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ルキウスは夜通し馬を走らせ、次の日の朝にはアカツキ領へ辿り着いていた。
馬を止めて周りを見渡すと、朝日に照らされた地平線がどんどんと色を変えていく。
アカツキはこの国で有数の豊かな土地だ。広大な大地は豊かで、鼻には潮の匂いが届く。
(……いい領地だな……。シンはここで育ったのか……)
ルキウスは馬を降り、アカツキ領の主要都市を囲む大きな壁を見上げた。
要塞ともいえるほどの厳重な造りに、アカツキ領主の圧倒的な力が垣間見える。その門を守る衛兵は逞しい男たちで、王都の衛兵にも劣らないほどだ。
しかしそんな衛兵らも、ルキウスの登場には驚いたようだ。身分確認を行っていた衛兵が、驚愕の声を上げる。
「こ、これは、ルキウス殿下……! こ、この度はどうして……」
「私用だ。すまない、こちらには何の連絡も送っていないが……」
「お通し致します」
対応した衛兵だけではなく、周りにいた衛兵らもざわざわと騒ぎ始める。王族が領地を訪れるという事は大事なのだ。
本来なら出迎える準備を整えて、領主自ら王族をもてなさなければならない。
しかしルキウスは今回、完全にお忍びで来ていた。この訪問を知っている者は、第一司令部でもザザドだけだ。
シンにはまだ謎めいた部分が多い。特にアースター家に引き取られる前の記録は、どれだけ調べても出てこなかった。この領地全体が、そしてシン自身も何かを隠している。
それを知りたいがために、こうして抜き打ちで訪れた。もっとも、大仰な出迎えによってシンとの再会を遅らせたくない、というのが一番の理由ではあったのだが。
門を通過したところで、耳にささやき声が届く。
「……あいつが、ルキウス殿下か……」
「ああ、なるほど。あいつが……」
神経を研ぎ澄ませば、こちらへ向けられた目線をいくつも感じる。殺気はないようだが、不穏な雰囲気であることは確かだ。
(……こちらに危害を加える様子ではないが……いったい何だ?)
疑問に思いつつ、ルキウスは門にいた衛兵を振り返る。
「領主の屋敷へ行きたいんだが……」
「今、遣いの者を走らせています。直ぐに迎えが来ると思いますが……」
「いや。自分で行くから、道を教えてくれ」
「では、ご案内いたします。……それと殿下、ひとつ忠告したのですが、よろしいでしょうか」
投げかけられた言葉に、ルキウスは思わず目を見開いた。王族に対して『忠告』などと、不敬とも取られかねない言葉である。相手が悪ければ、その場で首をはねられても仕方がない。
先ほどから感じていたが、この街の人たちにはルキウスに対する恐怖心が無いようだった。それどころか、敵対心のようなものも感じる。
しかし咎める気にはならない。シンが生まれた地で、王族だの何だのと騒ぎ立てる気は一つも無かったからだ。
むしろ、王都とはまったく違う対応をされ、この領地に興味すら湧いてくる。
「忠告とはなんだ?」
「……この街の者は、あなたを見定めていますよ」
「なに? それはどういう……」
「では、ご案内します」
衛兵はルキウスの言葉を遮った上、何事も無かったかのように歩き出した。
目指す先は間違いなく公爵邸のようで、進む道も大通りばかりだ。怪しい動きはない。
街中を見回すと、半魔の姿も多く見受けられた。
驚いたことにヒト族も暮らしているようで、彼らは魔族と一緒になってせっせと働いている。他の町では見られない光景だ。
この街でシンはどんな暮らしをしていたのか。想像しながら歩くと、刺々しい視線も気にならなくなる。
思えばルキウスは、シンがどんなものを好むかも多く知らなかった。彼がどんな店に通っていたのか想像できないのが、残念でならない。
(……帯剣許可証を持っているから、武器屋には通っただろうか……。武器屋はどこだ? 道具屋は?)
