 朝飯は食った? おごってやるから、移動しようぜ?」
「……コーレン……俺っていつも、こうやって陰で悪口言われてんの?」
「い、いや、違うよ。さぁ、あっちへ行こう」
「言われてんだな。……なるほど」

 女性陣はくすくすと笑いながら、ロジェを挑戦的に見据え続けた。
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