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4 円佳センセ
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志穂と別れ、買い物をしてアパートに帰ると「やっと帰って来た。よっサラリーマン」と部屋の前で待ち構えていたのは、セミロングが良く似合う円佳だった。
「何してんの…?」
「待ってたの。一緒にワイン飲もうと思ってね…。寒かったんだからね」
「じゃ待たなきゃいいじゃん」
鍵を開けながら厭味を言う。
「相変わらず可愛くないわね…」
円佳にワインボトルで軽く小突かれ、僕は軽く口の端を持ち上げ「どうぞ」と円佳をリビングに通した…。
グラスにワインをそそぐ円佳。テーブルを挟み対面して座った僕らは軽く近況報告をしながらワインを飲んでいると、急に真剣な顔になった円佳が言った。
「さっきね、寄って来たんだ…。あの桔梗、和紀でしょ」
「あぁ」
「お墓行って来たら?」
「いいよ。俺は」
「そう…。何でカウンセリング来ないの? 私じゃ不満なの?」
「そんな事ないですよ円佳センセ」
「またそうやってちゃかす…」
円佳は朝美の友人で、今年から新米ではあるが精神科医であり、僕は数回円佳のカウンセリングを受けていた。が、最近仕事にかまけて行かなくなった。
それでも一月に一度、円佳は僕の顔を見に来てくれた…。
円佳には感謝してる。
でも…。
「治ったよ。俺は」
「ウソ…」
「ウソじゃないさ」
僕はワインを一口飲んだ。
「和紀なら直ったフリぐらい簡単でしょ」
じっと円佳に見つめられ、僕は観念した。
「…バレたか」
「当たり前でしょ! 今でも朝美の夢見るの?」
「うん、まぁ…」
「朝美が死んだのは和紀のせいじゃないんだよ」
「分かってるよ。分かってるさ…」
これ以上円佳と目を合わせていたくなくて「自分では治ったと思ってる…。円佳には感謝してる。バスにすら乗る事を怖がっていた俺をバスに乗れるようにしてくれた。それだけで充分だよ」と立ち上がりキッチンに向かいながら続けた。
「それに衝動的に自殺したくなるのはカウンセリングを受けたからって直ぐ治るもんじゃないんだろ?」と冷蔵庫を開け中を覗いていると「そうかも知れないけど、私は和紀にッ」と言いかけてやめた事が気になり振り返ると円佳は泣いていた。
「何で円佳が泣いてんだよ」
「だって…」
僕は「だから泣き上戸は嫌なんだよ」と円佳が泣き上戸じゃない事も知っているのに愚痴り「悪かった…」と円佳を抱き寄せ少しだけ消毒の匂いがする髪を撫でていると「うん…。まだ外せないんだね。朝美の腕時計…」と呟いた。
僕は苦笑いし「うん…まぁ…」と返した。
朝美が死んでから、僕は自分に似合わないと分かっていて、いつも朝美が付けていた小さな腕時計を付ける事にした。
朝美が生きていた事を忘れない為じゃなく、朝美が死んだ事を忘れない為に僕は朝美の腕時計を付ける事にした。
円佳の涙を拭ってやりベッドに座らせた。
「ねぇ、和紀。もう、いいんじゃない? もう、充分だと思うよ。これからは自分の為に生きなよ」
円佳はジッと腕時計を見ながら言い、僕は「どう何だろうな…」とはぐらかしてみた。
「気になる娘いないの?」
「気になる娘ねぇ…」
一瞬浮かんだのは…。
「…ねぇ、しよう…」
言われ僕はジッと円佳を見つめ返事は返さず円佳をベッドに押し倒し小さな唇にキスをした。「ハァ」「ンッ」と息切れしながら舌を絡め合い、ワインで赤いのか、恥ずかしくて赤いのか、真っ赤な顔の円佳の服を脱がして行くと、右腕に包帯を巻いていた。
「どうしたの?」
「あぁ、今日病院でカルテ書いてたら上からダンボール落ちて来ちゃって。打ち身だしたいした怪我じゃないんだけどさ…」
「痛いの?」
「うん、まぁ…」
僕は両手で円佳の右腕の包帯の上から優しく掴み「フゥー」と縦に息を吐くと、円佳はじっと僕を見つめ「うん、もう痛くないよ」と言い僕は手を離した。
「相変わらずすごい『力』だね」
「何の役にも立たないよ」
「役に立ってるよ。ありがとう」
言うと円佳の方から舌を絡めて来た。
僕は円佳の形の良い胸を揉んでいると「和紀、愛してる…」と囁く声が聞こえた。
分かってるんだろ?
