目立たず平和に暮らしたい最強冒険者、貴族令嬢の家出に巻き込まれる。

miy

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29 闇の魔法使い(旅の2日目夜:龍崎side)


俺は指を鳴らし…魔法陣のエフェクトをパッと消す。

ついでに、この家にも小さな魔法陣を貼り付けておこう…また来るかもしれないから。


「お前は…本物の魔法使いか?」

「はい」

「お前…いや、君が…破落戸たちからアドリアナを助けてくれたのか?」

「まぁ…そうです」

「アドリアナの父と母に代わって、心から感謝する」


俺を信じることにしたのかな?
勢いよく頭を下げるジョージの姿を見てそう思った。


「アドリアナさんは、お母さん似ですよね?」

「あぁ…最近、ますます似てきたな」

「離縁されてから、一切関係を持たなかったのですか?」

「……そうだ……何でもご存知だな」

「何か理由が?」

「……君は魔法使い、だよな……」


ん?さっきもそう聞いていましたよ…?


「アドリアナの母親は、貧しい田舎の村出身の平民だった。
当時…次期領主という立場だった兄さんは、領地の視察先の教会で祈りを捧げていた彼女をひと目見て気に入り…強引に邸へと連れ去った。

アドリアナを生んだ後、反対はされたが2人は結婚したよ。それから間もなくして、彼女の…アイリーンの過去が明らかになったんだ」

「アイリーンさんっていうんですね」


ジョージが頷いて、暗い瞳で俺を見た。


「昔、その田舎の村には…厄災“悪しき魔女”と呼ばれ、追放された…少女がいた。その少女の名は…アイリーン」


ジョージは明らかに言い淀んでいた。

まぁ…会ったばかりの俺に気軽に話せる内容ではないか。


「魔女…ですか」

「魔女だと知られたアイリーンは、その日に離縁したいと言ってきたそうだ。そもそも結婚を反対されていたから、あっさりと離縁して…まるで逃げるように…」

「アドリアナさんを手放して、出て行ったんですね」


魔女だから…と、子爵家はその後の繋がりを断ち切った。

そもそも勝手に攫ってきて、子を孕ませて、無理やり結婚しといて…何だ?
ライアンは、貴族は何をしてもいいと思っているバカか?


「あぁ。その短い結婚生活ですら、幸せそうではなかったがな。いつも怯えて不安そうで…魔女だと隠していたからかもしれない。
アドリアナを可愛がってはいたが…アイリーンがあの子に残したのは、小さなネックレスひとつだけだった」

「ネックレス…?」

「そう、アドリアナはいつも身に着けているよ…今となっては形見だ」

「アイリーンさんは魔法で誰かを傷付けたりしましたか?街を破壊したり、子爵家を呪ったりは?」

「いや。両親は流行り病で相次いで死んだ…呪いなどではない。
しかし…魔女とはさすがに驚いた。
兄さんは“誘惑された”と…後になって騒いでいたよ。私にはその辺りよく分からないが」

「……………」


ライアンは随分と勝手な男だ…ポンコツ確定。



下位貴族と平民の結婚は、純愛ならばまだ受け入れられるが…話を聞く限りそれはない。

身分は勿論、出自もその立場に響くのが貴族だ。
魔女であろうとなかろうと…そのよからぬ“噂”は社交の場で格好の餌食になり、誰かしらの記憶の中で長く残るものとなるだろう。



「君は魔女を知っているかい?魔法使いだというから…その…話を聞いたことはあるのかと」


『魔女』という禁忌のワードを聞いてもさほど驚かない…どちらかといえば薄い反応の俺を見て、ジョージは気になったようだが…俺はこれが通常だ。


「その田舎でいう魔女とは…多分“闇の魔法使い”のことですね。それを悪しき魔女などと呼ぶ…捻れて間違いだらけの言い伝えが染み付いた土地だと思います。

アイリーンさんは…勝手に魔女扱いされた被害者・・・に他ならない。
自分は厄災であり魔女なのだと…幼い少女は思い込んでしまったことでしょう。気の毒に」



悪事を働く女性の魔法使いを魔女と呼ぶ。

しかし、それは闇の魔法使いとは全くの無関係。

稀な属性である闇の魔法使いは、光の魔法使いや聖魔法とは両極として存在する。
そのイメージからか誤解され、魔女だと悪く表現されることが田舎では多くあった。



「は?…魔女では…ない?…闇の魔法使い?」

「今では、10年に1人しか現れないとまでいわれている…光属性の対となる貴重で稀有な魔法使い。

それが彼女の正体です」


俺の言葉に…ジョージは息を呑んだ…。


正確には、闇の魔法使いになるはずであった…だろうか?…非常に残念なことである。


「闇の魔力持ちは、魔女でも悪魔でもありません。
帝国をはじめ…どの国でもそう教育していますし、どんな田舎の教会にも触書はあるはず。…無知は罪…ですよ」

「…そう…だったのか……」

「アイリーンさんは、悪しき魔女と呼ばれる自分を子爵家から切り離そうと離縁を願い出た。自分は厄災だから…可愛い娘を守るためにはその選択しかないと考えたんですよ。
…放浪癖?…あるはずがない。それは、こじつけです」

「………………」




「魔法は、使い方を間違えれば“悪しき力”となります。

その村には、大昔に悪い女魔法使いがいたのかもしれないですね。
魔女を忌み嫌うのは仕方がない…でも、何も知らない者が勝手に魔女を決めていいのでしょうか?」

「…それは…」

「村人たちは、罪のない少女を1人不幸にしました。

闇の魔力はとても強い。

少女が負の感情に取り込まれていたら、最悪の場合は魔力暴走を引き起こして大惨事…本当に…悪しき魔女となっていたかもしれません」

「わ…私たちは…聞いた話を鵜呑みにしてしまった…」


ジョージは当時のことを思い出しているのか…目を閉じて黙り込んでしまう。


「魔力持ちが少ないからこそ、細心の注意を払うべきなのです。
“悪しき力”に人々が脅かされることのないように、強い魔力を持つ者は帝国で正しい教育を受ける必要がある。

村から追い出し、その機会を奪うなど…以ての外ですよ」


そう淡々と話す俺の顔を、ジョージが見ることはなかった。


──────────


追放された幼い少女はどうやって生き延びたのだろう。
ただ静かに暮らしていた…そんな生活を踏み荒らしたのは誰だったのか?


俺は化け物だが、その姿を隠す術を持っている。

でも…もし、隠す術がなかったら?
少女と同じように、自分の力に怯え…人目を避けて生きるしかなかったのではないだろうか…。

周りが正しい知識を持ち、無垢な子供に知恵を与えてくれていたら…その人生は違ったものになったのでは…と、そう思わずにはいられない。


それにしても…お前の“鼻”は大したものだよ、ナイト。




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