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第2章 神話の歪み
6.マルスの樹とは…
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「…に、しても……これ……どうしよっか………?」
やっと落ち着きを取り戻した俺は腰が抜けていたのも治り、立ち上がって動くことできる様になった。
しかし背後にはヒュドラの死体が転がっており、聖なる山と言われているこの地に、このまま放っておくわけにもいかなかった。
「とりあえず…一度に全部は運べないけど、その荷車に載せて村に持ち帰ってみようよ! これだけのヒュドラのお肉があれば村の皆も助かるはずだし…、それにヒュドラは美味だって噂で聞いたことがあるよっ!」
リリアはそう言って端の方に置かれたままになっていた、酒樽を載せて運ぶ為にここまで押してきた空の荷車を指差した。
「へ~ぇ、そうなんだ~。これが食べれる物、しかも美味しいってんならいいな! グイドが街へ行く為に使っていた荷獣車のオプスウルフ達数匹を残して、村で飼っていた使役動物は全てこのヒュドラの生贄にしちまったって言ってたし……。これで食糧問題が少しでも楽になれば確かに何かと助かるだろう。余った肉をそこの街に売りに行けば金にもなるし、またラクーゴートやオプスウルフを買う事も出来るだろうしな。」
そして俺は荷車を端の方から奥の“マルスの樹”の傍まで引っ張って持って来て、2人がかりでヒュドラの死体を荷車に運んで載せた。
パウロはちょっとした掠り傷と打ち身だけと軽傷だったので俺が特に心配することも無く、先程の猫2匹と仲良く日向ぼっこをして何やらお喋りをしている様であった。
「ははっ! やっぱり猫同士だと気が合うのか楽しそうだねぇ。」
俺はその様子をほのぼのとした気持ちで見ながら、運びやすい様にヒュドラの死体を輪切りにしつつ荷車の上に載せる作業をしていた。
「しかしこの“マルスの樹”ってのは、実際見ると……まるで黄金色をした小さめのリンゴの実が付いた樹みたいだなぁ………。」
「お兄ちゃんっ! 独り言なんて喋ってないで手を動かしてよね!」
「ん…、あぁ。ごめん、ごめん。」
その時、あの2匹の猫の内の茶トラが“マルスの樹”の上に突然シュタッと勢いよく飛んで登ったかと思うと、そこに生っていた実の1つをヘタを咥えて思いっきり引っ張って採り、パウロの口元へと運んでいた。
「ニャア!」
そうして口元へと運ばれた“マルスの樹”の実を、シャリッと一口パウロが齧った。
「ちょ、ちょっとパウロ! そんなもの食べちゃダメだろ。毒があるらしいんだから吐きなさい!」
俺がパウロを片腕で抱いてもう片方の手で口を掴み、エルフたちに毒のある実だと聞いていた“マルスの樹”の実を口の中から吐き出させようとしていると、その慌てた俺の様子に気付いたリリアが駆け寄ってきた、
「どうしたの!?」
「パウロが………。」
ところがパウロは毒の実を食べたはずなのに平気な顔をしていた…。
パウロの口を俺が無理矢理開けると中にはもう何もなく、大丈夫なのだろうかとハラハラしていると突如、パウロの体が薄っすらと光り出したかと思うとスルリと俺の腕の中から何かに持ち上げられる様に宙へと浮きあがった。
光は糸の様に解けてパウロの身体をグルグルと回りだし、繭の様になって身体全体を包み込んだ。
「ニャッ!」
「ニャニャーァ!」
あの2匹の猫がそれを見て歓喜の声をあげていた横で、俺とリリアは驚きのあまりに口を半開きにしたまま固まっていた。
繭の様にパウロを包んでいた光は1分程経つと割れて弾け、中から少し姿の変わったパウロがスーゥっと出てきた。
「だ、大丈夫かっ? パウロ? パウロ!」
