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第5章 港湾都市オズリック
2.初恋の面影
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「…佐藤……?」
今、目の前に居る女の人の顔を見て、俺は思わずその名を口にした。
この世界に来る前に間接的に振られた様なことを言われて苦い思いをしたその相手と…、つまりは初恋の相手と瓜二つのそっくりな顔が突然そこに現れたのだ。
「…?? どうしたの?」
その女の人は自分の顔を見るなり驚いて真っ赤な顔に変わったまま固まっている俺の表情を見て、怪訝そうに尋ねた。
「あっ、いや…。ごめんなさい。あなたの顔があまりにも知り合いに似ていたもので驚いて……。」
「あぁ、そうだったの。フフッ…。ビックリしたわ。私の顔を見るなり真っ赤になって固まるんだもの。そういえば……、あなた見ない顔ね。」
「えぇ、この子たちと共に旅をしてまして…。さっきこの街に着いた所なんです。」
別人だとは分かっていても久しぶりに見た初恋の女の子と同じその顔に、頬を紅潮させて嬉しそうに話をしている俺の態度に、横に居たリリアがまた不機嫌になってしまっている様子だった。
「『妻』のリリアです! よろしくね。」
突然話に割って入ってきたリリアは『妻』という言葉を強調して、自分よりも背の高いこの女の人を少し睨むように見上げ、牽制する様に自己紹介をした。
「フフッ。お嬢ちゃん。サクラヴェール国の民でその見た目ならまだ子供でしょう…? なのに『妻』なんて名乗るだなんて…、よっぽどこのお兄さんのことが好きなのね。可愛らしいこと…。」
「本当なのよ!」
幼い子ども扱いをされたことにリリアは腹を立てていたが、どう抗議をしても信じてはもらえないのでむくれてしまい、この女の人をジーッと睨んで目を離さないでいた。
俺はそんなどうしたら良いのかも分からない雰囲気に冷や汗が流れ、慌てて話を変えた。
「あ、あの……。俺たち、旅の途中で手に入れた魔物の毛皮とかを売りたいんだけど、どこか良い店を知りませんか?」
そう大きな声を出したわけでもなかったのだが、通りすがりに俺たちの話が聞こえた周りの人らがざわついている音が聞こえた。
「毛皮ですって!? ……この街では確かに大丈夫だけども、それでもその言葉をそう大っぴらに言うもんじゃないわ…。」
俺がした質問にヒソヒソ声でそう返答されたことにキョトンとしていると、この女の人はハッと何かに気付いた様だった。
「この国に来て間もないの? もしかしてオフィーリア国のことをあまり知らないのかな……?」
「2週間程前にこの国に初めて来たばかりでして…。この国では動物たちに労働を強いる事が悪だとされることや肉や魚を食べることが禁忌とされているって事ぐらいは知ってますけど……。」
「そう…。それでこの街は世界の調整の為に『食べること』が赦された、確かにオフィーリア国の中において3つだけ存在する特別な地域の1つではあるんだけども……。それでもこんなに人通りの多い所で大っぴらに命を殺めた事を連想する様なことを口に出すのを良しとはしていないのよ。王に赦されてはいても、罪であることには変わりはないのだから……。」
女の人は悲しそうな眼をして周りに聞こえないように小さな声で俺たちに教えてくれた。
「そうなんですか……。すみません。俺たちこの国のことには疎くて…。でも、教えてくれて助かりました。」
「いいのよ。これも何かの縁だしね。…そうそう! 素材を売りたいんだったわよね。港の近くに魔物の肉や素材の管理をしている専門のお店があるわ。そこに行けば商人のドナートが居るはずよ。私の名前を出せば悪いようにはしないと思う…。でも、必ず明るい時間の内に行ってさっさとこっちまで帰ってくること! 暮れるとあの辺りは治安も悪くなって危ないわ。」
「ありがとう。そういえばまだ聞いていなかったんだけど…、あなたのお名前は? 俺はルカって言うんだ。」
俺が名乗ると、女の人は右手を胸に当てて軽く会釈をしてから自分も名乗りだした。
「あぁ……。すっかりと名乗るのを忘れていたわね。私はカルラ。カルラ・ディ=ツァートンよ。この街に暫く居るつもりなら困ったことがあったらいつでも相談して。この街で一番高い建物にある管理室って所に私は大抵いるから、受付に言えば呼び出してもらえるわ。」
「管理室……ですか?」
「えぇ。私はこの街で市民の意見をまとめる仕事をしているのよ。この街みたいな特別地域は特に自治権を認められていてね。国の政府とは別に、独自の自治組織があるのよ。私はその中の一員ってわけなので多少は顔も効くし、何かと相談には乗れるってわけなの。」
そういえばサクラヴェール国とは違ってこのオフィーリア国では聖人の子孫である王様とは別に、大統領制の様な仕組みで国が成り立っているんだったなと前にお城で勉強した時のことを思い出した。
話を聞くところによるとカルラは県議会議員の様な立場らしく、この街ではそれなりに偉い人のようであった。
「そんな偉い人とは知らず…。色々とありがとうございます。」
「いいのよ。いいの! そんなに畏まらないで…。この街では少なくともサクラヴェール国の人を蔑む人も居ないから、ゆっくりしていってね。」
