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第一章 戦女神降臨
第五話 修羅場
で、自室へ戻る途中、ちょっとした事件に遭遇した。
ついていない日は、とことんついていないらしい。
顔の綺麗な男性が、誰かの部屋から飛び出してきて、危うくぶつかりそうになったのだ。長い亜麻色の髪にすみれ色の瞳、女性のような面立ちである。泣いていて服装が乱れているとなると、何があったかは想像に難くない。こういう場合、男に襲われたって場合も考えられるが、あ、女だった。しかも顔見知り。
視線が冷たくなってしまう。こいつも若作りか……ぜっんぜん年食ってないでやんの。年相応なのはルーファスだけなんだな。
飛び出してきた男性をかばうように前に立てば、
「邪魔をしないで頂戴」
これまた綺麗な顔の女、リアン・クリスタに睨み付けられてしまった。いや、するだろ普通。リアンと見つめ合ってしまう。本当、見た目は楚々とした清純派タイプなんだよな、こいつ。そう、見た目だけは……。
「嫌がっている」
私がそう告げると、リアンが面白くもなさそうに言う。
「ちょっとした誤解よ、誤解。その子はね、合成種なの。きちんとしつけておかないと危ないのよ」
合成種? 後ろを振り向き、ゴーグルを付けられた綺麗な顔をまじまじと見てしまう。それで邪力阻害ゴーグル? いや、でも、こいつ……。
「……お前、年幾つだ?」
私にすがりついている男性に聞いてみると、
「え? え、と……二十四だけど……」
二十四? それにしちゃ頼りないな。私の今世の年、十六才だぞ……自分より八つも下の人間に助けを求めるってちょっと情けな……いや、やめとくか。泣いてるもんなぁ。ため息交じりに言った。
「二十四なら、邪眼を持ってるってわけでもないだろうに、なんでお前、邪力阻害ゴーグルなんか付けてんだよ? 意味ないだろ?」
コンコンと男の顔にはめられたゴーグルを叩くと、
「いえ、あの、僕は……」
「ああ、その子は特殊なのよ。邪眼を持った合成種ではあるけれど、短命じゃなかったみたいね。珍しいわ」
リアンの答えに私は驚いた。
珍しいどころじゃない。奇跡じゃないか! 短命じゃない邪眼の持ち主なんか見たことがないぞ。邪眼の力が持ち主の命と精神を削るので、長生きできないのだ。私が知っている限り、邪眼の持ち主の最高年齢は十五才だ。
「凄いなお前。もしかして神々の祝福でももらったのか? あ、ちょっとかがめ」
青年に頭を下げてもらい、邪力阻害ゴーグルを外す。
やり方さえ知っていれば、こんな風に魔道士でなくても外せるので便利だ。そして前世、私はしょっちゅうこういったことをやらかしていて、魔道士達に睨まれていた。もちろんそんなものは気にしなかったけれど。肝っ玉の小さい連中が悪い。
と、リアンが金切り声を上げた。
「何をするの!」
「いや、何って邪魔……」
「邪眼がどういうものか知らないの? この無知な馬鹿女! 邪眼はね、視線だけで相手の命を奪えるのよ! 危険なの!」
私はむっとする。
「それがどうした? 何びびってんだよ。邪眼の力も魔道の力も大して違わない。危険だっていうんならな、あんたも魔力封じの首輪でもつけたらどうだ? 普通の人間だってな、ナイフ一本持ってりゃ殺傷できるんだよ。こんな風に!」
僅かな動作でリアンの喉元にナイフを突きつけてみせる。
こういった暗殺術はお手の物だ。非力なので、正面切って戦うやりかたは苦手だったが、こうやって隙を突くのは得意だった。油断させ寝首をかく、それが私のやり方だ。
「あ……う……」
ナイフを突きつけられリアンは動けない。
瞳に殺気を込めてみせる。
「分かったか? 邪力阻害ゴーグルなんていらないよ。犯罪者じゃあるまいし。ここにいる合成種は、危険が無いと判断したからこそ、暁の塔に入れたんだろ? だったらそれ相応の扱いをしたらどうなんだよ? こいつらだってれっきとした人間なんだ」
ナイフを引くと、
「……あなた、わたくしが五大魔道士の一人だと分かっているのかしら?」
憎々しげにリアンにそう告げられ、私は顔が引きつった。
うわ! リアンが五大魔道士? エレミアは実力主義とか言っていたから、成る程、性格はどーでもいいってことか? 妙に納得してしまう。
確かにリアンは実力はあったが、こいつも性格最悪だ。合成種を蔑んでいたくせに、きっちりサイラスに言い寄っていたことを私は知っている。
