魔法少女と悪の下っ端おじさん

おてんと

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第122話 タイツゴッドと過去の友

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 「説教だ! そこ座れ!」


 これは遠い過去の話。

 記憶を辿って語られるこの話は、特に彩られることもなく、ただただ時間の流れに従って過ぎていく何気無い日々の話だ。

 そんなある日のこと。とある悪の組織に所属する下っ端戦闘員――タイツゴッドは平和な町のとある公園で、声を大にしてある人物に怒りをぶつけていた。


 季節は夏。猛暑の中、タイツゴッドの前で正座している人物は、薄水色の全身スーツに身を包む筋骨隆々とした男である。

 純白のマントを纏い、目元を黒いマスクで隠している様はヒーローさながらだ。

 “さながら”と付けたくなるほど、その男はヒーローらしからぬ情けなさがあった。

 ボコボコに殴られた顔は青い痣と腫れが目立っており、もはや原形を止めてないと言っても過言ではない。

 そんな男が口を開く。


 「俺は悪くない。悪いのはお前ら怪人だ」

 「その言葉だけ聞けばな。お前、なんで開幕早々砂かけてきたんだよ。目に入っただろうが。失明したらどうすんだよ」


 「お前ら悪に光は必要無い」

 「しかも倒されたふりまでしただろ」


 「正義を貫くために手段を選ぶのは二流のすることだ」

 「やったことをそれっぽく格好良い感じで言うの止めてくれない?」


 悪の組織に所属する下っ端戦闘員の前で正座している男こそ、この町のヒーロー、シルバーである。

 シルバーはそれなりに有名なヒーローで、ナイスガイな雰囲気と実力から男の活躍ぶりは、日本全国に知れ渡っていた。

 が、そんなシルバーでも手も足も出なかった存在が居る。

 それこそが、目の前で説教をしてくるタイツゴッドだ。

 タイツゴッドは溜息を吐きながら頭を掻く。


 「はぁ。もういいよ。次回はちゃんとやれよ、“セコ”ヒーロー」

 「上から目線とは。下っ端戦闘員のくせに生意気だな」


 ドゴッ。

 再度、シルバーの頭上に拳骨が落とされるのであった。



*****



 「「あ゛~」」


 とある休日の昼下がり。

 澄み渡る青空の下、長閑な町の公園に二人の中年男の声にもならない声が響き渡る。

 二人は並んでベンチに座り、天を仰いでいる。

 それでもって、二人の口はそれぞれ異なる銘柄の煙草を咥えていた。その先に着いている火がじりじりと下がっていき、煙草の先端を灰にしていく。

 片や薄水色のヒーロースーツ姿、片や真っ黒な全身タイツ姿だ。

 この二人はつい先日、この公園で死闘を繰り広げていたタイツゴッドとシルバーだ。

 タイツゴッドが口を開く。


 「いいのか? ヒーローが公園で煙草吸ってて」

 「ヒーローだってニコチンが必要な時くらいある」


 「イメージ崩れるぞ。ほら、あそこの親子、お前のこと三度見してる」

 「違う。俺じゃなくて、全身黒タイツで不審者にしか見えないお前を見ていたんだ」


 「お前と大して変わらないだろ」

 「大違いだ」


 ああ言えばこう言う。二人の関係はまさにそれで、ただ不思議と不快にはならない仲であった。

 二人は天を仰いだまま、煙草を同時に吸う。

 その汚染された空気を肺の中に目一杯溜め込んで、口から吐き出す。

 今度はシルバーが口を開いた。


 「俺、そろそろ煙草辞めようと思うんだ」

 「ヒーローが堂々と嘘吐くのはどうなんだ」


 「いや、マジだ。すぅ......ガチで辞めるつもり......はぁ~」

 「会話の途中で煙草で呼吸するの止めてから言えよ」


 シルバーは懐から取り出した携帯電話をタイツゴッドに渡した。

 タイツゴッドはそれを受取り、携帯電話の画面を点けた。

 すると携帯電話の待受画面には、三人の人物が映っていた。

 一人はシルバー。デレデレとした男の表情は、とてもじゃないが、名の知れたヒーローとしてはみっともない腑抜け面である。

 もう一人は女性。シルバーとそう遠くない年の女性だが、見た目よりも若く見えてしまうほど愛想がある。そんな女性は自身の顔の横にある、赤子に頬擦りをしていた。

 真ん中に映っているのは、シルバーとその女性......妻の赤子である。

 タイツゴッドは思わず煙草を吸うのを止め、見入ってしまった。

 シルバーがそんな面食らった様子のタイツゴッドを他所に、ニヤけながら言う。


 「いやぁ、ついこの間、息子が生まれたんだよ」

 「お、おう、そうか。ゴリラと人の間に赤ちゃんって作れるんだな......」

 「誰がゴリラだ、誰が」


 シルバーは乱暴にタイツゴッドから自身の携帯電話を取り上げ、待受画面を見つめた。

 そして男の厳つい顔が途端ににやけ顔に変わる。

 タイツゴッドはそんなシルバーを尻目に、新しい煙草を咥えて火を着けた。


 「お前に似ないよう祈っとくよ」

 「いちいち嫌味なことを言う男だな。ほら、他の画像も見せてやる」


 「いいって」

 「ビデオもあるぞ」

 「......。」


 それからタイツゴッドは日が暮れるまで、シルバーの家族愛に満ちた話を聞かされるのであった。
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