カルラは首を横に振って、俺が焦ってペコペコとお辞儀するのを止めた。
今、目の前に居る女の人の顔を見て、俺は思わずその名を口にした。
この世界に来る前に間接的に振られた様なことを言われて苦い思いをしたその相手と…、つまりは初恋の相手と瓜二つのそっくりな顔が突然そこに現れたのだ。
「…?? どうしたの?」
その女の人は自分の顔を見るなり驚いて真っ赤な顔に変わったまま固まっている俺の表情を見て、怪訝そうに尋ねた。
「あっ、いや…。ごめんなさい。あなたの顔があまりにも知り合いに似ていたもので驚いて……。」
「あぁ、そうだったの。フフッ…。ビックリしたわ。私の顔を見るなり真っ赤になって固まるんだもの。そういえば……、あなた見ない顔ね。」
「えぇ、この子たちと共に旅をしてまして…。さっきこの街に着いた所なんです。」
別人だとは分かっていても久しぶりに見た初恋の女の子と同じその顔に、頬を紅潮させて嬉しそうに話をしている俺の態度に、横に居たリリアがまた不機嫌になってしまっている様子だった。
「『妻』のリリアです! よろしくね。」
突然話に割って入ってきたリリアは『妻』という言葉を強調して、自分よりも背の高いこの女の人を少し睨むように見上げ、牽制する様に自己紹介をした。
「フフッ。お嬢ちゃん。サクラヴェール国の民でその見た目ならまだ子供でしょう…? なのに『妻』なんて名乗るだなんて…、よっぽどこのお兄さんのことが好きなのね。可愛らしいこと…。」
「本当なのよ!」
幼い子ども扱いをされたことにリリアは腹を立てていたが、どう抗議をしても信じてはもらえないのでむくれてしまい、この女の人をジーッと睨んで目を離さないでいた。
俺はそんなどうしたら良いのかも分からない雰囲気に冷や汗が流れ、慌てて話を変えた。
「あ、あの……。俺たち、旅の途中で手に入れた魔物の毛皮とかを売りたいんだけど、どこか良い店を知りませんか?」
そう大きな声を出したわけでもなかったのだが、通りすがりに俺たちの話が聞こえた周りの人らがざわついている音が聞こえた。
「毛皮ですって!? ……この街では確かに大丈夫だけども、それでもその言葉をそう大っぴらに言うもんじゃないわ…。」
俺がした質問にヒソヒソ声でそう返答されたことにキョトンとしていると、この女の人はハッと何かに気付いた様だった。
「この国に来て間もないの? もしかしてオフィーリア国のことをあまり知らないのかな……?」
「2週間程前にこの国に初めて来たばかりでして…。この国では動物たちに労働を強いる事が悪だとされることや肉や魚を食べることが禁忌とされているって事ぐらいは知ってますけど……。」
「そう…。それでこの街は世界の調整の為に『食べること』が赦された、確かにオフィーリア国の中において3つだけ存在する特別な地域の1つではあるんだけども……。それでもこんなに人通りの多い所で大っぴらに命を殺めた事を連想する様なことを口に出すのを良しとはしていないのよ。王に赦されてはいても、罪であることには変わりはないのだから……。」
女の人は悲しそうな眼をして周りに聞こえないように小さな声で俺たちに教えてくれた。
「そうなんですか……。すみません。俺たちこの国のことには疎くて…。でも、教えてくれて助かりました。」
「いいのよ。これも何かの縁だしね。…そうそう! 素材を売りたいんだったわよね。港の近くに魔物の肉や素材の管理をしている専門のお店があるわ。そこに行けば商人のドナートが居るはずよ。私の名前を出せば悪いようにはしないと思う…。でも、必ず明るい時間の内に行ってさっさとこっちまで帰ってくること! 暮れるとあの辺りは治安も悪くなって危ないわ。」
「ありがとう。そういえばまだ聞いていなかったんだけど…、あなたのお名前は? 俺はルカって言うんだ。」
俺が名乗ると、女の人は右手を胸に当てて軽く会釈をしてから自分も名乗りだした。
「あぁ……。すっかりと名乗るのを忘れていたわね。私はカルラ。カルラ・ディ=ツァートンよ。この街に暫く居るつもりなら困ったことがあったらいつでも相談して。この街で一番高い建物にある管理室って所に私は大抵いるから、受付に言えば呼び出してもらえるわ。」
「管理室……ですか?」
「えぇ。私はこの街で市民の意見をまとめる仕事をしているのよ。この街みたいな特別地域は特に自治権を認められていてね。国の政府とは別に、独自の自治組織があるのよ。私はその中の一員ってわけなので多少は顔も効くし、何かと相談には乗れるってわけなの。」
そういえばサクラヴェール国とは違ってこのオフィーリア国では聖人の子孫である王様とは別に、大統領制の様な仕組みで国が成り立っているんだったなと前にお城で勉強した時のことを思い出した。
話を聞くところによるとカルラは県議会議員の様な立場らしく、この街ではそれなりに偉い人のようであった。
「そんな偉い人とは知らず…。色々とありがとうございます。」
「いいのよ。いいの! そんなに畏まらないで…。この街では少なくともサクラヴェール国の人を蔑む人も居ないから、ゆっくりしていってね。」
カルラは首を横に振って、俺が焦ってペコペコとお辞儀するのを止めた。
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