異世界神話をこの俺が!?――コンプレックスを乗り越えろ――

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

文字の大きさ
18 / 89
第1章 ようやく始まった俺の冒険

7.悩み

しおりを挟む
 古いだけあって宿の中は少し薄暗く、受付カウンターの上に置いてあるランプの灯りに照らされて見える爺さんの姿は、まるで自分がオバケ屋敷の中にでも居るかの様に錯覚した。

「お客さんは、お前さん1名かね? うちの泊まり賃は1泊で銅貨7枚だ。この街で一番安い料金の代わりに、色々と古びちまってるからあまりあちこち触らないでおくれな。後、ここには食堂は無いから外で食べてきとくれ。この街は食堂や酒場だらけだ。困る事もあるまい。」

「はあ……。」

 力なく発せられる爺さんの口調はまるで怪談でも語っているかの如く感じられ、背筋が少しゾワッとした。
 その時、俺の身震いにビックリしたのかパウロが俺の懐からモゾモゾと出てきた。

「ゥニ~ィ?」

「ほぉ、珍しい…。お前さん、コウモリ猫を連れておるのかね……。コウモリ猫を連れた客なんて、他の宿だとやれ縁起が良いからとサービスしたりする所なんだろうが……、儂はしないよ。うちの宿は建物も人間も古くて苦しいもんでな。」

 俺はそれにどう返したら良いのか分からず、ひとまず愛想笑いを返しておいた。
 この街は交易都市というだけあって大きく、ここ以外の宿屋はどこも1泊が銅貨10枚を超えている。
 宿屋だけでなく、住民が商人だらけのこの街にあるものは何もかもが高かったので、ここで受付の爺さんが愛想のないからと他の宿に行くわけにはいかなかったのだ。
 旅人向けの宿や食堂でコウモリ猫連れによるサービスが謳われてたとて、この街では「サービス」というものにはさほど期待ができないから旅人だからと騙されるなよと、門で話をした衛兵に前もって注意もされていた。

「どうするかね? 他所よそへ行くかね?」

「いえ、ここに泊まります。とりあえず……、3泊ほどお願いします。えーっと、銅貨12枚で銀貨1枚になるから…、これでいいですか。」

 そう言って俺は懐にしまった袋から銀貨1枚と銅貨9枚を受付カウンターの上に出した。

「はい、……確かに。部屋は階段上がって3階の左手にある部屋が空いてるから、そこを使っとくれ。」

 爺さんは俺の出したお金を数えて確認すると、受付カウンターの中から動くことなく横にある階段を指で指し示した。
 3階まで上がり、指示された部屋に入った俺は財布にしている布袋の中を確認した。

「この街の旅人専用の共同厩舎へ預けた馬の預かり賃が1泊銅貨4枚か……。世界を周らなくちゃならないわけだから、1つの国にだけ偏ったしがらみをなるべく作らない様にと、この国からの支援は最初だけという約束にしてもらったが……。流石に何かして稼がなきゃあっという間に金が底をつくな……。どこの世界でも都会は物価が高くなるのは分かっちゃいたが………。」

 この世界は魔法や魔物が存在する世界だが、ゲームに有りがちな“魔王”とか“冒険者”とかってものが存在しない、ある種リアルな世界だ。

「冒険者ってものが存在すればRPGみたいに簡単に稼げたかもしれないのにな~ぁ……。」

 魔王という絶対的な悪の存在こそいないものの、それぞれの国の文明発展度がそれぞれの国の聖書の恩恵によって違うが為に互いの国が持つ聖書を奪おうと、この世界ではどこかしらで常に戦争が起こっているという実に不安定な世の中である。
 そしてこの世界では聖書と国を守る為の戦力として神官が存在し、戦争時に魔物などの脅威から物資を守る為に神官に雇われる傭兵が存在する。
 そんな戦争には関わりたくないし、神様からの使命を果たさなければならない俺はどこかの国に付いてしまうと権力の偏りができてしまって非常に面倒くさい事になるので、面倒事にはなるべく関わりたくないと思っている俺は暫くの間は身分を隠していたい。

「身分を隠してできる仕事って……、何をするでも信用が全てだし……、できる事がすごく限られてくるよな~。」

 それ故に、魔物らが増えすぎて世界のバランスを崩し、世界に害をもたらさぬ様に、定期的に一定数を狩猟するという仕事である“狩人”ぐらいしか思いつかなかった。

「狩る対象が野生動物から魔物になっただけで、要するにマタギってやつだよな~。狩って得た魔物は商人に食料や素材として売れるっていうし、モノによっては良い値が付くって聞いたけど…。ただ……『殺す』っていうのがな~………。しかもけっこう危険だっていうからやりたがる奴も少ないみたいだし……。」

 俺は『殺す』という行為にどうしても躊躇いが出てしまい、決断ができずにいた。

「肉は好きだけど……、日本に居た頃こういう事に関わらないで居られた…、ある意味幸せな立場だったからな~。この世界で生まれ育っていれば普通の事として受け止められるんだろうけど………、精神的にキそうで、ヘビーだよな~。ハ~ァ……。」

 俺が悩みに悩んでも結論を出せず、ため息をついているとパウロが俺の横に座ってすり寄ってきた。

「パウロ…………。」

「ニィ!」

 パウロが「元気出せよ」とでも言っているかの様に俺に向かって鳴いてきた。

「そうだな…、うん……。とりあえずこれぐらいしか手段はないわけだし、今は仕方ない、か……。また他に手段ができた時にでも、改めて考えるしかないしな。とりあえず……お腹も空いたし、夕ご飯でも食べに行こうかっ! パウロ。」

 俺はパウロの無邪気な笑顔に癒され、頭を撫でているとゴロゴロと喉を鳴らしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...