31 / 75
閑話2
私はジョージ(男)。
リマ王国の騎士団に所属している。
フィリーライツ子爵家当主であるライアン兄さんの一人娘、アドリアナが行方不明になって数日が経つ。
知らせを受けて急ぎ駆け付けはしたが…アドリアナは逃げ、詐欺グループには金を取られ…全てが手遅れだった。
兄さんは浅薄な人だ。
婚約破棄の慰謝料を狙われていたのなら、遅かれ早かれ被害にはあっていただろうと思う。
それにしても、急場を凌ぐためとはいえ…貴族令嬢がたった1人で邸を出て行くとは…。
執事のアーノルドが言うには、アドリアナのデビュタント準備のために若い侍女を半年前に雇い入れたが、不運にも骨折して田舎で療養中。子爵家には、同行に適した使用人がいなかったのだとか。
今さらそこを責めることはできないし、引き止めてもアドリアナが決行した可能性は高い。
しかし、ここまで見付からないとは…悪い想像ばかりが頭をよぎる。
王国外へ出た記録もなく、目撃情報はゼロ。
マレッシオより遠くの街へなど行けないはず…一体これ以上どこを捜せばいいのか?と、途方に暮れる。
──────────
そんな時、酒場でおかしな男に出会った。
私がフィリーライツの家の者だと知っていて…声をかけてきたのだ。
「敵ではありません。…ご令嬢が行方不明でお困りかと思いまして…」
きれいな顔をした見知らぬ男がそう言う。
男は魔法使いだったが、緑に光る瞳は妙に鋭く…なぜだかゾッとした。
不覚にも私は怯んだ…この魔法使い、簡単に信用してはならない。
「子爵家ご当主が詐欺にあいましたね?」
「娘を売る契約をしたそうですね?」
アドリアナが行方不明という噂は街全体に広まっていたが…その理由は伏せられている。知っているはずがないのに。
「当事者から聞いたんです」
疑わしい部分はあるが、この魔法使いがアドリアナと接触したことに間違いはないように思った。
今、情報は喉から手が出るほど欲しい。
──────────
私は、跡継ぎとして育てられた兄のライアンとは違い、自由に生きてきた。
まぁ…自由とは…放置と同義だが…。
異性に興味を持つ年ごろになると、いつも女性に囲まれている兄さんを羨む気持ちとは別に…権力に群がる女性に嫌悪感を抱くことも多くなっていった。
その余波だろうか…今も未婚だ。
「あなたの年齢で騎士団所属だと、もう少し華やかな暮らしかと思いましたけど…」
そう言われても…私は今の生活を変えたいと思ってはいないし、恋愛相手もいなければ結婚する気もない。
使わない金は貯まっていく一方だ。
「それより…話を聞かせてくれ」
話してみて驚いた。
この魔法使いはとても冷静で話に無駄がない。魔力が高いと知力も高いのか?私とは次元が違うのだろうか。
「…その拉致には、フィリップ・バーグリッツという男が絡んでいると思っています…」
話の内容に頭が追い付いていかない。
そんな突拍子もない話を、まるで見てきたかのように説明するとは…この魔法使いこそ詐欺師なのではないか?
いや、騙すつもりならもっと上手いやり方がある…まさか…本当に見てきたのか?
「金や爵位ではなく、アドリアナさんが欲しいんですよ…」
アドリアナは、今なお狙われているという。
ライアン兄さんは、しっかり教育を受けたはずだが…貴族としても領主としてもどこか不十分な人だ。
アドリアナがこの魔法使いに助けられて無事でいるのだとすれば…そちらのほうが安全なのではないか?
私はこの若い魔法使いを信じてみることにする。
──────────
ひょんなことから…アドリアナの母親、アイリーンの話になった。
子爵家では口に出せない話題だが…隠さずありのままに話した。
アドリアナの母親なのだ…理由はどうあれ、不憫に思う気持ちが心の片隅にあったのかもしれない…。
「今では、10年に1人しか現れないとまでいわれている…光属性の対となる貴重で稀有な魔法使い。
それが彼女の正体です」
『アイリーンは魔女だ』兄さんはそう言った。自分は惑わされていた…と。
その判断の材料となったのは…親交のない村人から聞いた噂話と、魔女は悪だ!という心像だけ。
それだけで、悪しき魔女であることを隠していたと…アイリーンを責めた。
その話が間違っているかもしれないと…考えることも気付くこともなかった。
「アイリーンさんは、悪しき魔女と呼ばれる自分を子爵家から切り離そうと離縁を願い出た。自分は厄災だから…可愛い娘を守るためにはその選択しかないと考えたんですよ。
…放浪癖?…あるはずがない」
そんなことも分からなかったのか?と、笑われている気がした。
ついさっきまでアイリーンの名前すら知らなかった魔法使いは、私の話を聞いただけで全ての真相を読み解いたのだ。
あの時…なぜ私は疑問に思わなかったのか…
『魔女ではない』と、なぜ誰もアイリーンに言ってやらなかったのか…。
ライアン兄さんだけが愚かだったのではない。
私も…何も確かめず、ただ見ないふりをして忘れ去ったではないか。
「まぁ、貴族の権力も…平民の悪意も…人を地獄に突き落とすことはできる。
俺は…それも“悪しき力”だと思いますが…」
魔法使いは最後にそう言って…私の目の前から一瞬で消えた。
あなたにおすすめの小説
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜
犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。
これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。