まぁ、それだけサイラスが良い男だったってことかもしれないが……。
私の驚きを別の意味に取ったらしいリアンが、うっすらと笑う。
「あらあら、ようやく自分の立場が分かったようねぇ?」
猫がネズミをいたぶるような声音だ。
「厳罰は覚悟した方がいいわよ? なにせ、五大魔道士の一人であるこのわたくしを侮辱したのですから……」
うーん、そこで高飛車に出られても、既にあんたの行為が赤っ恥。
「いや、それ以前に、自分の孫みたいな年の男を手込めにしようとしたって事実だけでも超恥ずかしい……」
私の言葉途中でリアンがいきり立つ。
「おだまりなさい! これ以上の侮辱は許しませんよ!」
つってもなぁ……ちらりと綺麗な顔立ちの青年に目を向ける。
「お前、名前は?」
「ヨアヒム・モディ」
ん? 何かどっかで聞き覚えが……。
「何をしている」
突如、背後から聞こえた低い声に、私はびくんっとなった。誰よりもよく知っている声。心が喜びに震え、涙がでそうになる。愛しくてたまらない声。会いたくて、会いたくて……もう一度会いたいとこいねがった者の声だ。
「サイラス……」
リアンがそう呟く。
そう、その言葉通り、振り返れば、白いローブ姿のサイラスが立っていた。長い金の髪は日の光のように煌めき、端正な顔立ちは美術品のよう。静かな佇まいだが、ただそこにいるだけでサイラスは圧倒的な存在感があった。そこだけ空気が違う。
リアンの顔色が目に見えて青ざめた。
「わ、わたくしは何も、何もしていないわ。ただ、そう……話をしていただけよ」
リアンがそんな言い訳を口にする。どう見ても怯えているな。
まぁ、無理もないか。サイラスの魔力は桁違いに大きい。合成種でさえなければ、確実に五大魔道士の一人に選ばれていたはず。いや、それ以上かも……。正面切って戦えば、リアンはサイラスの足下にも及ばない。
サイラスが言う。
「……合成種を害することはこの私が許さない。分かっているな? 約束を違えた時は全面戦争だ。覚悟してもらう」
脅すようなサイラスのこの口調……。暁の塔に喧嘩をふっかけたって本当だったんだな。
「……分かっているわよ」
しぶしぶといった感じでリアンが引き下がる。
「ヨアヒム、こちらへ来るんだ」
サイラスがそう言うのに、
「嫌だ」
なんてぬかす馬鹿は誰だ? あ、こいつだ。ヨアヒム・モディとかいう顔の綺麗な弱っちい奴。私にしがみついて離れそうにない。いや、いいから、さっさと行けよ。せっかくサイラスが迎えに来てくれたって言うのに、何やってんだ?
「サイラスの所へ行った方が良い」
私がそう言うと、ますますしがみついてきて、
「い、嫌だよ、その……君と一緒にいちゃ駄目?」
何ぬかす! うわぁ、リアンの目もプリザード! これって嫉妬されているとかいう奴か? 違う、違う! ひっついてるのこいつだ、こいつ!
「ヨアヒム、彼女は駄目だ」
サイラスの声が微妙に変化した。
あ、これは……ちょっと怒ってる? 苛ついている時の声だ。サイラスが苛つくなんて滅多にないんだけど……。感情の起伏乏しいもんな、お前。無表情が標準だ。だからこそ笑顔に威力があるんだけど。見るだけで幸せになれる。
「僕に命令しないで!」
「いいから、来るんだ!」
サイラスに腕を掴まれて、ヨアヒムは暴れているけど、軽々押さえ込まれてしまう。まぁ、無理だよな。サイラス相手じゃ、どんな奴でもこうなる。
「嫌だったら、嫌だ! お前なんか大っ嫌いだ! 離せ、離せってば!」
肩に担ぎ上げられ、ヨアヒムはじたばた暴れるも、サイラスはびくともしない。
しかし、嫌いって……ちょっと聞き捨てならない台詞だ。
「あー、サイラス、ちょっと待って」
ちゃんと足を止めてくれて助かった。
「そいつと友達になりたい。連れて行ってもいいか?」
何だか複雑な顔をされた。
「……魔道士どもに睨まれるぞ?」
「いつものことじゃん」
私がけろりと言うと、
「止めても無駄か?」
「私がそいつの周囲をうろつくから無理だね」
「……なんでそう面倒ごとに足を突っ込む」
サイラスの眉間に皺が寄る。
お前が好きだから、というのは言わないけれど、
「こういう性格なんだ。お前もよく知ってるだろ?」
にっこり笑ってやれば、ようよう諦めたようだ。
ため息交じりにサイラスがヨアヒムを下ろすと、さあっと彼が私の背に隠れた。いや、ちょっと情けないから、女の後ろに隠れるとかやめような?
