貪婪

伊織庵

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ホワイト企業に勤める「香織」は、今が人生のピークだと感じでいる。 というのも、職場の人間関係は上々、業績も特別悪いわけではないから。 学生の頃は成績は下から数えたほうが早く、クラスになじめていなかったため、休み時間や業後は、よく先生と過ごしていた。そんな彼女が今ではそこそこ良い暮らしをしている。ストレスなんてものは数年間感じていない。今が幸せのはずだった。

 彼女はいつものように6時半に起床し、朝ごはんにピザトーストを食べた。お風呂に入り、歯磨きをして、出勤の準備をしていた。いつもと変わらない朝。家を出た後、駅に向かい、二駅で降りて職場に向かう。特に大きい失敗も無く、定時で帰る。帰りにカフェに寄り、帰宅する。いつもと変わらない日。明日もきっと変わらない。そう願っていた。

 次の日、いつも様に起床し、準備して会社に向かう。もちろん大きい失敗も無くその日も終える。不変の日。 今日もカフェに向かいホットコーヒーを頼み、店内で嗜む。

「すいません、横いいですか?」見知らぬ人だった。でも何か懐かしい雰囲気はした。だから学生の頃の同級生か何かで、確かめるために座ってきたんだと思っていた。しかし、彼の口からは「同級生」「同じ学校」なんて単語は出てこなかった。 平たく言えば、「一目惚れ」、付き合ってほしいらしい。 案の定彼女は困惑している。知らない人にそう言われれば誰だって困惑するはず、しかも彼女は告白自体初めてされたのだ。彼女自身から告白するのは過去に数回、片手で数えるほどだが存在はしていた。

 彼の勢いは香織の守りを超えていたため、連絡先を交換してしまった。後に彼はカフェを去っていった。香織は冷えたホットコーヒーを飲み、放心状態で帰宅した。

「これは、詐欺…?私はこれから誘拐されてあんなことやこんなことされるの…?」あまり、告白されることに脳の容量を使ってこなかった香織は、「最悪の事態」を考えてしまって、その日はぐっすり眠れなった。

 約4時間後、起床の時間。今日は休みなので、家でゆっくり映画でも見ようかと思っていたが、スマホを見ると何件かメッセージが来ていた。ちょうど4時間半前、放心状態だったときだろう。恐らく昨日会った人から「これからよろしくね」といったメッセージが綴られていた。 もう恋人になったかのように、彼は恋人の間でしか使わないであろうスタンプを使っていた。

 警察に通報しよう、だけれども、やり方がわからない。というか、この場合は通報したほうがいいのか…香織は迷っていた。半ば強制ではあったけど、連絡先の交換を承諾したのは自分ではあるし、責任?はとっておいたほうがいいのか。訳のわからないことを考えながら、思い切って遊び半分のメッセージを送ってみた。「メッセージありがとう♡こちらこそよろしくね!!」

 その後もある種のパフォーマンスのように、彼とメッセージを続けていた。 ちなみに今日見ようと思っていた、アクション洋画の存在をとっくの昔に忘れていた。スマホという1枚の壁を隔てた上での会話はそこまで緊張することなく、割と楽しい時間が流れていく。 彼は香織の好みを知っているんじゃないかと思うほど趣味が合っていたり、何故か、香織の好みに理解があった。客観的に見れば、気味が悪いほどに。でも恋する乙女は、もう既に自分の世界に入っている。昨日の放心状態が嘘だったかのように次の休みにデートに行く約束をしていた。都合の悪いことはまるで記憶がなくなったかのように異様なほどに早い展開。

 一週間後、香織は服選びに熱心。その姿は今から王子に合うお姫様みたいだった。 落ち合う場所はあのカフェ。予定の時間より数十分早めに来てしまった。カフェでホットコーヒーを飲んでいると、約束の時間になっても来なかった。メッセージを見ても、昨日の「明日楽しみ!!」という香織のメッセージで終わっている。既読は付いているのに何も反応がないのが不気味すぎて、香織は一種のパニックに陥った、コーヒーなんて飲めたものじゃなかった。「私は捨てられた…?一目惚れは嘘なの?好きなのは私だけ?」俯いていると、慌てた様子で彼が来た。刹那、香織は安心しきってめまいが起こった。心配する彼を視界にやっても、そのきれいな顔はぐにゃぐにゃになっていた。 少し横になったら、楽になったので急いで体を起こし、「せっかくのデートなのにごめんね」謝罪を伝えると、優しい彼は体の心配をしてくれていた。 というより、異常なまでに気にかけていた。香織に病気があるみたいに。