俺は性欲で円佳を抱いてるって。
円佳を愛してるかどうかで、抱いてるんじゃないって…。
円佳を抱くのはこれが初めてじゃない。
朝美が交通事故で死んで一緒に泣いてくれたのは円佳だけだった。
お互い慰める為に身体を重ねたのが始まりだった。
朝美への裏切りだと分かっていた。
でも寂しさを埋めてくれたのは朝美と雰囲気の似てる円佳だけだった…。
円佳を抱き続け、疲れ果てた円佳は眠ってしまった。
ほどけた円佳の包帯を見つめながら僕も眠っていた。
「何してんの…?」
「待ってたの。一緒にワイン飲もうと思ってね…。寒かったんだからね」
「じゃ待たなきゃいいじゃん」
鍵を開けながら厭味を言う。
「相変わらず可愛くないわね…」
円佳にワインボトルで軽く小突かれ、僕は軽く口の端を持ち上げ「どうぞ」と円佳をリビングに通した…。
グラスにワインをそそぐ円佳。テーブルを挟み対面して座った僕らは軽く近況報告をしながらワインを飲んでいると、急に真剣な顔になった円佳が言った。
「さっきね、寄って来たんだ…。あの桔梗、和紀でしょ」
「あぁ」
「お墓行って来たら?」
「いいよ。俺は」
「そう…。何でカウンセリング来ないの? 私じゃ不満なの?」
「そんな事ないですよ円佳センセ」
「またそうやってちゃかす…」
円佳は朝美の友人で、今年から新米ではあるが精神科医であり、僕は数回円佳のカウンセリングを受けていた。が、最近仕事にかまけて行かなくなった。
それでも一月に一度、円佳は僕の顔を見に来てくれた…。
円佳には感謝してる。
でも…。
「治ったよ。俺は」
「ウソ…」
「ウソじゃないさ」
僕はワインを一口飲んだ。
「和紀なら直ったフリぐらい簡単でしょ」
じっと円佳に見つめられ、僕は観念した。
「…バレたか」
「当たり前でしょ! 今でも朝美の夢見るの?」
「うん、まぁ…」
「朝美が死んだのは和紀のせいじゃないんだよ」
「分かってるよ。分かってるさ…」
これ以上円佳と目を合わせていたくなくて「自分では治ったと思ってる…。円佳には感謝してる。バスにすら乗る事を怖がっていた俺をバスに乗れるようにしてくれた。それだけで充分だよ」と立ち上がりキッチンに向かいながら続けた。
「それに衝動的に自殺したくなるのはカウンセリングを受けたからって直ぐ治るもんじゃないんだろ?」と冷蔵庫を開け中を覗いていると「そうかも知れないけど、私は和紀にッ」と言いかけてやめた事が気になり振り返ると円佳は泣いていた。
「何で円佳が泣いてんだよ」
「だって…」
僕は「だから泣き上戸は嫌なんだよ」と円佳が泣き上戸じゃない事も知っているのに愚痴り「悪かった…」と円佳を抱き寄せ少しだけ消毒の匂いがする髪を撫でていると「うん…。まだ外せないんだね。朝美の腕時計…」と呟いた。
僕は苦笑いし「うん…まぁ…」と返した。
朝美が死んでから、僕は自分に似合わないと分かっていて、いつも朝美が付けていた小さな腕時計を付ける事にした。
朝美が生きていた事を忘れない為じゃなく、朝美が死んだ事を忘れない為に僕は朝美の腕時計を付ける事にした。
円佳の涙を拭ってやりベッドに座らせた。
「ねぇ、和紀。もう、いいんじゃない? もう、充分だと思うよ。これからは自分の為に生きなよ」
円佳はジッと腕時計を見ながら言い、僕は「どう何だろうな…」とはぐらかしてみた。
「気になる娘いないの?」
「気になる娘ねぇ…」
一瞬浮かんだのは…。
「…ねぇ、しよう…」
言われ僕はジッと円佳を見つめ返事は返さず円佳をベッドに押し倒し小さな唇にキスをした。「ハァ」「ンッ」と息切れしながら舌を絡め合い、ワインで赤いのか、恥ずかしくて赤いのか、真っ赤な顔の円佳の服を脱がして行くと、右腕に包帯を巻いていた。
「どうしたの?」
「あぁ、今日病院でカルテ書いてたら上からダンボール落ちて来ちゃって。打ち身だしたいした怪我じゃないんだけどさ…」
「痛いの?」
「うん、まぁ…」
僕は両手で円佳の右腕の包帯の上から優しく掴み「フゥー」と縦に息を吐くと、円佳はじっと僕を見つめ「うん、もう痛くないよ」と言い僕は手を離した。
「相変わらずすごい『力』だね」
「何の役にも立たないよ」
「役に立ってるよ。ありがとう」
言うと円佳の方から舌を絡めて来た。
僕は円佳の形の良い胸を揉んでいると「和紀、愛してる…」と囁く声が聞こえた。
分かってるんだろ?
俺は性欲で円佳を抱いてるって。
円佳を愛してるかどうかで、抱いてるんじゃないって…。
円佳を抱くのはこれが初めてじゃない。
朝美が交通事故で死んで一緒に泣いてくれたのは円佳だけだった。
お互い慰める為に身体を重ねたのが始まりだった。
朝美への裏切りだと分かっていた。
でも寂しさを埋めてくれたのは朝美と雰囲気の似てる円佳だけだった…。
円佳を抱き続け、疲れ果てた円佳は眠ってしまった。
ほどけた円佳の包帯を見つめながら僕も眠っていた。
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