魔法少女と悪の下っ端おじさん

おてんと

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第120話 タイツゴッドと贖罪

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 「はは、なんでここに君が居るのさ、タイツゴッド。海外に居たんじゃないの?」

 「走ってきた」

 「げ、マジでできんのかよ」


 都会のとあるビルの屋上。ここには同じ格好をした悪の組織の下っ端戦闘員が二人居る。

 どちらも同じ背丈で、同じ体格で、同じ声で。

 それは下っ端戦闘員という量産型の敵だからではない。全くの同一人物だからだ。

 付け加えるのなら、片方は“上っ面だけ”だが。

 そんな二人の下っ端戦闘員を、沈みゆく夕日がオレンジ色に染め上げていく。


 「にしても、度し難いね。怪人のくせに、そんな少女一人のために憤慨するなんて情けないよ」


 と言ったのは、アルレッキーノだ。

 やれやれと言った様子で、首を振る。


 「怪人がさ、ヒーローがやっているような慈善活動なんてしちゃ――」


 そう、アルレッキーノが言い掛けたときだ。

 その白い仮面の輪郭が――タイツゴッドの拳を受けてぐしゃりと曲がる。

 次の瞬間、アルレッキーノは重く鈍い音を響かせて、遥か後方へ吹き飛んで行った。そのアルレッキーノが向かいのビルに穴を開けるほどの勢いである。

 タイツゴッドが拳を突き上げ、言い放つ。


 「怪人ならよぉ、口喧嘩じゃなくて手出せや、手」


 すると、この場に空から新たな人物が現れる。


 「おじさん!」

 「説教タイツ!」

 「中年タイツ!」


 魔法少女<マジカラーズ>の面々だ。

 どうやら長野県軽井沢町にあった<ピエローズ>の拠点からここまで飛んできたらしい。

 中年タイツはそんな少女たちに頼み事をした。


 「悪いが、星奈を頼む」

 「そ、それはかまいませんが......」

 「説教タイツ一人で大丈夫なの?」

 「はッ、誰に物言ってん、だッ」


 そう言い切ると同時に、タイツゴッドが飛び立つ。

 一足で幾棟の建物を超え、アルレッキーノの下へ向かう。アルレッキーノはそんな中年タイツの攻撃を避けた。

 タイツゴッドの拳が地面に突き刺さると同時に、そこら一帯の地形が捲れるようにして変貌する。

 アルレッキーノが嗤う。


 「ははッ! 英雄ヒーローがこんな派手に暴れちゃっていいのかな?!」

 「俺は怪人だ、ボケぇ!!」


 凄まじい衝撃により、周囲のビルの窓ガラスや巨大スクリーンは砕け散って看板も落下した。

 が、幸いにも人害は無し。

 <ジョーカーズ>がヒーロー陣営に呼びかけ、予めこの区域に居る人々を避難させていたからだ。それを理解しているからこそ、タイツゴッドも集中できる。

 今、ここでアルレッキーノを倒さなければ、金輪際、この者を止められる者は誰も居ないと。

 再度、地面を蹴り、宙へ跳ぶアルレッキーノに迫るタイツゴッド。


 「「スキル、<引斥>!!」」


 両者の拳がぶつかり合い、一つ破壊の渦を生み出す。

 その衝撃波が遠くに居る魔法少女たちの下まで届くほどだ。

 マジカルブルーが吹き荒ぶ風に耐えながら口を開く。


 「くッ! あの男、ここまで強かったの?!」

 「無駄口叩いている場合じゃない! 私たちはまだ避難途中の人たちを助けなきゃ!」

 「それは私とブルーでやるから、ピンクは星奈を護ってて!」


 そう言い残し、マジカルブルーとマジカルイエローが逃げ遅れている人たちを助けに、この場を後にした。

 星奈はマジカルピンクの手をぎゅっと握る。そんな少女に対し、マジカルピンクはタイツゴッドを見上げながら呟いた。


 「大丈夫......おじさんは絶対に勝つから」



 *****



 「おらぁああ!」


 タイツゴッドの蹴りが、タイツゴッドの姿をしたアルレッキーノの腹に刺さる。

 “く”の字に折れ曲がったアルレッキーノが口から血を吐き出すも、タイツゴッドの猛攻は止まらない。

 続いて顔面への強打。頭上からのダブルスレッジハンマー。

 ビルの上から叩きつけられ、まるで瓦割りの如くビルの天井と床を破壊しながら、アルレッキーノが地上へと落下していく。

 だが相手は偽物でもタイツゴッドの肉体を再現する者。

 アルレッキーノは起き上がり、荒い呼吸を繰り返していた。如何にタイツゴッドの姿をしていても、何度も殴打が直撃しては蹌踉めいてしまう。そんな男の下に、タイツゴッドが着地して近づいていく。