街中にシンの影を探しているうちに、ルキウスはあっという間に公爵邸にたどり着いた。
出迎えたのは、晩餐会にも出席していたクラディルだ。
「父は中でお待ちしています」
「……その顔はなんだ。不服そうだな」
「いえ、実はそうでもありません」
クラディルは口元を捻じ曲げて、いかにも不服そうな表情をしている。拗ねているといった方が正しいかもしれない。
その表情のまま歩き出すものだから、ルキウスも仕方なく彼の後を追う。クラディルは歩きながら、ぽつりと漏らした。
「しかし残念です。まさか殿下自ら、単独でお迎えにいらっしゃるとは……」
「何だと?」
「『王都に戻れ!』……とかいう命令一つでシンを呼び戻すような事があれば、我が一族総力を決して立ち向かう気でありましたのに……。まさかこうも誠実な姿勢で、しかも護衛もつけずお越しになるなんて……。悔しいです」
ち、と舌打ちでも聞こえてきそうな雰囲気で、クラディルはぽつぽつと愚痴を零す。
そんなクラディルの姿を見ながら、ルキウスは気付いた。今の自分は、恋人の実家に初訪問しているような立場なのだと。
愛する息子を奪おうとしている男を、皆で見定めているのだ。剣呑な視線もそう考えると頷けるが、まさか街全体から警戒されるとは思わなかった。
「……シンは、ここで愛されていたんだな」
「勿論でございます。あいつは本当に可愛いやつですから」
クラディルは屋敷の回廊を突っ切り、中庭へと出た。
花々が咲き誇る通路を進んでいると、突き当りにガゼボが見える。そこで茶を嗜んでいたのは領主である、ジョルノ・アカツキだ。
ジョルノは立ち上がると、ルキウスへ向けて恭しく頭を下げる。
「ようこそ、ルキウス殿下。来て頂けると確信しておりました」
「……悪いが……長話は後にしたい。ひとつだけ教えて欲しい」
「シンの居場所でしょうか? それならば、この屋敷の隣にある診療所に行くといいでしょう。シンは今、そこに滞在しております」
ジョルノは驚くほどあっさりと、シンの居場所を明かす。
領民の反応からして、もっと渋られるかと思っていた。ルキウスは、拍子抜けしながらも言葉を返す。
「助かった、礼を言う。……シンと話し、また改めてこちらに立ち寄らせてもらう」
「お待ちください」
ジョルノの声に引き留められ、ルキウスは振り返る。彼はガゼボから、こちらをじっと見据えていた。
「ルキウス殿下。本当にシンは、あなたを一番に愛しているとお思いですか?」
「……どういう意味だ?」
「このアカツキには、第三騎士団の分隊があります。シンが第三騎士団と繋がりが深いのは、もうあなたもご存じでは? そこにシンの大事な人がいるとは考えなかったのです?」
「……っ」
スヴェラが漏らしていた、第三騎士団長とシンの繋がり。その情報について、ルキウスは詳しい調査を行っていなかった。シン本人の口から、その詳細を聞きたかったからだ。
しかしながら、随分と親しげだったという情報は耳に入っていた。気が気でなかったのは確かである。
「……」
「あなたはシンの事を知らなさ過ぎる。しかしこうして来てくださったという事は、あの子の全てを受け入れてくれるという事だと、私たちは判断しています。……しかしながら、あなたがまた、あの子を傷つけるというのであれば、全力で排除いたしますので……ご覚悟を」
「……また?」
「おっと、口が滑りました」
ジョルノは口元に笑みを浮かべ、自身の唇に人差し指を押し当てた。垂れ目の奥は剣呑な光が灯っていて、心の奥底では何を考えているか分からない。
ルキウスは踵を返し、中庭を突っ切る。
『____ ルシオ』
シンの声が胸に過る。
もしもそれが、シンの愛おしい男だとしたら。そしてそいつがもし、第三騎士団にいたとしたら。
夢中になったのはルキウスだけで、彼を強制的に番にしてしまったとしたら。
愛に溢れていた『巣』でさえ、本能に抗えずやってしまったことだとしたら。
「……っくそ、胸が痛い……っ」