訳の分からない光の繭が消えてパウロの姿が見えると、俺とリリアはハッと我に返った。
宙に浮いていたパウロを腕に抱き、俺は目を閉じたままで動かない様子なので気を失っているのかと心配してパウロの名前を何度も呼んだ。
「にゃんだよ~ぉ。まだ眠いんだから大きな声を耳の傍で出すなよ~ぉ。フワ~ァアァァ……。」
目を擦って欠伸をしながら…、パウロが返事をした。
俺とリリアはお互いの目を見合わせ、信じられないという風に目の前で起きているあり得ない出来事に目をパチクリとさせた。
「パ…パウロが……喋った!?」
「喋るよ~ぉ。“マルス”の実を食べたからにゃ~。」
「“マルスの樹”って、食べる事のできない毒の実をつける樹って話じゃなかったっけ……?」
その俺の質問にリリアは首をブンブンと縦に振って答えた。
リリアと俺がこの不思議な出来事に首をひねっていると、指輪が突然光を放ちだして以前パウロに出会った時の様に、光の中に浮いて聖書となる本が頭上に出てきた。
そこに羽ペンで刻まれた文章の中で、この世界で育ってリリアもこれ程驚くような今回の不思議な出来事を俺は少し理解した。
「『傷を負ったパウロは今日エデンで出会った友に頼み、マルスの樹からその実を採ってきてもらい、愛する者と直接話す為の“叡智”を得た。』……知恵?」
本に書かれた文章を読みながら『知恵』という言葉にチラリと“マルスの樹”を見た。
「『叡智』……『エデン』……『マルスの実』……『リンゴ』…………そうか! これは魔物が人間が話すのと同じ言葉を得る事のできる『知恵の実』なんだ! 食べると錯乱しだす危ない毒の実だっていう話は、人間が食べた時限定なんだな…たぶん。」
“マルスの樹”について少し分かったところで、まだ動いていた羽ペンが刻む言葉の続きに目を動かした。
「えぇーっと……『マルスの実を食べて“知恵”を得たパウロは、この世界の新たな種族“ケットシー”へと変わり、始祖としてエデンで出会った友2匹を眷属とし、繁栄を約束した。』……っ! エェェェェェェェェー!!」
やっと落ち着きを取り戻した俺は腰が抜けていたのも治り、立ち上がって動くことできる様になった。
しかし背後にはヒュドラの死体が転がっており、聖なる山と言われているこの地に、このまま放っておくわけにもいかなかった。
「とりあえず…一度に全部は運べないけど、その荷車に載せて村に持ち帰ってみようよ! これだけのヒュドラのお肉があれば村の皆も助かるはずだし…、それにヒュドラは美味だって噂で聞いたことがあるよっ!」
リリアはそう言って端の方に置かれたままになっていた、酒樽を載せて運ぶ為にここまで押してきた空の荷車を指差した。
「へ~ぇ、そうなんだ~。これが食べれる物、しかも美味しいってんならいいな! グイドが街へ行く為に使っていた荷獣車のオプスウルフ達数匹を残して、村で飼っていた使役動物は全てこのヒュドラの生贄にしちまったって言ってたし……。これで食糧問題が少しでも楽になれば確かに何かと助かるだろう。余った肉をそこの街に売りに行けば金にもなるし、またラクーゴートやオプスウルフを買う事も出来るだろうしな。」
そして俺は荷車を端の方から奥の“マルスの樹”の傍まで引っ張って持って来て、2人がかりでヒュドラの死体を荷車に運んで載せた。
パウロはちょっとした掠り傷と打ち身だけと軽傷だったので俺が特に心配することも無く、先程の猫2匹と仲良く日向ぼっこをして何やらお喋りをしている様であった。
「ははっ! やっぱり猫同士だと気が合うのか楽しそうだねぇ。」
俺はその様子をほのぼのとした気持ちで見ながら、運びやすい様にヒュドラの死体を輪切りにしつつ荷車の上に載せる作業をしていた。
「しかしこの“マルスの樹”ってのは、実際見ると……まるで黄金色をした小さめのリンゴの実が付いた樹みたいだなぁ………。」
