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数週間後。ルキウスは執務室にてルトルクを見下ろしていた。
「_____ ルトルク。本日を以て、護衛の任を解く。……同時に、騎士の称号も剥奪する 。……裁判が始まるまで、知っていることは全部吐け。いいな?」
「……おおせの、ままに……。そして、ねがわくば、牢に、いれてください……」
ルトルクは頭を深く垂れて、その表情は見えない。
ルトルクとルキウスは、幼いころから一緒だった。ザザドと同じく、家族のような存在だ。
そんな彼が、見事なまでにルキウスを裏切っていた。フィオナを神と仰ぐ狂信的な結社の一員であった彼は、間者としてこちらの懐深くに入り込んでいたのだ。
フェルグス家が何を企んでいたのかは想像がつく。フィオナはいつも、ルキウスを配下に加えようと画策していたからだ。
高価な物や奴隷、領地を贈られたこともある。
男が好みそうな貴族女をあてがって、懐に入り込ませようとする企みなど何度繰り返されたことか。しかし権力に興味がないルキウスは、それらに一切靡かなかった。
自らが王座に座りたかったのか、ルキウスを王座に座らせて影の支配者として君臨するつもりだったのか、今となっては分からない。
しかし今回、『偽ロジェ・ウォーレン』が送り込まれてきた事で、青年期にうんざりした事を思い出してしまった。
(……まさか、娘も同じことをするとはな。……それほど、俺は『ロジェ・ウォーレン』に執着していたということか……)
合同訓練中、ルトルクとザザドは近くの村で待機していた。
王兄一派の襲撃にも彼らがいち早く対処し、ルトルクはその時に重傷を負った……という事になっていた。
その負傷も、今となってはルキウスのために戦って付いたものかさえ疑わしい。あの場には、ルトルクの本当の主であるフィオナがいたのだから。
フェルグス家は王兄一派の襲撃に乗じて、何かを仕掛けようとしていた。
大方、ロジェ・ウォーレンを手に入れようとしていたのだろう。しかし計画は失敗し、16年経っても本人を見つけられない。
ロジェが生きている可能性は低いため、偽のロジェを仕立てたのだ。
事の真相は、ほろほろと少しずつだが明らかになっている。
ルキウスは視線を落とし、俯くルトルクを見据えた。憔悴している様子はなく、むしろ晴れやかな雰囲気すら感じる。
(…………今思い返してもみても、こいつに不審な動きはなかった……)
寝室で起きた事については、使用人から詳細を聞いている。ダンやスヴェラも自らの罪を自白し、ルトルクは今や完全に黒だ。
しかしルキウスは今でも、彼が間者だったことを信じられない。
「……良いだろう。牢に入れ」
ルキウスの代わりに、ザザドが言い捨てる。ザザドもルキウスと同じく、彼の裏切りに気付かなかった。
感情がある限り、どこかで綻びが生まれるものだ。ルトルクにはその綻びが驚くほどなかった。
俯いていた顔をさらに下げ、ルトルクは頷いた。そのまま衛兵に連行される姿を見ても、まだ実感が湧かない。
ルキウスはため息を吐いて、頭を抱える。
「……家族と思っていたのは、俺だけだったか」
「そうですね。だと思います」
「おい、随分とはっきり言いやがって。……お前だってそうだろうが」
「……殿下。ルトルクが裏切ったとお思いでしょう?」
ルキウスは思わず顔を上げ、隣にいるザザドを見た。彼はルトルクが去った扉を見据えたまま、こちらと視線を合わせない。
「裏切っていたから、こうして処分したんだろ。お前は何を言っている?」
「……推しが結ばれる相手は、推しが良いんですよ」
「は?」
「裏切っているつもりなんか更々なくて、ただ推しと推しをくっつけたかったんだと思います。俺はそう解釈しました。……やっていることは許されませんが、気持ちは少しだけわかります」
「全然理解が追いつかん。その解釈、合ってるのか?」
ザザドの視線がルキウスへ移り、二人の目がかち合う。二人して執務机に腰を引っ掻け、緊張感のない会話はまだ続く。
「ルトルクはフィオナを崇拝していましたが、同時にあなたの事も愛していたんですよ。フィオナの側にはあなたしか当てはまらず、あなたの主になる人はフィオナしか認めなかった。そのためには手段を選ばない。狂っていますが、この解釈で正解かと」
「……」
「ルトルクからのあなたへの忠誠は、真の物だったと、俺は思います」
腕を組んで、ザザドは納得したように頷く。あたかも真実を話しているかのように語っているが、これはザザドの想定に過ぎない。
ルキウスは呆れ顔を呈しながら笑うと、ザザドも穏やかな笑い声を零した。
「……誰かを愛するという事は、無限の力を与えます。それが失われれば、正に虚無ですよ」
「虚無か……」
ルキウスがロジェ・ウォーレンを愛していたのか。その答えは得られないままだった。
彼を失ったから、ルキウスは心を失ったのかもしれない。
しかし今、ルキウスの心には、シン・アースターがいる。みっちりと隙間なく、彼一色だ。
