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ヴェルフリートの言葉を受けて、フィオレッタは胸の奥がじんわりと熱くなっていた。疑いや罵声ではなく、感謝。初めて誰かが、自分の言葉をそのまま信じてくれた――それだけで、涙がこみ上げそうだった。
(信じてもらえるって、こんなにも嬉しいことなのね)
いかに自分があの家に毒されていたのかがよくわかる。この町に来て、本当に良かった。そう思ったところで、フィオレッタはそっとティナの頭を撫でた。
(もう誤解も解けているのであれば、長居をするわけにもいかないわ)
気持ちを整えるように息を吸い、フィオレッタは丁寧に頭を下げた。
「では、私はそろそろ宿屋に戻ります。ティナ様に何事もなくて良かったです」
そう告げた瞬間、ティナが慌ててスカートを引く。
「やだ! フィオおねえちゃま、かえっちゃだめ!」
「ティナ……」
フィオレッタが困ったように笑うと、ヴェルフリートが短く息を吐いた。
冷静な青の瞳に、わずかな逡巡が見える。
「待て。……君に少し、話がある」
その低い声に、室内の空気がわずかに張り詰めた。
クラウスがそれを見て、にやりと笑う。
「オレの見立てじゃ、あの話、フィオ様にぴったりだと思いますけどね!」
「クラウス」
「はいはい、わかってますって。では、ティナ様。ちょっと一緒にお散歩しましょうか!」
ヴェルフリートに険しい眼光を向けられたクラウスは、彼にひらひらと手を振ったあと、身をかがめてティナに向き合った。
「えっ、でも……!」
「すぐ戻りますから。フィオ様にもすぐに会えますよ。ね?」
「うん……」
クラウスがサムズアップをしてウインクすると、ティナも渋々頷き、ぬいぐるみを抱えて部屋を出ていった。
幼子にあんな約束をして大丈夫だろうか。
フィオレッタが心配そうに見ている中で、扉が静かに閉まる。
執務室には、フィオレッタとヴェルフリートの二人だけだ。
短い沈黙のあと、ヴェルフリートが眼鏡を外した。
無骨な指が机の上をなぞる。何かを探すように言葉を選びながら、ゆっくりと口を開く。
「ティナが随分懐いているな」
「は、はい。そうですね。会ったばかりですが……」
「……あの子の母親は、君と同じ赤髪だった」
その言葉に、フィオレッタの胸がひやりと冷える。
やはり、と思った。けれど、確信に変わると同時になぜだか胸の奥が痛んだ。
「やはり、ティナ様のご両親はもう亡くなっているのですね」
「その通りだ。君は外から来たから知らないのだったな。エルグラント領の前領主夫妻は、三ヶ月前に不慮の事故で亡くなっている」
ヴェルフリートの声は静かだが、その低い響きには深い疲労が滲んでいた。
「三ヶ月前……」
「ああ」
淡々とした語り口なのに、その奥にわずかな悔恨が混じっているように思える。あの小さな子は、やはり親を亡くしていた。懸命に花を摘んでいたのは、両親に手向けるためだったのだろう。
フィオレッタは何も言えず、ただ静かにうつむいた。川辺で泣いていたあの小さな背中を思い出すと、より一層彼女の孤独を知るようだった。
「俺が急遽領地を継ぐことになったが、執務に追われてあの子のそばにいられる時間は限られている。それで……」
フィオレッタは黙って頷いた。
彼は一瞬ためらい、それでも正面から彼女を見た。
「――フィオと言ったな。君に頼みがある。この城に滞在し、ティナのそばにいてくれないか」
「……え?」
唐突な申し出に、フィオレッタは瞬きをした。
まさか領主本人からそんなことを言われるとは思うはずがない。
(信じてもらえるって、こんなにも嬉しいことなのね)
いかに自分があの家に毒されていたのかがよくわかる。この町に来て、本当に良かった。そう思ったところで、フィオレッタはそっとティナの頭を撫でた。
(もう誤解も解けているのであれば、長居をするわけにもいかないわ)
気持ちを整えるように息を吸い、フィオレッタは丁寧に頭を下げた。
「では、私はそろそろ宿屋に戻ります。ティナ様に何事もなくて良かったです」
そう告げた瞬間、ティナが慌ててスカートを引く。
「やだ! フィオおねえちゃま、かえっちゃだめ!」
「ティナ……」
フィオレッタが困ったように笑うと、ヴェルフリートが短く息を吐いた。
冷静な青の瞳に、わずかな逡巡が見える。
「待て。……君に少し、話がある」
その低い声に、室内の空気がわずかに張り詰めた。
クラウスがそれを見て、にやりと笑う。
「オレの見立てじゃ、あの話、フィオ様にぴったりだと思いますけどね!」
「クラウス」
「はいはい、わかってますって。では、ティナ様。ちょっと一緒にお散歩しましょうか!」
ヴェルフリートに険しい眼光を向けられたクラウスは、彼にひらひらと手を振ったあと、身をかがめてティナに向き合った。
「えっ、でも……!」
「すぐ戻りますから。フィオ様にもすぐに会えますよ。ね?」
「うん……」
クラウスがサムズアップをしてウインクすると、ティナも渋々頷き、ぬいぐるみを抱えて部屋を出ていった。
幼子にあんな約束をして大丈夫だろうか。
フィオレッタが心配そうに見ている中で、扉が静かに閉まる。
執務室には、フィオレッタとヴェルフリートの二人だけだ。
短い沈黙のあと、ヴェルフリートが眼鏡を外した。
無骨な指が机の上をなぞる。何かを探すように言葉を選びながら、ゆっくりと口を開く。
「ティナが随分懐いているな」
「は、はい。そうですね。会ったばかりですが……」
「……あの子の母親は、君と同じ赤髪だった」
その言葉に、フィオレッタの胸がひやりと冷える。
やはり、と思った。けれど、確信に変わると同時になぜだか胸の奥が痛んだ。
「やはり、ティナ様のご両親はもう亡くなっているのですね」
「その通りだ。君は外から来たから知らないのだったな。エルグラント領の前領主夫妻は、三ヶ月前に不慮の事故で亡くなっている」
ヴェルフリートの声は静かだが、その低い響きには深い疲労が滲んでいた。
「三ヶ月前……」
「ああ」
淡々とした語り口なのに、その奥にわずかな悔恨が混じっているように思える。あの小さな子は、やはり親を亡くしていた。懸命に花を摘んでいたのは、両親に手向けるためだったのだろう。
フィオレッタは何も言えず、ただ静かにうつむいた。川辺で泣いていたあの小さな背中を思い出すと、より一層彼女の孤独を知るようだった。
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フィオレッタは黙って頷いた。
彼は一瞬ためらい、それでも正面から彼女を見た。
「――フィオと言ったな。君に頼みがある。この城に滞在し、ティナのそばにいてくれないか」
「……え?」
唐突な申し出に、フィオレッタは瞬きをした。
まさか領主本人からそんなことを言われるとは思うはずがない。
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