異世界神話をこの俺が!?――コンプレックスを乗り越えろ――

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

文字の大きさ
80 / 89
第7章 成長と変化

9.驚愕

しおりを挟む
 ベッドの横で俺たちがワアワアと騒いでいる所為か、アージェが「ウゥーン」と唸り声みたいなのを上げた。
 俺たちはその声に反応してバッと一斉にアージェの方へ視線を向けると、まるで何事も無かったかのように静かに目を覚ましている。

「アージェ!!」

 名前を呼んだが返事はなくアージェは頭だけをコロンとこちらに傾けてゆっくりと瞬きをし、俺の顔をただ見つめてきた。
 パウロが移動して肩の上へとちょこんと座り、両手が空いた俺はそっと手を伸ばして掛けていたベッドの毛布を捲ると、両手で水でも掬うかのようにして小さな子猫の姿になってしまったアージェを慎重に抱き上げた。

「小さくて……軽い―――。」

 まるでここに存在していないかの如く重さを殆ど感じぬほどにその身は軽く、両手の中にすっぽりと収まってしまうほどに小さくなってしまったことを改めて実感し、そんな意識も無く俺の目から勝手に頬を伝って涙がポタリと落ちていた。

「ごめんな、アージェ――。今の状況、自分ではわけが分からないだろうけど……俺たちもどう言ったらいいか―――。」

 子猫の姿のアージェは何も言わず、俺の頬にある涙の痕をペロリと舐めてからそこへ頭突きをする様にして額をグリグリと押し付けてきた。

「ア、アージェ……。」

「――ンニァ。」

「ハハッ……! そんな猫みたいな声を出さなくても―――。」

 アージェから発せられた可愛らしい子猫の様な声にまさかと反射的に反応してしまったが……最後まで言いかけた所ではたと気付いた。

「もしかして………本当に人の言葉を喋れなくなったんじゃ――。」

「そんなっ――! そんなことがっ!?」

 驚愕のあまり不意にこぼれてしまった俺の言葉に皆も驚いている中で、ピエトロが俺に訊ねてきた。

「俺も信じられないけど………。でも……。」

 そこへイブがシュタッとベッドの上へと飛び乗った。

「ルカ様、アージェをここへ。」

「う、うん……。」

 俺はイブに言われるがまま、アージェをベッドの上へとおろした。
 するとイブはアージェに猫語で話しかけるも苦戦しているようで、首を何度も傾げて遂には降参といった状態で下を向いてしまった。

「……ダメです。幼過ぎてまだちゃんと喋れないって感じですね。赤ちゃん語――とでも言うんでしょうか……。それでもポツリポツリ聞き取れた言葉から察するに―――この子はもうアージェじゃありません。」

「「「――――えぇっ!!?」」」

 イブから告げられた言葉に皆で衝撃を受けた。

「そ、それってどういう……?」

「『生まれ変わった』――とでも言いましょうか。アージェであった記憶も何もなく、どうしてルカ様が泣いて、私たちが騒いでいるのかも全く理解していないようです。ただ『ママはどこ?』と……。」

「また、俺の所為―――。」

「いいえっ! 違うわっ!!」

「うんっ! 違うにゃ!!」

 自責の念にかられてぼやく俺を止める様にリリアが俺に抱き着いて否定の言葉を叫び、次いでパウロも俺の頭に抱き着いて叫んだ。

「これは仕方のないこと……事故だったのよ。お兄ちゃんも――誰も悪くないわ!」

「そうにゃ! そうにゃ!」

 リリアの話へパウロが同意を示し、他の猫たちは俺の足元でウンウンと頷いていた。

「そうだぜ! ルカ様。誰もこんな事を予想なんかしていなかった、ルカ様がアージェの命を助ける為にって一生懸命になったってことだけだ。それらは褒められこそすれ、誰彼に責められることなんか1%だってないことなんだぜっ!」

 俺を元気づけようとしてか、アダムがキザっぽくそう言った。

「フフッ……! ありがとう、アダム。でも………どうしよう?」

 こんな状態のアージェを1人で置いていくことなんて勿論できないから俺が責任をもって育てなければとは思うが………。

「運良くって言っていいのか分からないけども、アージェには既に両親は居ない。特に頼れる大人は居ないって言ってたけども……確か友達は居るって言ってたよね。」

「そう……だっけ?」

「うん。リリアはパウロとかと遊んでいたからよく覚えていないかもだけど、前にこの家で皆でご飯を食べた時にそんな話をしたんだよ。この街で親しくしていたのはその友達だけって言っていたし、誰なのかは分からないけど黙って居なくなるわけにはいかないから探し出して伝えないとね~。」

「でも……なんて言うにゃ?」

 リリアと話している途中で、パウロが俺の頭の上から話しかけてきた。

「う~ん………。そのまんまの事実を言ったって信じてもらえないだろうしなぁ……。ちょっと酷な言い方だけど、死んだって事にでもしなければ……。」

「そう………ですね。まぁ、姿も変わって記憶も無いとなればそれに近しい状態ではあるし、『死んだ』というのが間違いとも言えないでしょうしにゃ~。」

 俺の発言にイブはウンウンと頷き、誰も何も言わない中でただ一人賛同の言葉を述べた。
 唯一と言っていいほどにこの中で冷静に物事を考えれるイブを除き、『死んだことにする』って言葉は胸にズンと重しを乗せられた様な気持ちになった感じにお葬式みたいな空気になっていた。
 俺だってそれは憚られたけども………他にどうもしようがなかった。
 下手に希望を持たすようなことを言えば後々に帰ってくるかもしれないって思わせてしまう事になりかねない。
 そう相手に思わせてしまったならば余計に悲しい思いをしてしまうだけだし、俺はこの言い訳が最も良いと思ったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...