リズエッタのチート飯

10期

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成人の儀

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 領主、ガリレオ・バーベイルを送り帰して早一週間。
 毎日のように保存食づくりに追われ、休む暇なく働き続け、ようやく一時休憩のこの日までたどり着いた。

 今日は待ちに待った成人の儀を行う日だ。
 若草色のワンピースに身を包み、スヴェンに髪を編み込んでもらって珍しくおめかした私は多分可愛い。
 凡顔だが精一杯のお洒落と毎日お風呂に入ってる清潔感、髪のパサつきを抑えるためにオリーブオイルを使ったからか髪はサラサラしっとりで艶やかだ。普段からそんなに気を使っている事ではないが、今日という日くらいはちゃんと”女の子”でいようと心の底から思う。

 私とお揃いの布を使ったベストを着ているアルノーの髪も同じように手入れをし、今日はオールバックに決めている。
 言っちゃ悪いがあんまり似合っていないように私は思っているが、祖父がわざわざセットしたのだ、文句は言えないだろう。


 一人家に残るレドの頭にキスを一つ落とし、私たち四人はエスターへと荷馬車で向かう。歩きでは一日かかる距離だが、馬車なら半日もかからず、昼過ぎには教会に辿り着く事ができるはずだ。どんなにのんびりと儀を行なっても真夜中までには帰ってくる可能だろう。
 どうしてそんなに急いで帰ってくる必要があるのかと問われれば、まだまだ保存食を作り溜めしておく事も理由の一つに挙げられるが、何より私はお酒を作りたいのである。
 成人の儀を迎えた子供達はその日から祝い事に出されるお酒ならば飲む事を許可させ、それに伴い私はお酒づくりを解禁される。
 今まで庭になっていたものをそのまま祖父とスヴェンは飲んでいたが私が作りたいのは甘い梅酒やサングリア。
 梅も果物も沢山ある庭だからこそできる趣向品と言ってもいいだろう。特に梅酒に至って焼酎ではなくブランデーで作る予定故に祝い事が楽しみになるはずだ。
 ブランデーの芳醇な香りと梅の爽やかさ、何よりあの色合いが私は大好きだ。早く作って飲みたい、飲み干したい。
 こんなにも幼い体を呪ったのは今日が初めてだろう。

 ムフフとその味を思い出して喉を鳴らせばアルノーはチョトンとした顔を私に向け、私は荷車の上で”成人最高!”と声を上げ叫んだ。


 昼を過ぎた頃にたどり過ぎたエスター町は何時もと変わることはなく、時々カオを見合わせる村人達はおめかしした私たち二人を褒めちぎる。心なしか今日はみんな小綺麗な格好をしているような気がするし、祝福してくれているのかもしれない。
 そんな村人たちの声に丁寧にお礼を述べ、私達は教会まで足を進めた。

 見上げた教会は煉瓦造りの小さなものだ。私の古い知識からすればステンドグラスがあったりパイプオルガンが響いているものが教会だったが、ここはそうではないとても質素な教会だといえる。
 けれども神に祈る場所ではあるからか神を模した像や十字架があり、どこかしら私の知識と繋がっているものがあるようにもみえた。

「それでは始めましょう」

 神父さん言葉で始まりを告げた成人の儀はとても簡単なもので、立志式のようは自分の人生を自分で歩んいく覚悟や意識を高める儀式だ。
 眠くなるような神父の言葉を聞き、神に祈る。普通の人よりは私は神に祈ることは多いと自負しているが、果たして私の知る神とこの世界の神は同質なのだろうか?
 結局のところそれを知りえるのは神のみだろうが、若干気になる部分だ。

 有り難いお言葉を聞くこと約二十分、最後に聖水と呼ばれている水を一口飲めば儀式は終了となり、思っていたよりも簡単なものだった。
 アルノーと顔を合わせ眠むかったねとコソコソ話せば、少し寝ちゃったとアルノーは苦笑いをする。我が弟は図太く育ったと思うが、その原因を作っている私が言えることはなにもないだろう。

「お爺ちゃん、おわたよー!」

 全てが済んで祖父の元に駆け寄り、首にかかった認識票を掲げてにっこり笑う。
 見た目はドッグタグによく似ていて、そこに私の名前と住んでいる村、エスターと彫られており冒険者になったり商人になるとまた別に加えられていくもののようだ。
 私は当分の間加えられるものはないが、近いうちにアルノーはなにかしら加えられるだろう。

 どれどれと私のタグをみる祖父にドヤ顔をするもスヴェンが自慢できるもんじゃないと頭をどつき、この国の住人ならば持ってて当たり前なものだと私に教えてくれた。
 このタグは致死率が多い子供には与えられないものであり、一個人と認められる唯一のもの。それ故なくすと奴隷扱いされても文句は言えないのだが、人攫いをする人間はわざとそのタグがない子供を攫ったりタグを奪う輩もいたりすらそうだ。

 全くもって嫌な世界だ。

「つまりは無くさないで大切にしなさいと?」

「基本肌身離さず持っていろ。冒険者ギルドしろ商業ギルドにしろ、持っているといないじゃ対応も違う」

「りょかーい」

 運転免許証、とでも考えておけばいいのかもしれない。アレはすこぶる良い証明書だった。なにするにも免許証が大体の書類は受理されたし、何より持ち運びも便利。住民票なんてお金払わないとくれないし、コピーじゃ駄目とか面倒で仕方なかった気がする。

「さて、成人の儀も終わったところだし帰るかのぉ」

 祖父のその一言で私達は荷馬車へと移動するのだが、なぜが村人達がそれを邪魔をする。わざわざスヴェンに商売の話を聞いてきたり祖父に体調を聞いたり、私やアルノーにも二人はこれからどんな仕事に就くんだいなどと今じゃなくてもいいものばかり。確かに成人したら仕事に就くのは当たり前だが、アルノーが学校に行くのは周知していると思ったのだが。

 はて、そう言えば何か忘れている気がするがなんだっただろうか。
 成人の儀に関係あったようななかったような。

 村人の話を聞いながら何だったかなと首を傾げていたところ、私の聞きたくない声が辺りに響いた。そして同時に思い出したくない物事があったのを思い出す。

「リズエッタ! 何でこの前のあげたドレスを着ない? ああ、でもリズエッタ、君はそれでも綺麗だ!」

「ーーアァ、うざ」

 そう、こいつがいた。
 なんか服を渡された気がしたし、なにが言うことがあるとかほざいていた気もする。だがしかし、私の手を取りキスをしようとする輩にはジャブを打つ。

「気安く触らないでいただけます? 私が汚れます」

 ラルスから距離をとりスヴェンの後ろに隠れ様子を伺うが、周りにいる住人達も、なぜがいる村長も和かにこちらを見つめ、背中に変な汗が流れるのを感じた。
 この前此処にいるのはヤバイと本能が告げ急いで荷馬車に乗ろうとするのだがやはりそれは塞がれ、いつの間にか目の前には先ほど地面に伏したラルスがいる。

「リズエッタ、俺の話を聞いてほしい」

「いえ、結構ですので」

 掴まれた手を振り払おうとするが手は離れず、ラルスは満面の笑みで私を抱きとめ、最悪な言葉を囁いた。

「俺と結婚してほしい」




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