リアンが面白くもなさそうに鼻を鳴らす。
「その年で男をくわえ込むなんて、とんだあばずれね」
リアン、お前にだけは言われたくないぞ。
「口を慎め」
そう文句を言ったのはサイラスだった。ちょっとビックリ。かばってくれたんだよな? サイラスの眼光に気圧されたように、リアンが後ずさる。
「な、何よ。彼女とあなた、どんな関係があるっていうのよ?」
元妻ですと心の中だけで言う。
「彼女は聖女候補だ」
サイラスがそう告げると、リアンはぎょっとしたようで、
「……な、なら、さっさと行きなさい。目障りよ」
舌打ちでも漏らしそうな風体でリアンは身を翻し、自室の中へと消える。救世主様……本当に偉いんだな。でも、選ばれたくない。サイラスの敵になるのだけは嫌だ。
「……迷惑はかけるな?」
サイラスがヨアヒムという青年にそう声をかけるも、彼は返事もしない。むくれたようにぷいっと横を向く。本当にサイラスを嫌っているようだ。一体どうなっているんだ?
「大丈夫、適当なところで蹴り出すから」
サイラスにそう告げ、ヨアヒムという青年を連れて歩き出す。自室へ向かいながら、ふと思い出す。
――ヨアヒム・モディっつう、くそったれ
ゼノスがそう言っていた事を。
引き受けたのまずかったか? そんな思いがとぐろった。
ついていない日は、とことんついていないらしい。
顔の綺麗な男性が、誰かの部屋から飛び出してきて、危うくぶつかりそうになったのだ。長い亜麻色の髪にすみれ色の瞳、女性のような面立ちである。泣いていて服装が乱れているとなると、何があったかは想像に難くない。こういう場合、男に襲われたって場合も考えられるが、あ、女だった。しかも顔見知り。
視線が冷たくなってしまう。こいつも若作りか……ぜっんぜん年食ってないでやんの。年相応なのはルーファスだけなんだな。
飛び出してきた男性をかばうように前に立てば、
「邪魔をしないで頂戴」
これまた綺麗な顔の女、リアン・クリスタに睨み付けられてしまった。いや、するだろ普通。リアンと見つめ合ってしまう。本当、見た目は楚々とした清純派タイプなんだよな、こいつ。そう、見た目だけは……。
「嫌がっている」
私がそう告げると、リアンが面白くもなさそうに言う。
「ちょっとした誤解よ、誤解。その子はね、合成種なの。きちんとしつけておかないと危ないのよ」
合成種? 後ろを振り向き、ゴーグルを付けられた綺麗な顔をまじまじと見てしまう。それで邪力阻害ゴーグル? いや、でも、こいつ……。
「……お前、年幾つだ?」
私にすがりついている男性に聞いてみると、
「え? え、と……二十四だけど……」
二十四? それにしちゃ頼りないな。私の今世の年、十六才だぞ……自分より八つも下の人間に助けを求めるってちょっと情けな……いや、やめとくか。泣いてるもんなぁ。ため息交じりに言った。
「二十四なら、邪眼を持ってるってわけでもないだろうに、なんでお前、邪力阻害ゴーグルなんか付けてんだよ? 意味ないだろ?」
コンコンと男の顔にはめられたゴーグルを叩くと、
「いえ、あの、僕は……」
「ああ、その子は特殊なのよ。邪眼を持った合成種ではあるけれど、短命じゃなかったみたいね。珍しいわ」
リアンの答えに私は驚いた。
珍しいどころじゃない。奇跡じゃないか! 短命じゃない邪眼の持ち主なんか見たことがないぞ。邪眼の力が持ち主の命と精神を削るので、長生きできないのだ。私が知っている限り、邪眼の持ち主の最高年齢は十五才だ。
「凄いなお前。もしかして神々の祝福でももらったのか? あ、ちょっとかがめ」
青年に頭を下げてもらい、邪力阻害ゴーグルを外す。
やり方さえ知っていれば、こんな風に魔道士でなくても外せるので便利だ。そして前世、私はしょっちゅうこういったことをやらかしていて、魔道士達に睨まれていた。もちろんそんなものは気にしなかったけれど。肝っ玉の小さい連中が悪い。
と、リアンが金切り声を上げた。
「何をするの!」
「いや、何って邪魔……」
