お猫様の秘密

10期

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お猫様の秘密

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私の名前はミケ。
大野家に住んでいる三毛猫である。

私の正式な飼い主は大野桜子と女性だったが残念ながら数年前に亡くなってしまった。その後は桜子の娘夫婦とその息子の棗と共に暮らしている。
大野家と共に過ごして二十数年、私にもそろそろお迎えがきても可笑しくない年なのだがまだ来る気配はなく、私はあちら側に逝く前に立派な”猫又”となってしまった。
猫又といっても尻尾が二本に割れた訳でもなく、意図的に二本にする事は出来るが普段はそのままで、変わったと事と言えば少しばかり人間の言葉や知性が分かるようになった事だけだが。
私は私、今も昔も変わらず大野家のミケである事には変わりない。


「ナァーォ」

「おはよーミケさん」

私の一日は棗を起こす事から始まる。起きろ起きろと猫パンチを数度繰り出せば、棗は唸りながらも目を覚ます。そして私に挨拶をすませると抱きあげてリビングへ向かうのだ。これは棗が十を過ぎた頃からの日課だ。
棗と楓夫婦がご飯を食べているときは私も同じようにリビングの隅っこでねこまんまを頂く。たまに贅沢品だぞーと猫缶やカリカリご飯をくれることもあるが、私には慣れ親しんだねこまんまが一番だ。それに楓が年老いた私のために気を使って出汁から作ってくれるねこまんまこそ至福の逸品だといえよう。

ご飯の後はパパさんと棗のお見送りをして、お気に入りのソファーの上で一眠り。桜子の匂いのついたボロボロの毛布に包まれて眠る時間はとても心地の良いものだ。たまに掃除機をかける音や洗い物の音、楓がテレビを見ている音などが聴こえるがそれはそれで心地よい。


「ナァーン」

太陽が真上に上がる少し前、楓を呼び玄関の扉を開けてもらう。いってらっしゃいと和かに笑う楓の顔はとても桜子に似ていて、そんな楓に私はもうひと鳴きし大野家を後にした。
尻尾を左右にフリフリ。ご近所さんの話し声に耳をピクピク。時たまこんにちはミケさんと声をかけられれば、鳴いて挨拶を返す。ありきたりの何でもない日常で、今日も平和だ。


こんな猫又な私だが大野家には言えない秘密がある。それは猫又とはまた違った秘密だ。
私が向かうは近場の公園。そこにある桜の木の根元には私が入れる程度の穴があり、その中に入ると不思議な事が起こるのだ。その穴は私が中に入ってもまだまだ動き回れるほどの広さがあり、そして地中深くへ続く道が出来ている。最初にこの穴を見つけたときはとても驚きやしたが今でもう何の感情すらない。
いや、訂正しよう。ドキドキとした感情でいっぱいなのだ。
暗い穴をズンズン進むとうっすらと光が差す場所が見えて来る。その光がある場所を真っ直ぐに抜ければ、其処は人の知らないもう一つの世界が広がっているのだ。
地中とはおもえない暖かなら光、草の匂い。咲き乱れる花々と飛び交う小人。むしろ妖精といった方が正しいか。彼らは体は小さくはあるが、その背中に生える羽は虹色に輝いている。


「お猫様、いらしてたのですね」

「まぁ、日課だからね」


私を迎えてくれたのはバルバラだ。菖蒲色の髪をした彼女は長い付き合いだ。
私はなぜが此処では対話が出来る。彼ら達が言うに彼らの力が関係しているらしいのだが、いまいち私には分からない。
次々と寄って来る彼らの手には花やら蜜やらが抱えられ、私の体や頭に積み重ねられていく。


「お猫様お猫様、今日もモフモフですね」
「お猫様お猫様、今日もキラキラですね」
「お猫様お猫様、今日も背中でお昼寝していいですか?」
「お猫様お猫様、今日も肉球もちもちしていいですか?」

「有難う有難う。今日も好きにすればいいよ」


私がそう返事すると小さき友人達はかわりばんこに私の体に飛びついて来る。どうやら彼らは私のモフモフの毛皮がお気に入りらしく、だからこそいい香りのする花やおやつの蜜を持って来るのだろう。
私が彼らと出逢って約十年。出会い方は悲惨で傷だらけのバルバラを助けた事だった。
その時バルバラは好奇心旺盛な仔犬に追われ目を背けるほどボロボロの状態で、その時私は仔犬より早く彼女をくわえ逃げ出した。虫の息に近い彼女を何処に運ぶべきか分からずこの桜の木の中に隠れたところ、わざわざ妖精達から彼女を迎えに来てくれたのだ。
後から聞くに、猫の私も仔犬同様に恐ろしい生き物だったが、バルバラを助けてくれた事と早くバルバラを治療しなければという思いで姿を現したらしい。
それからというもの私はお猫様と称えられ、こうして彼らの世界へ訪れる事が出来ている。こちらの世界は無効と違い車もないし安心しくられるから好きだ。


「お猫様、ソロソロこちらに移り住んでは?」


私の考えを読んだかのようにバルバラはそう私を誑かす。きっと此処に住めば他の猫と違った幸せを手に入れる事が出来るだろう。だがしがし、私は大野家と桜子との思い出を捨て切る事は出来ない。それはとても辛く悲しい事だ。


「すまんね、バルバラ。私は此処には住めないよ」

「それは残念です」


きっとバルバラは私があちら側から引き離したいのだ。猫又となるほど長生きをしている私だ。猫又となってしまった私だ。いつしかきっと悲しい別れが待っている。


「バルバラ、今日は早めに帰るとするよ」

「お猫様、帰ってしまうのですか?」
「お猫様、また来てくれますか?」
「お猫様、いつでもいらしてくださいね?」


名残惜しそうに尻尾にまとわりつく彼らにひと鳴きし、私は桜の木を後にした。
外に帰ってみれば真上にあった太陽は傾き、あたりは薄暗くなっている。どうやらこちらとあちらの時間軸は少々異なるらしい。きっとこれも私の長生きの秘密なのだろう。
トテトテと4本の脚を動かし大野家に向かう途中、学校帰りの棗に出くわした。ナァーンとひと鳴きすれば棗は笑い、そして私を抱き上げた。


「ミケさんは今日もいい匂いがするね」

「ナァーン」


私の体をクンクンと嗅ぐ棗の顔をペチンと叩けば、ごめんねと笑顔で棗は謝った。
その笑顔は桜子が私には託してくれていったもので、私はこの笑顔を守っていきたいとそう思うのだ。


「ミケさん、今日のご飯は何だと思う?」

「ナァーン」

「まぁ、ミケさんはねこまんまだけどね」

「ナァーン」






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