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24 リマ王国へ
しおりを挟む昼の2時、宿屋カンデールの宿泊カウンターにリュウの姿があった。
ベテランスタッフのアデレードは、手際よく業務をこなす。
「一週間、宿泊の延長をお願いできますか?部屋は変わっても構わないので」
「確認いたします。…えぇと、今のお部屋の契約が今日までになりますので…明日から一週間ですね、承りました。
今でしたら3階の小さめのお部屋もご用意できますが、ご変更なさいますか?」
しばらく不在にするので…と、リュウは3階に移ることを決めた。
「今日までの分は一度精算します。次は戻るのが少し先になるから…。荷物は3階の部屋へ移しておいてもらえます?」
「承知いたしました」
リュウは一つだけ荷物を背負い、軽装で1階の食堂に行く。
「ルカさん、できてる?」
昼食時に注文しておいた大量のサンドイッチ。そろそろいい頃合いだろう…と、受け取りにやって来た。
「おー、持ってって!」
たっぷりの野菜と、甘タレに漬けた柔らかい肉との相性は抜群。
ルカ特製サンドイッチをアイテムボックスに詰め込み、ガンダナ王国を発つ前にギルドへ立ち寄る。
薬草採取の依頼は無事完了済みと確認されていたため、予定通りの報酬を受け取ることができた。これで…路銀も十分だ。
──────────
この大陸の中で、国境を頑丈な壁で取り囲み護っている国は…帝国、獣人国のナビア王国、ガンダナ王国の3つ。
国力を高め発展させた偉大な国ばかりである。
そして、自然の国境といわれる山や森林、河川などで隔てられているのは…帝国の属国やエルフの国。
壁を持つ国では、出入国の際に身元などの審査を受ける手続きが必要となっており、監視と管理の行き届いた国内の暮らしは安心度高めといえる。
出入国ゲートは壁に沿って数多く設けられ、人や出店で毎日賑わっている。
それ以外の国では、主に行商人や他国からの訪問者などが出入国手続きの対象となっているが、身分証の登録といった比較的簡単な手続きで済む。
国内での宿泊や公的機関の利用、物品の購入など…身分証の提示が必要なことは意外と多い。
入国手続きをしていない者は弾かれてしまうため、皆迷わず手続きをする。
──────────
リマ王国に入国して、しばらくは乗り合い馬車に揺られていたリュウだが…中心街のマレッシオに近い村で馬車を降りた。
「あーやっぱり馬車は疲れるなぁ」
客のほとんどはマレッシオを目指すため、馬車が去っていくと…リュウは道端に1人ポツンと取り残された感じになった。
「…さて、…と」
リマ王国では『リュウ』として行動はしない。
村から少し外れた林の中で…名を『龍崎』に変える。
髪色が黒に戻り、右の耳には魔力タンクである虹色のドロップピアスが現れる。
顔はそのままなので、見た目を変えるために魔法を発動する。
あっという間に髪はアッシュブラウンの短髪に、瞳は緑へと変わった。
仕上げは服装。
アイテムボックスでパパッと旅に適した軽くて動きやすい服装をコーディネートし、特殊機能を使い着替える。
生着替えは…ここでは流石に無理。
「うん、いいんじゃないか。その辺にいる若い旅人だ!…髪が短いのもアリだなぁ…」
リュウ…いや、龍崎は…仕上がりに大満足。
ここから、フィリーライツ子爵家を一気に目指すことにする。
「ナイト」
『主、お呼びですか』
龍崎の【影】が、主の呼びかけにザワザワする。
「お前が守りたいという“あの方”のために、ちょっと力を貸してもらおうかな」
『御意』
【影】に手をかざすと、瞬時に黒い馬の形となった。ユラユラと輪郭が揺れ動く不気味さは…ご愛嬌だ。
サッと黒い馬に跨がる。
「…ナイト、こう…手綱みたいなのが…欲しい」
『御意』
ユラユラと黒い馬の体から紐状の【影】が現れる。
「うん、馬っぽいな。俺のイメージも悪くない…ははっ!よし、行こう!」
本当の馬ではない。
見た感じや動きは馬そのものだが、スムーズに進んで振動がないという…これは…メ◯ーゴーランド…?
…夢のような不思議な乗り物…である。
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