数週間後。ルキウスは執務室にてルトルクを見下ろしていた。
「_____ ルトルク。本日を以て、護衛の任を解く。……同時に、騎士の称号も剥奪する 。……裁判が始まるまで、知っていることは全部吐け。いいな?」
「……おおせの、ままに……。そして、ねがわくば、牢に、いれてください……」
ルトルクは頭を深く垂れて、その表情は見えない。
ルトルクとルキウスは、幼いころから一緒だった。ザザドと同じく、家族のような存在だ。
そんな彼が、見事なまでにルキウスを裏切っていた。フィオナを神と仰ぐ狂信的な結社の一員であった彼は、間者としてこちらの懐深くに入り込んでいたのだ。
フェルグス家が何を企んでいたのかは想像がつく。フィオナはいつも、ルキウスを配下に加えようと画策していたからだ。
高価な物や奴隷、領地を贈られたこともある。
男が好みそうな貴族女をあてがって、懐に入り込ませようとする企みなど何度繰り返されたことか。しかし権力に興味がないルキウスは、それらに一切靡かなかった。
自らが王座に座りたかったのか、ルキウスを王座に座らせて影の支配者として君臨するつもりだったのか、今となっては分からない。
しかし今回、『偽ロジェ・ウォーレン』が送り込まれてきた事で、青年期にうんざりした事を思い出してしまった。
(……まさか、娘も同じことをするとはな。……それほど、俺は『ロジェ・ウォーレン』に執着していたということか……)
合同訓練中、ルトルクとザザドは近くの村で待機していた。
王兄一派の襲撃にも彼らがいち早く対処し、ルトルクはその時に重傷を負った……という事になっていた。
その負傷も、今となってはルキウスのために戦って付いたものかさえ疑わしい。あの場には、ルトルクの本当の主であるフィオナがいたのだから。
フェルグス家は王兄一派の襲撃に乗じて、何かを仕掛けようとしていた。
大方、ロジェ・ウォーレンを手に入れようとしていたのだろう。しかし計画は失敗し、16年経っても本人を見つけられない。
ロジェが生きている可能性は低いため、偽のロジェを仕立てたのだ。
事の真相は、ほろほろと少しずつだが明らかになっている。
ルキウスは視線を落とし、俯くルトルクを見据えた。憔悴している様子はなく、むしろ晴れやかな雰囲気すら感じる。
(…………今思い返してもみても、こいつに不審な動きはなかった……)
寝室で起きた事については、使用人から詳細を聞いている。ダンやスヴェラも自らの罪を自白し、ルトルクは今や完全に黒だ。
しかしルキウスは今でも、彼が間者だったことを信じられない。
「……良いだろう。牢に入れ」
ルキウスの代わりに、ザザドが言い捨てる。ザザドもルキウスと同じく、彼の裏切りに気付かなかった。
感情がある限り、どこかで綻びが生まれるものだ。ルトルクにはその綻びが驚くほどなかった。
俯いていた顔をさらに下げ、ルトルクは頷いた。そのまま衛兵に連行される姿を見ても、まだ実感が湧かない。
ルキウスはため息を吐いて、頭を抱える。
「……家族と思っていたのは、俺だけだったか」
「そうですね。だと思います」
「おい、随分とはっきり言いやがって。……お前だってそうだろうが」
「……殿下。ルトルクが裏切ったとお思いでしょう?」
ルキウスは思わず顔を上げ、隣にいるザザドを見た。彼はルトルクが去った扉を見据えたまま、こちらと視線を合わせない。
「裏切っていたから、こうして処分したんだろ。お前は何を言っている?」
「……推しが結ばれる相手は、推しが良いんですよ」
「は?」
「裏切っているつもりなんか更々なくて、ただ推しと推しをくっつけたかったんだと思います。俺はそう解釈しました。……やっていることは許されませんが、気持ちは少しだけわかります」
「全然理解が追いつかん。その解釈、合ってるのか?」
ザザドの視線がルキウスへ移り、二人の目がかち合う。二人して執務机に腰を引っ掻け、緊張感のない会話はまだ続く。
「ルトルクはフィオナを崇拝していましたが、同時にあなたの事も愛していたんですよ。フィオナの側にはあなたしか当てはまらず、あなたの主になる人はフィオナしか認めなかった。そのためには手段を選ばない。狂っていますが、この解釈で正解かと」
「……」
「ルトルクからのあなたへの忠誠は、真の物だったと、俺は思います」
腕を組んで、ザザドは納得したように頷く。あたかも真実を話しているかのように語っているが、これはザザドの想定に過ぎない。
ルキウスは呆れ顔を呈しながら笑うと、ザザドも穏やかな笑い声を零した。
「……誰かを愛するという事は、無限の力を与えます。それが失われれば、正に虚無ですよ」
「虚無か……」
ルキウスがロジェ・ウォーレンを愛していたのか。その答えは得られないままだった。
彼を失ったから、ルキウスは心を失ったのかもしれない。
しかし今、ルキウスの心には、シン・アースターがいる。みっちりと隙間なく、彼一色だ。
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