「邪眼がどういうものか知らないの? この無知な馬鹿女! 邪眼はね、視線だけで相手の命を奪えるのよ! 危険なの!」
私はむっとする。
「それがどうした? 何びびってんだよ。邪眼の力も魔道の力も大して違わない。危険だっていうんならな、あんたも魔力封じの首輪でもつけたらどうだ? 普通の人間だってな、ナイフ一本持ってりゃ殺傷できるんだよ。こんな風に!」
僅かな動作でリアンの喉元にナイフを突きつけてみせる。
こういった暗殺術はお手の物だ。非力なので、正面切って戦うやりかたは苦手だったが、こうやって隙を突くのは得意だった。油断させ寝首をかく、それが私のやり方だ。
「あ……う……」
ナイフを突きつけられリアンは動けない。
瞳に殺気を込めてみせる。
「分かったか? 邪力阻害ゴーグルなんていらないよ。犯罪者じゃあるまいし。ここにいる合成種は、危険が無いと判断したからこそ、暁の塔に入れたんだろ? だったらそれ相応の扱いをしたらどうなんだよ? こいつらだってれっきとした人間なんだ」
ナイフを引くと、
「……あなた、わたくしが五大魔道士の一人だと分かっているのかしら?」
憎々しげにリアンにそう告げられ、私は顔が引きつった。
うわ! リアンが五大魔道士? エレミアは実力主義とか言っていたから、成る程、性格はどーでもいいってことか? 妙に納得してしまう。
確かにリアンは実力はあったが、こいつも性格最悪だ。合成種を蔑んでいたくせに、きっちりサイラスに言い寄っていたことを私は知っている。
まぁ、それだけサイラスが良い男だったってことかもしれないが……。
私の驚きを別の意味に取ったらしいリアンが、うっすらと笑う。
「あらあら、ようやく自分の立場が分かったようねぇ?」
猫がネズミをいたぶるような声音だ。
「厳罰は覚悟した方がいいわよ? なにせ、五大魔道士の一人であるこのわたくしを侮辱したのですから……」
うーん、そこで高飛車に出られても、既にあんたの行為が赤っ恥。
「いや、それ以前に、自分の孫みたいな年の男を手込めにしようとしたって事実だけでも超恥ずかしい……」
私の言葉途中でリアンがいきり立つ。
「おだまりなさい! これ以上の侮辱は許しませんよ!」
つってもなぁ……ちらりと綺麗な顔立ちの青年に目を向ける。
「お前、名前は?」
「ヨアヒム・モディ」
ん? 何かどっかで聞き覚えが……。
「何をしている」
突如、背後から聞こえた低い声に、私はびくんっとなった。誰よりもよく知っている声。心が喜びに震え、涙がでそうになる。愛しくてたまらない声。会いたくて、会いたくて……もう一度会いたいとこいねがった者の声だ。
「サイラス……」
リアンがそう呟く。
そう、その言葉通り、振り返れば、白いローブ姿のサイラスが立っていた。長い金の髪は日の光のように煌めき、端正な顔立ちは美術品のよう。静かな佇まいだが、ただそこにいるだけでサイラスは圧倒的な存在感があった。そこだけ空気が違う。
リアンの顔色が目に見えて青ざめた。
「わ、わたくしは何も、何もしていないわ。ただ、そう……話をしていただけよ」
リアンがそんな言い訳を口にする。どう見ても怯えているな。
まぁ、無理もないか。サイラスの魔力は桁違いに大きい。合成種でさえなければ、確実に五大魔道士の一人に選ばれていたはず。いや、それ以上かも……。正面切って戦えば、リアンはサイラスの足下にも及ばない。
サイラスが言う。
「……合成種を害することはこの私が許さない。分かっているな? 約束を違えた時は全面戦争だ。覚悟してもらう」
脅すようなサイラスのこの口調……。暁の塔に喧嘩をふっかけたって本当だったんだな。
「……分かっているわよ」
しぶしぶといった感じでリアンが引き下がる。
「ヨアヒム、こちらへ来るんだ」
サイラスがそう言うのに、
「嫌だ」
なんてぬかす馬鹿は誰だ? あ、こいつだ。ヨアヒム・モディとかいう顔の綺麗な弱っちい奴。私にしがみついて離れそうにない。いや、いいから、さっさと行けよ。せっかくサイラスが迎えに来てくれたって言うのに、何やってんだ?
