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第7章 成長と変化
6.マザコン疑惑
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アダムとピエトロとアンドレアがやんややんやと騒ぐ中、照れと恥ずかしさから俺とリリアは互いに顔を背けたまま暫し口を開けずにいた。
こういう時、年上である俺が率先して話しかけて場の空気を変えた方が良いのは分かっているが……分かってはいるのだが、今まで恋人がいたことすらも無く、これまでの人生の中で女性と関わった経験も指の先ほどしかないが為にどう切り出したらいいものかと思いあぐねていた。
「まったく………。」
そんな中をやれやれといった様子でフウ~と鼻から息を吐きながら、イブは騒いでいた三人をキッと睨んで静かにさせて窘めた。
「ルカ様、リリア。いつまでそうやって恥ずかしがって黙ったままになってるんですか……。それぐらいの事には慣れていただかないと――。こうやって隙を見つけては騒ぐのが好きな男どもがいるんですから。」
そう言ってイブはチラリと横目で三人を見ると、アダムもピエトロもアンドレアも体をビクリとさせてシュンと俯き、尻尾もダラリと垂れ下がっているので相当応えている様だった。
「ルカ様から色が失われたなんて大問題ですよ。そんな呑気に構えていていいんですか? 邪神の呪いのせいかもしれないってのに……。もうちょっと慌てた方がいいと思うんですよね、私は。」
「う~ん……。そうは言ってもさ、イブ。ずーとフードや帽子を被っていて周りには見られていないし、見られた事のある相手が居る場所では今まで通り隠していれば俺の髪色や目の色が変わったことを知られる事なんてないと思う。それに黒色である方が何かと不便だったから、この先は隠す必要もなく楽になると思うよ。今まで見慣れていた物じゃなくなったことで少し寂しい部分はあるけども、……俺にとってはコンプレックスだったから寧ろ解放されて気持ち的には楽になったんだけどな。」
「もうちょっと事の重大さをですねぇ―――。」
抱っこしているパウロの頭を撫でながら俺はあっけらかんとハハハッと笑いながらイブと話をしていると、ゴロゴロと鳴らしていた喉の音を止めてパウロが話しに割って入ってきた。
「イブ~。そんなにカリカリしないでもうちょっと落ち着くにゃ~。ワタチもお揃いじゃなくなったことは寂しいけど……もう仕方のないことだと諦めたにゃ~。お兄ちゃんはお兄ちゃんなのだし……。何かあった時には何かあった時に考えればいいにゃ。今そんなにカリカリしたって何にもならないにゃ~。」
「―――パウロ様がそう仰るのでしたら……。」
パウロののほほんとした雰囲気に圧され、イブはそれ以上口を出すのを止めた。
少しくすんだ金髪に近い色合いの髪はいいとして、正直目の色が菫色というのは少々奇異ではあるのだが――ここは異世界だ。
異世界なので地球でほどはおかしくは無いだろうと俺はそこまで悩まずにいたし、人生初の明るい髪色に少し顔がにやけもしていた。
「これで――今までよりは、母さんに少しは似てるかな?」
親子に見えないと散々言われてきていたのは髪や目の色の所為だけではないのは自分でもどこかで分かっていたが、髪や目の色さえ同じならという思いが年齢を重ねていくほどに深まっていっていた。
だから美人な母さんとは違って女子にモテる見た目でもなく平凡な見た目で、なおかつ身長も低いというわけではないがイタリアとのダブルとしてみれば高くもなく、見た目にコレと言って特徴のない俺は自分自身に劣等感を抱き、その一方で母さんへの憧れにも似た思いから風に揺れてキラキラと艶めいていたあの大好きな髪は「あれさえあれば……」という俺の欠けた思いの象徴だったのだ。
イタリアと日本のダブルだと聞くとさぞや美男もしくは美女がといった感じで想像されて期待され、実際の俺を見た友達の母親らからは「せっかくの欧州人との混血の失敗作」だと陰で言われた事があり、それは幼い頃だけではなく小学校にあがっても中学校へ行くようになっても……ずっと変わらなかった。
それが俺の心の傷となって始終付きまとっていたからこそ、およそ日本人らしくないこの髪や目の色に変わったことでより母を身近に感じられて嬉しくなっていた。
「――『母さんに』って?」
「い、いやいやいや。別に俺はマザコンじゃないからなっ!」
ポツリと言った独り言にリリアが不意に質問してきたので恥ずかしさから焦り、俺は慌てて否定した。
「『マザコン』? 『マザコン』って何?」
「えっ――と、まぁ……。なんというか………。俺は母さんの事は好きだが、度を越してまで好きってわけでもなく―――。別に執着もしてないし―――。」
しどろもどろになってしまっていた。
この世界にない『マザコン』という言葉の意味を聞かれ、説明しようとすればするほど「あれっ? もしかして俺って……」という思いが湧いてきて土壺に嵌ってしまい、どうにも上手く言えなかった。
「―――この年齢になってまで母さんのことが好きって……変、かな?」
「ううん。」
あわあわしながら放った俺の一言にリリアは静かに首を横に振り、俺の目を見てニッコリと微笑んだ。