シンを愛するようになって、救いようのない痛みを胸に覚えるようになった。呪いのような痛みは、きっとシンにしか癒せないのだろう。
そんな彼に拒否されたらと考えると、言いようのない恐怖が湧き上がって来る。
ルキウスは夜通し馬を走らせ、次の日の朝にはアカツキ領へ辿り着いていた。
馬を止めて周りを見渡すと、朝日に照らされた地平線がどんどんと色を変えていく。
アカツキはこの国で有数の豊かな土地だ。広大な大地は豊かで、鼻には潮の匂いが届く。
(……いい領地だな……。シンはここで育ったのか……)
ルキウスは馬を降り、アカツキ領の主要都市を囲む大きな壁を見上げた。
要塞ともいえるほどの厳重な造りに、アカツキ領主の圧倒的な力が垣間見える。その門を守る衛兵は逞しい男たちで、王都の衛兵にも劣らないほどだ。
しかしそんな衛兵らも、ルキウスの登場には驚いたようだ。身分確認を行っていた衛兵が、驚愕の声を上げる。
「こ、これは、ルキウス殿下……! こ、この度はどうして……」
「私用だ。すまない、こちらには何の連絡も送っていないが……」
「お通し致します」
対応した衛兵だけではなく、周りにいた衛兵らもざわざわと騒ぎ始める。王族が領地を訪れるという事は大事なのだ。
本来なら出迎える準備を整えて、領主自ら王族をもてなさなければならない。
しかしルキウスは今回、完全にお忍びで来ていた。この訪問を知っている者は、第一司令部でもザザドだけだ。
シンにはまだ謎めいた部分が多い。特にアースター家に引き取られる前の記録は、どれだけ調べても出てこなかった。この領地全体が、そしてシン自身も何かを隠している。
それを知りたいがために、こうして抜き打ちで訪れた。もっとも、大仰な出迎えによってシンとの再会を遅らせたくない、というのが一番の理由ではあったのだが。
門を通過したところで、耳にささやき声が届く。
「……あいつが、ルキウス殿下か……」
「ああ、なるほど。あいつが……」
神経を研ぎ澄ませば、こちらへ向けられた目線をいくつも感じる。殺気はないようだが、不穏な雰囲気であることは確かだ。
(……こちらに危害を加える様子ではないが……いったい何だ?)
疑問に思いつつ、ルキウスは門にいた衛兵を振り返る。
「領主の屋敷へ行きたいんだが……」
「今、遣いの者を走らせています。直ぐに迎えが来ると思いますが……」
「いや。自分で行くから、道を教えてくれ」
「では、ご案内いたします。……それと殿下、ひとつ忠告したのですが、よろしいでしょうか」
投げかけられた言葉に、ルキウスは思わず目を見開いた。王族に対して『忠告』などと、不敬とも取られかねない言葉である。相手が悪ければ、その場で首をはねられても仕方がない。
先ほどから感じていたが、この街の人たちにはルキウスに対する恐怖心が無いようだった。それどころか、敵対心のようなものも感じる。
しかし咎める気にはならない。シンが生まれた地で、王族だの何だのと騒ぎ立てる気は一つも無かったからだ。
むしろ、王都とはまったく違う対応をされ、この領地に興味すら湧いてくる。
「忠告とはなんだ?」
「……この街の者は、あなたを見定めていますよ」
「なに? それはどういう……」
「では、ご案内します」
衛兵はルキウスの言葉を遮った上、何事も無かったかのように歩き出した。
目指す先は間違いなく公爵邸のようで、進む道も大通りばかりだ。怪しい動きはない。
街中を見回すと、半魔の姿も多く見受けられた。
驚いたことにヒト族も暮らしているようで、彼らは魔族と一緒になってせっせと働いている。他の町では見られない光景だ。
この街でシンはどんな暮らしをしていたのか。想像しながら歩くと、刺々しい視線も気にならなくなる。
思えばルキウスは、シンがどんなものを好むかも多く知らなかった。彼がどんな店に通っていたのか想像できないのが、残念でならない。
(……帯剣許可証を持っているから、武器屋には通っただろうか……。武器屋はどこだ? 道具屋は?)