「お兄ちゃんっ! 独り言なんて喋ってないで手を動かしてよね!」
「ん…、あぁ。ごめん、ごめん。」
その時、あの2匹の猫の内の茶トラが“マルスの樹”の上に突然シュタッと勢いよく飛んで登ったかと思うと、そこに生っていた実の1つをヘタを咥えて思いっきり引っ張って採り、パウロの口元へと運んでいた。
「ニャア!」
そうして口元へと運ばれた“マルスの樹”の実を、シャリッと一口パウロが齧った。
「ちょ、ちょっとパウロ! そんなもの食べちゃダメだろ。毒があるらしいんだから吐きなさい!」
俺がパウロを片腕で抱いてもう片方の手で口を掴み、エルフたちに毒のある実だと聞いていた“マルスの樹”の実を口の中から吐き出させようとしていると、その慌てた俺の様子に気付いたリリアが駆け寄ってきた、
「どうしたの!?」
「パウロが………。」
ところがパウロは毒の実を食べたはずなのに平気な顔をしていた…。
パウロの口を俺が無理矢理開けると中にはもう何もなく、大丈夫なのだろうかとハラハラしていると突如、パウロの体が薄っすらと光り出したかと思うとスルリと俺の腕の中から何かに持ち上げられる様に宙へと浮きあがった。
光は糸の様に解けてパウロの身体をグルグルと回りだし、繭の様になって身体全体を包み込んだ。
「ニャッ!」
「ニャニャーァ!」
あの2匹の猫がそれを見て歓喜の声をあげていた横で、俺とリリアは驚きのあまりに口を半開きにしたまま固まっていた。
繭の様にパウロを包んでいた光は1分程経つと割れて弾け、中から少し姿の変わったパウロがスーゥっと出てきた。
「だ、大丈夫かっ? パウロ? パウロ!」
訳の分からない光の繭が消えてパウロの姿が見えると、俺とリリアはハッと我に返った。
宙に浮いていたパウロを腕に抱き、俺は目を閉じたままで動かない様子なので気を失っているのかと心配してパウロの名前を何度も呼んだ。
「にゃんだよ~ぉ。まだ眠いんだから大きな声を耳の傍で出すなよ~ぉ。フワ~ァアァァ……。」
目を擦って欠伸をしながら…、パウロが返事をした。
俺とリリアはお互いの目を見合わせ、信じられないという風に目の前で起きているあり得ない出来事に目をパチクリとさせた。
「パ…パウロが……喋った!?」
「喋るよ~ぉ。“マルス”の実を食べたからにゃ~。」
「“マルスの樹”って、食べる事のできない毒の実をつける樹って話じゃなかったっけ……?」
その俺の質問にリリアは首をブンブンと縦に振って答えた。
リリアと俺がこの不思議な出来事に首をひねっていると、指輪が突然光を放ちだして以前パウロに出会った時の様に、光の中に浮いて聖書となる本が頭上に出てきた。
そこに羽ペンで刻まれた文章の中で、この世界で育ってリリアもこれ程驚くような今回の不思議な出来事を俺は少し理解した。
「『傷を負ったパウロは今日エデンで出会った友に頼み、マルスの樹からその実を採ってきてもらい、愛する者と直接話す為の“叡智”を得た。』……知恵?」
本に書かれた文章を読みながら『知恵』という言葉にチラリと“マルスの樹”を見た。
「『叡智』……『エデン』……『マルスの実』……『リンゴ』…………そうか! これは魔物が人間が話すのと同じ言葉を得る事のできる『知恵の実』なんだ! 食べると錯乱しだす危ない毒の実だっていう話は、人間が食べた時限定なんだな…たぶん。」
“マルスの樹”について少し分かったところで、まだ動いていた羽ペンが刻む言葉の続きに目を動かした。
「えぇーっと……『マルスの実を食べて“知恵”を得たパウロは、この世界の新たな種族“ケットシー”へと変わり、始祖としてエデンで出会った友2匹を眷属とし、繁栄を約束した。』……っ! エェェェェェェェェー!!」
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