「私も自分の母さんの事が大好きだし、全然悪い事なんかじゃないわ。特にお兄ちゃんはもう二度と会えないんだから……年齢なんて関係なく、自信をもって大好きだって言える方がずっとずっといい事なのよ。私もそんなお兄ちゃんの方が嬉しいわ。」
「ワタチも!」
リリアの話に賛同する様にパウロも右手をあげた。
「ワタチもママの事は好きだし、お兄ちゃんの事も大好きにゃ~!!」
「クスッ……。パウロったら。」
こういう時、年上である俺が率先して話しかけて場の空気を変えた方が良いのは分かっているが……分かってはいるのだが、今まで恋人がいたことすらも無く、これまでの人生の中で女性と関わった経験も指の先ほどしかないが為にどう切り出したらいいものかと思いあぐねていた。
「まったく………。」
そんな中をやれやれといった様子でフウ~と鼻から息を吐きながら、イブは騒いでいた三人をキッと睨んで静かにさせて窘めた。
「ルカ様、リリア。いつまでそうやって恥ずかしがって黙ったままになってるんですか……。それぐらいの事には慣れていただかないと――。こうやって隙を見つけては騒ぐのが好きな男どもがいるんですから。」
そう言ってイブはチラリと横目で三人を見ると、アダムもピエトロもアンドレアも体をビクリとさせてシュンと俯き、尻尾もダラリと垂れ下がっているので相当応えている様だった。
「ルカ様から色が失われたなんて大問題ですよ。そんな呑気に構えていていいんですか? 邪神の呪いのせいかもしれないってのに……。もうちょっと慌てた方がいいと思うんですよね、私は。」
「う~ん……。そうは言ってもさ、イブ。ずーとフードや帽子を被っていて周りには見られていないし、見られた事のある相手が居る場所では今まで通り隠していれば俺の髪色や目の色が変わったことを知られる事なんてないと思う。それに黒色である方が何かと不便だったから、この先は隠す必要もなく楽になると思うよ。今まで見慣れていた物じゃなくなったことで少し寂しい部分はあるけども、……俺にとってはコンプレックスだったから寧ろ解放されて気持ち的には楽になったんだけどな。」
「もうちょっと事の重大さをですねぇ―――。」
抱っこしているパウロの頭を撫でながら俺はあっけらかんとハハハッと笑いながらイブと話をしていると、ゴロゴロと鳴らしていた喉の音を止めてパウロが話しに割って入ってきた。
「イブ~。そんなにカリカリしないでもうちょっと落ち着くにゃ~。ワタチもお揃いじゃなくなったことは寂しいけど……もう仕方のないことだと諦めたにゃ~。お兄ちゃんはお兄ちゃんなのだし……。何かあった時には何かあった時に考えればいいにゃ。今そんなにカリカリしたって何にもならないにゃ~。」
「―――パウロ様がそう仰るのでしたら……。」
パウロののほほんとした雰囲気に圧され、イブはそれ以上口を出すのを止めた。
少しくすんだ金髪に近い色合いの髪はいいとして、正直目の色が菫色というのは少々奇異ではあるのだが――ここは異世界だ。
異世界なので地球でほどはおかしくは無いだろうと俺はそこまで悩まずにいたし、人生初の明るい髪色に少し顔がにやけもしていた。
「これで――今までよりは、母さんに少しは似てるかな?」
親子に見えないと散々言われてきていたのは髪や目の色の所為だけではないのは自分でもどこかで分かっていたが、髪や目の色さえ同じならという思いが年齢を重ねていくほどに深まっていっていた。
だから美人な母さんとは違って女子にモテる見た目でもなく平凡な見た目で、なおかつ身長も低いというわけではないがイタリアとのダブルとしてみれば高くもなく、見た目にコレと言って特徴のない俺は自分自身に劣等感を抱き、その一方で母さんへの憧れにも似た思いから風に揺れてキラキラと艶めいていたあの大好きな髪は「あれさえあれば……」という俺の欠けた思いの象徴だったのだ。
イタリアと日本のダブルだと聞くとさぞや美男もしくは美女がといった感じで想像されて期待され、実際の俺を見た友達の母親らからは「せっかくの欧州人との混血の失敗作」だと陰で言われた事があり、それは幼い頃だけではなく小学校にあがっても中学校へ行くようになっても……ずっと変わらなかった。
それが俺の心の傷となって始終付きまとっていたからこそ、およそ日本人らしくないこの髪や目の色に変わったことでより母を身近に感じられて嬉しくなっていた。
「――『母さんに』って?」
「い、いやいやいや。別に俺はマザコンじゃないからなっ!」
ポツリと言った独り言にリリアが不意に質問してきたので恥ずかしさから焦り、俺は慌てて否定した。
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「えっ――と、まぁ……。なんというか………。俺は母さんの事は好きだが、度を越してまで好きってわけでもなく―――。別に執着もしてないし―――。」
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「―――この年齢になってまで母さんのことが好きって……変、かな?」
「ううん。」
あわあわしながら放った俺の一言にリリアは静かに首を横に振り、俺の目を見てニッコリと微笑んだ。
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「ワタチも!」
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