街中にシンの影を探しているうちに、ルキウスはあっという間に公爵邸にたどり着いた。
出迎えたのは、晩餐会にも出席していたクラディルだ。
「父は中でお待ちしています」
「……その顔はなんだ。不服そうだな」
「いえ、実はそうでもありません」
クラディルは口元を捻じ曲げて、いかにも不服そうな表情をしている。拗ねているといった方が正しいかもしれない。
その表情のまま歩き出すものだから、ルキウスも仕方なく彼の後を追う。クラディルは歩きながら、ぽつりと漏らした。
「しかし残念です。まさか殿下自ら、単独でお迎えにいらっしゃるとは……」
「何だと?」
「『王都に戻れ!』……とかいう命令一つでシンを呼び戻すような事があれば、我が一族総力を決して立ち向かう気でありましたのに……。まさかこうも誠実な姿勢で、しかも護衛もつけずお越しになるなんて……。悔しいです」
ち、と舌打ちでも聞こえてきそうな雰囲気で、クラディルはぽつぽつと愚痴を零す。
そんなクラディルの姿を見ながら、ルキウスは気付いた。今の自分は、恋人の実家に初訪問しているような立場なのだと。
愛する息子を奪おうとしている男を、皆で見定めているのだ。剣呑な視線もそう考えると頷けるが、まさか街全体から警戒されるとは思わなかった。
「……シンは、ここで愛されていたんだな」
「勿論でございます。あいつは本当に可愛いやつですから」
クラディルは屋敷の回廊を突っ切り、中庭へと出た。
花々が咲き誇る通路を進んでいると、突き当りにガゼボが見える。そこで茶を嗜んでいたのは領主である、ジョルノ・アカツキだ。
ジョルノは立ち上がると、ルキウスへ向けて恭しく頭を下げる。
「ようこそ、ルキウス殿下。来て頂けると確信しておりました」
「……悪いが……長話は後にしたい。ひとつだけ教えて欲しい」
「シンの居場所でしょうか? それならば、この屋敷の隣にある診療所に行くといいでしょう。シンは今、そこに滞在しております」
ジョルノは驚くほどあっさりと、シンの居場所を明かす。
領民の反応からして、もっと渋られるかと思っていた。ルキウスは、拍子抜けしながらも言葉を返す。
「助かった、礼を言う。……シンと話し、また改めてこちらに立ち寄らせてもらう」
「お待ちください」
ジョルノの声に引き留められ、ルキウスは振り返る。彼はガゼボから、こちらをじっと見据えていた。
「ルキウス殿下。本当にシンは、あなたを一番に愛しているとお思いですか?」
「……どういう意味だ?」
「このアカツキには、第三騎士団の分隊があります。シンが第三騎士団と繋がりが深いのは、もうあなたもご存じでは? そこにシンの大事な人がいるとは考えなかったのです?」
「……っ」
スヴェラが漏らしていた、第三騎士団長とシンの繋がり。その情報について、ルキウスは詳しい調査を行っていなかった。シン本人の口から、その詳細を聞きたかったからだ。
しかしながら、随分と親しげだったという情報は耳に入っていた。気が気でなかったのは確かである。
「……」
「あなたはシンの事を知らなさ過ぎる。しかしこうして来てくださったという事は、あの子の全てを受け入れてくれるという事だと、私たちは判断しています。……しかしながら、あなたがまた、あの子を傷つけるというのであれば、全力で排除いたしますので……ご覚悟を」
「……また?」
「おっと、口が滑りました」
ジョルノは口元に笑みを浮かべ、自身の唇に人差し指を押し当てた。垂れ目の奥は剣呑な光が灯っていて、心の奥底では何を考えているか分からない。
ルキウスは踵を返し、中庭を突っ切る。
『____ ルシオ』
シンの声が胸に過る。
もしもそれが、シンの愛おしい男だとしたら。そしてそいつがもし、第三騎士団にいたとしたら。
夢中になったのはルキウスだけで、彼を強制的に番にしてしまったとしたら。
愛に溢れていた『巣』でさえ、本能に抗えずやってしまったことだとしたら。
「……っくそ、胸が痛い……っ」
シンを愛するようになって、救いようのない痛みを胸に覚えるようになった。呪いのような痛みは、きっとシンにしか癒せないのだろう。
そんな彼に拒否されたらと考えると、言いようのない恐怖が湧き上がって来る。
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