【本編完結】番に忘れられたけど、推しとして支える事にした ~16年越しの巣作りを~

墨尽(ぼくじん)

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「何をしてる⁉」


 こんな時だというのに、ルキウスの声は甘美な響きをもってロジェの耳に届く。

 馬に跨ったルキウスは、ロジェたちを見つけるなり馬を飛び降りた。きらきらと揺れる白銀の髪を見て、ロジェは口の端を強く結ぶ。

 ルキウスの姿を見たら、張り詰めていた気持ちが一気に緩んでしまった。今すぐ駆け寄って、その胸に縋りたい。
 しかし、スヴェラにナイフを突きつけている今の状況で、それが出来るはずもなかった。どんな言い訳も通用しないだろう。

「助けてください、兄さま!」

 スヴェラが縋るような表情を浮かべ、ルキウスへと訴える。

「この男は、裏切り者です! 第三騎士団長と密会し、何かやり取りしていたのも目撃されています! ロブルースとの繋がりもあったんですよ⁉」
「……」

 ルキウスはスヴェラの言葉を受け、眉根に深い皺を寄せる。
 スヴェラの用意した証拠を見れば、ルキウスもロジェへ疑いの目を向けるだろう。今のところ確たる証拠は無いため、真実かどうか調査が行われる事になる。

 状況を鑑みれば、大人しく身柄を拘束される方が賢明かもしれない。自分が無実だという証拠は、アカツキに頼めばいくらでも提供してもらえる。
 しかしロジェにその選択肢はなかった。今ここで、絶対に捕まるわけにはいかない。

 じり、とロジェが後ずさりすると、ルキウスが結んでいた唇を解く。
 彼は「ロブルース」と「第三騎士団長」という言葉を呟いたあと、確信を持った顔でロジェを見返した。
 
「シン……やはりお前……『折れない止まり木アンブロークン・パーチ』か?」
「……っ⁉」

 違う、と言いたかったが、声が出なかった。動揺を隠せず、目の前がぐらぐらと揺れる。
 そんなロジェを宥めるように、ルキウスはいつも以上に穏やかな声色で話す。

「やはりそうか。……少し前に、ザザドが気付いたんだ。お前の筆跡の癖が、匿名の支援者である折れない止まり木アンブロークン・パーチに似ていると。……俺への襲撃の情報を、密に第三騎士団長へ流してくれていただろう。ロブルースだけではなく、各地の敵対情報も送られて来ていた。……ずっとその正体が知りたかったが……お前だったんだな、シン」
「……っ、ちが、」
「お前は俺に嘘を吐けない。……認めろ、シン」

 頭を横に振りながら、ロジェはスヴェラに突きつけていたナイフを離した。スヴェラを解放し、今度は自分の喉元にナイフを突きつける。
 ルキウスの雰囲気が、一気に張り詰めるのを感じた。

「シン、どうしてだ。どうしてお前は、本当の自分を隠そうとする?」
「……それ以上近付くと、僕は死にます」

 ぐっと喉元にナイフを近付け、ロジェは力強く言い放つ。ルキウスは足を止めたあと、平然と言い放った。

「お前が死ねば、俺も後を追うが、それで良いか?」
「……っ! な、なにを馬鹿な事を……!」
「馬鹿はお前だ、シン。さっさと俺の事を信じて、身を任せろ!」

 ルキウスが噛みつくように言い、一歩踏み出した。ロジェは頭を振りながら、少しずつ後ろへ下がる。
 自分だって分からない。全てをルキウスに話して、受け入れてもらえば良いのかもしれない。

 けれど、離れていた期間が長過ぎた。
 何もかも諦めて、自分を納得させていた期間が重すぎた。
 『ルキウスの隣にはいられない』という自身に掛けた呪いが、どうしても解けない。

 何より、守り続けていたが、暴かれるのが怖い。

「……っお願いです、ルキウス様……。……どうか、アカツキに帰らせてください……僕は帰らないといけないんです……!」
「嫌だ、と言ったら?」
「消えます。何としても。どんな手を使っても」

 狡い言い方だ、と自分でも嫌気がさす。
 『____ 俺の前から消えるな』 
 ルキウスがずっとロジェに言い聞かせてきた言葉だ。その言葉を質にして、ロジェは彼を脅している。
 しかしロジェは、どうしても帰らなければならない。

(……第三騎士団との関わりが露呈した。……だめだ、それだけは……)

 様子を窺っていたスヴェラだったが、ここに来て我慢ならないとばかりに声を上げる。

「兄さま、まさかその男を逃がすおつもりですか⁉ まだ彼の疑いは晴れていないんですよ!」
「……彼だけは違うと断言できる」
「疑わしい部分があるのであれば、追及すべきでは? これだけの怪しい人物に秘書官をさせていたのですから、あの……『フレズベルグ』の情報も流しているかもしれないんですよ⁉」
「……フレズベルグ……?」

 ルキウスの声が一層低くなり、スヴェラは肩をびくりと揺らす。近くにいたロジェさえ冷やりとするぐらい、それは冷たい声だった。

「あれを知っているのか?」
「……え、ええ。幼い頃、母上と父上が話しているのを聞いたのです。……スコル族と同じく、大鷲の魔獣を始祖にもつ魔族ですよね? 母が死ぬ間際、兄さまがフレズベルグを従えていたと。そしてその恐ろしさも、ずっと訴えていて……」
「なるほど、姉上が……。そうか。……お陰で……確信が持てた」

 ルキウスの視線がロジェへと移る。その瞳はどうしてか寂しげで、いつも凛々しい眉は力を失くしているように見えた。
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