異世界神話をこの俺が!?――コンプレックスを乗り越えろ――

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

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第5章 港湾都市オズリック

9.買い物

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「さぁ、ルカ様…。この中からお好きなものをお選びください。」

 俺たちは下に降りて1階にあるカフェで遅めの朝食を食べた後、宿まで迎えに来ていたドナートと一緒にこのオフィーリア国特有の乗り物を売っているという店まで来た。
 値段なんか気にせずに好きなものを選べと言われたが……、どれを選んで良いものやらさっぱりだった。
 この国特有の乗り物は、外観こそ地球で想像していた近未来の車風ではあったが中身は流石異世界とでも言うべき仕様であった。
 初めて見た未来的なその乗り物は風の魔晶石を使って特殊な魔術回路を用いた、それはまるで空飛ぶリビングルームかの様であったのだ。

「おっ! そちらに致しますか? 流石にお目が高いっ! この“EZ4”は、大地の魔晶石を媒介にして作った人工精霊のナビゲーターが最新型でございます。魔力契約によって人工精霊と回路を繋げば、特に具体的な地名等を指示しなくとも主である貴方様が心に思い描くだけで行きたい場所へと何もせずとも快適な環境を維持したままお連れ致すことができますよ。しかもお望みの中型タイプの物ですと、小さな冷蔵庫と洗面台等のちょっとしたオプションをお付けしてお客様のお好みにカスタマイズも可能です。それから……。」

 この店の店員は俺が何気に見ていたその『EZ4』と呼ばれている型番の乗り物について、操作性やらスピードやらといった色々と細かい情報まで教えてくれたが俺に分かったのはこれぐらいだった。
 今目の前にある物がどれをとっても俺が知っている全ての乗り物とも違った、この国独自で作られた異質なその乗り物の仕様は俺は勿論のこと、リリアにも理解はできず………、というか、今も一緒には居てくれるが今朝からずっと口も利いてはくれず、俺から話しかけてもキッと睨まれるだけで意見も聞けなかった。

「……で、…どうなさいます?」

 どれにすれば良いのだろうかと悩んでいると、この店の店員とドナートが声を揃えて俺に問いかけてきた。
 今何気に見ていたものは最新型というだけあって結構高いのだが、逆に安いものは人工精霊を搭載していないので操作が難しいらしい。
 持ち主の魔力を起動部に流して操作するのだが、これはエルフなら当たり前に宿している精霊の力によって操作する物なので、エルフでない俺がすぐさま動かそうとすればとんでもない方向まで全速力で動いてしまったりとか誤作動を起こす可能性が高いらしいので選ぶことができない。
 この街では値段が付けられない程高いものを売ったその代金の代わりとはいえ、何となく最新式のかなり高いものは気が引けてしまう……。

「……あれっ? パウロ? どこ行った? おーい! パウロ~!」

 俺が考え事をしている間に、傍に居たはずのパウロがいつの間にか消えていた。
 どこに行ったのだろうかと名前を呼ぶと、足元でピエトロとアンドレアが俺の服の裾を引っ張り、先程見た『EZ4』の横に展示されていた少し大きめのワゴン車サイズの乗り物を目線で指し示した。
 ピエトロとアンドレアが教えてくれた乗り物の中を見てみると、パウロがフワフワの座席の上で丸まって寝ていた。

「いつの間に……。」

「お連れの方も気に入られた様ですし、こちらになさってはどうですか? こちらは先程の『EZ4』の豪華版となっております“EZ4-R”といいます。性能等には差はございませんが、中はフワフワモコモコの柔らかい素材に覆われておりまして、移動中の心地良い睡眠をお約束します。お値段は……。」

 そう言ってクスクスと笑っている店員に渡された紙を見るとリア金貨二千五百枚と書いてあった。
 リア金貨二千枚あれば、少し街外れにはなるがけっこう良い家が買える値段だ。
 それよりも更にリア金貨五百枚分も高いということに俺は動揺してしまった。

「…あっ? …えっ?」

 俺は値段の書かれた紙を何度も見直した。
 そんな俺の様子も知らないで寝ているパウロをピエトロが起こしに行くが、ミイラ取りがミイラとなって帰ってこなかった。
 呆れ果てたイブが大声を出してニャーと鳴くと、パウロもピエトロもやっと起きた。

「ごめんにゃ~。あまりにも気持ちよくて寝ちゃってたにゃ~。」

 そう言うパウロの寝ていた場所を見ると涎の痕が見事についており、しかもさっきイブの大声にびっくりしたアダムがうっかりと外側に爪を引っ掻けてしまい、ガリっと引っ掻き傷をつけてしまったので止む無く買わざるを得なくなり、ガックリと肩を落とした。

「こ、これにします……。」

 一番高いのを選んだことになってしまい、少々申し訳なくなってチラリとドナートの方を見たがニコニコしていたのでホッと胸をなでおろした。

「お買い上げありがとうどざいま~す!」

 店員はニコニコと嬉しそうに俺たちに笑顔を向けると、少し離れた所に居たドナートに呼ばれてお金の話をしに行った。

「は~ぁ……。こんな一番高いのを買う予定ではなかったんだけどなぁ……。」

「お兄ちゃん! ここ、気持ち良いにゃ~。」

 もう買うことになったので遠慮はいらないのだが、パウロに連れられて入った猫たちは皆フワフワモコモコの虜となって微睡んでいた。
 でも、俺が抱っこしていたイブだけはそんな皆の様子を見て俺が溜め息をついてると、同様に溜め息を吐いてやれやれと呆れていた。
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