 香織には持病があった。それは、就職前の健康診断の時に診断された、過度なストレスを感じた時、記憶が消えてしまうという病気。香織はこの持病について重要視はしていない。なぜなら、幸せで、かつ、死に直結しないと信じているから。仕事も順調、友達も恋人もできて、趣味も充実しているし、これからもっと活躍できる二十台前半。香織の人生はこれからだから。終わるはずがないと信じている。

 彼氏に持病のことを伝えると、彼は家まで送るというのだ。デートはこれからなのに。彼の心配する思いが勝り、一旦、香織宅へ戻ることにした。彼氏と一緒に。 彼は香織をベットに寝かせると、「お茶とか入れてくるね」と言い、おやつとお茶を出した。 気分は楽なので、ベットから降りると、香織の好きなおやつが並べられていた。 気味が悪いが、運命じゃないかと考えると不思議と落ち着けていた。その後は電気を消しカーテンを閉め、ゆっくり映画を見ましたとさ。 初デートが家デートとは、かなりハードルが高いことをしていたが、その日は無事に終了。 ちなみに、恋人の進展はなかったぞ。

 翌日、仕事の休憩中、メッセージで次のデートの約束をしていた。休みはなかなか取れないので、もやもやしながら、スケジュールを見る。有給を取ればいいのだが、ちょっと前に取ったばかりで使うのに気が引けるが、気が付いたら上司に有給を取ることを伝えていた。 最近気が付いたら行動しているという事が増えてきていて、起きるたびに「ま、いっか」と言って済ませてしまう。今回も例外ではない。深く考えないほうが、幸せだろうなと香織の勘が言っている。 その日の夜ワクワクして眠れなかった。なんといっても、次のデートは、彼氏の休みの日に有給を取ったという事もあり、明日に控えているからだ。こんなにすぐに会える、それが彼女にとって、とてつもなくうれしかった。初めての彼氏の様だからだろうか、それとも昔の記憶の一部がないからだろうか、彼女の気分は、まるで少女漫画に出てくる女子中学生みたいだった。

 待ちに待ったデートの日、待ちきれず一時間前から彼と通話しつつ待ち合わせ場所に向かう。 今回は迷惑かけないように早めに寝て、ちょっと栄養のありそうなご飯も食べた。もう二度と倒れないように。 通話の効果があったのか彼氏と会っても過度な緊張などは無かった。問題なくデートを行えるほどに。 彼は車で来たので、乗せてもらい、ドライブデートの形で色々なところへ走らせてくれた。ショッピングに行ってお揃いの「桜が描かれたプラのキーホルダー」を買い、ちょっと照れくさいけど、このキーホルダーがある限り、二人は一緒なんだと思っていた。 カラオケ店まで車を走らせ、彼の前で中途半端な音痴を披露してしまったこと。車の中でちょっと大きめなお腹の音が鳴ったこと以外はとても楽しくドライブデートを終えた。 帰り道、彼とお話ししながら香織の家まで車を走らせていた。すると「香織さん、ちょっと真面目な話で、全く信じられないかもしれないけど、僕は香織さんの事信じているから一つ隠してたことを教えるね。」今までにない彼の意味深な発言。香織は少しの間の後にそれが何か聞いてみる。

「実は僕、未来から来たんだ。」

 香織はそんなに驚かなかった。なぜか、その事実を知っていた気がしたから。その為、すぐに信じていた。 何故、今伝えたのか。どのくらい前の未来から来たのか。色々疑問が生まれたが、問題ない。「今」が幸せなら過去も未来も関係ない。 でも、彼と一緒なら未来は明るいだろう。そんなことを考えていたら。家に到着した。彼と別れの挨拶をした後、「ずっと会っていたい、明日は何時間会えない??」明日の仕事の存在に憂鬱になりながら就寝。

 彼女はいつものように6時半に起床し、朝ごはんにピザトーストを食べた。お風呂に入り、歯磨きをして、出勤の準備をしていた。いつもと変わらない朝。家を出た後、駅に向かい、二駅で降りて職場に向かう。特に大きい失敗も無く、定時で帰る。帰りにカフェに寄り、帰宅する。いつもと変わらない日。明日もきっと変わらない。

 しかし次の日、カフェの店内で、一目惚れと称して近付いてきた男性と出会った。

前にも会った気がするが、告白されたのは人生で一回も無いので、ちょっとドキドキしながら会話をしていた。ふと、彼の方に目をやると、香織の鞄に付いている「桜が描かれたキーホルダー」と同じ物が彼のスマホにぶら下がっていた。
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