「サイラスの所へ行った方が良い」
私がそう言うと、ますますしがみついてきて、
「い、嫌だよ、その……君と一緒にいちゃ駄目?」
何ぬかす! うわぁ、リアンの目もプリザード! これって嫉妬されているとかいう奴か? 違う、違う! ひっついてるのこいつだ、こいつ!
「ヨアヒム、彼女は駄目だ」
サイラスの声が微妙に変化した。
あ、これは……ちょっと怒ってる? 苛ついている時の声だ。サイラスが苛つくなんて滅多にないんだけど……。感情の起伏乏しいもんな、お前。無表情が標準だ。だからこそ笑顔に威力があるんだけど。見るだけで幸せになれる。
「僕に命令しないで!」
「いいから、来るんだ!」
サイラスに腕を掴まれて、ヨアヒムは暴れているけど、軽々押さえ込まれてしまう。まぁ、無理だよな。サイラス相手じゃ、どんな奴でもこうなる。
「嫌だったら、嫌だ! お前なんか大っ嫌いだ! 離せ、離せってば!」
肩に担ぎ上げられ、ヨアヒムはじたばた暴れるも、サイラスはびくともしない。
しかし、嫌いって……ちょっと聞き捨てならない台詞だ。
「あー、サイラス、ちょっと待って」
ちゃんと足を止めてくれて助かった。
「そいつと友達になりたい。連れて行ってもいいか?」
何だか複雑な顔をされた。
「……魔道士どもに睨まれるぞ?」
「いつものことじゃん」
私がけろりと言うと、
「止めても無駄か?」
「私がそいつの周囲をうろつくから無理だね」
「……なんでそう面倒ごとに足を突っ込む」
サイラスの眉間に皺が寄る。
お前が好きだから、というのは言わないけれど、
「こういう性格なんだ。お前もよく知ってるだろ?」
にっこり笑ってやれば、ようよう諦めたようだ。
ため息交じりにサイラスがヨアヒムを下ろすと、さあっと彼が私の背に隠れた。いや、ちょっと情けないから、女の後ろに隠れるとかやめような?
リアンが面白くもなさそうに鼻を鳴らす。
「その年で男をくわえ込むなんて、とんだあばずれね」
リアン、お前にだけは言われたくないぞ。
「口を慎め」
そう文句を言ったのはサイラスだった。ちょっとビックリ。かばってくれたんだよな? サイラスの眼光に気圧されたように、リアンが後ずさる。
「な、何よ。彼女とあなた、どんな関係があるっていうのよ?」
元妻ですと心の中だけで言う。
「彼女は聖女候補だ」
サイラスがそう告げると、リアンはぎょっとしたようで、
「……な、なら、さっさと行きなさい。目障りよ」
舌打ちでも漏らしそうな風体でリアンは身を翻し、自室の中へと消える。救世主様……本当に偉いんだな。でも、選ばれたくない。サイラスの敵になるのだけは嫌だ。
「……迷惑はかけるな?」
サイラスがヨアヒムという青年にそう声をかけるも、彼は返事もしない。むくれたようにぷいっと横を向く。本当にサイラスを嫌っているようだ。一体どうなっているんだ?
「大丈夫、適当なところで蹴り出すから」
サイラスにそう告げ、ヨアヒムという青年を連れて歩き出す。自室へ向かいながら、ふと思い出す。
――ヨアヒム・モディっつう、くそったれ
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引き受けたのまずかったか? そんな思いがとぐろった。
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