 「こんなもんか? 大したことないな、猿真似野郎」

 「猿真似、ね......。なら、その猿真似野郎に負ける英雄ヒーローの君は何かな?」


 「だから俺は英雄ヒーローじゃねぇって言ってんだろ!」


 タイツゴッドが踏み出し、アルレッキーノの顔面に拳を叩きつけようとした、その時だ。

 アルレッキーノの姿が変わる。

 それは元のピエロのような見た目ではない別の誰かだ。

 そしてそれは――タイツゴッドに驚愕と隙を与える姿であった。


 タイツゴッドの目の前に一人の男が現れる。


 硬い質感を思わせる短い銀髪に、頬から顎にかけての火傷の痕。筋骨隆々とした肉体はタイツゴッドよりやや太く、また逞しい。その身を包むのは、薄水色を貴重とした全身スーツだ。

 スーツの中央には何かのマークがデザインされており、両肩の留め具は純白のマントに取り付けられたもので、それが風に靡いていた。

 それらの全身スーツと正体を隠すための目元の黒いマスクは、この男が英雄ヒーローであることを示していた。

 その顔立ち、立ち居振る舞い、そして――笑み。

 男のどこか困ったような顔に、タイツゴッドは動きをぴたりと止めて見入ってしまう。

 その男が、英雄ヒーローがタイツゴッドに告げる。



 「またお前は俺を殺すのか? タイツゴッド」



 「シル......バー......」


 まるで時が止まったかのように、タイツゴッドの動きがぴたりと静止する。


 そして――。


 ズドッ。

 タイツゴッドの胸に、その英雄ヒーローの太い腕が突き刺さった。

 男の手刀はタイツゴッドの背を貫通しており、タイツゴッドが鮮血と共に口から血を吹き出した。

 それを目の当たりにした、マジカルピンクが絶句する。

 が、それも束の間、魔法少女は絶叫した。


 「お、おじさんッ!!!」


 口から血を吹き出し、力なくその場に崩れ落ちそうになるタイツゴッドを受け止めた男は、耳元で囁く。


 「やっぱり君は怪人じゃない」

 「て、めぇ......」


 「もし君が止まることなく、僕を倒せたのなら認識を改めるところだけど、結果はこのザマだ」


 それからアルレッキーノは嘲笑うようにして言った。


 「まぁ、死ぬ前に彼――に会わせてあげたんだ。喜んでくれよ」


 そう言って、アルレッキーノがタイツゴッドを貫いた手刀を引き抜いた。

 タイツゴッドが膝から崩れ落ちる。

 アルレッキーノは血溜まりに沈んでいくタイツゴッドを見下ろした後、ビルの上に居る魔法少女と星奈を見やった。

 泣き叫ぶ魔法少女とタイツゴッドを見つめたまま力なく座り込む星奈。

 アルレッキーノは愉快そうに語る。


 「No.17はさ、自分が死ぬとわかっていても絶望していなかった。君が助けにくれることを期待していたんだろうね。そんな彼女にどうしたら絶望を与えられると思う?」

 「......。」


 アルレッキーノは片手を強く握り締めて言った。


 「縋る希望を握り潰してやるんだよ」


 その英雄ヒーロー――シルバーは腰の後ろで両手を組んで歩き出した。

 タイツゴッドは薄れゆく視界の中、震える手をアルレッキーノへ伸ばした。

 アルレッキーノは振り返ることなく告げる。


 「さて、目的は果たした。タイツゴッド、始まるよ? “無色の穴”をが」

 「待、て......」


 そして次の瞬間、星奈から悍ましい程にドス黒い魔力が溢れ出た。
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