魔法少女と悪の下っ端おじさん

おてんと

文字の大きさ
52 / 132

第51話 ブルードラゴンと中年タイツ

しおりを挟む
 「あ゛~」

 平日の昼過ぎ。

 本日も長閑な田舎町は平穏を極めていた。それは怪人すらも憂鬱な声を漏らしてしまうほどである。

 無論、聞き慣れたこの声は憂鬱さから来るものというより、死にかけのセミの鳴き声に近い。

 悪の組織に属する量産型下っ端怪人は、今日も公園のベンチに座って天を仰いでいる。相も変わらず股を開いて換気していた。

 このベンチは木陰になっていて、風が吹けばそれなりに居心地の良い場所であるため、タイツ野郎のお気に入りでもあった。

 そんなタイツ野郎の下に、とある女が姿を見せた。


 「相変わらず死にそうな声を出すわね」

 「お、ブルードラゴンじゃねぇか」

 怪人ブルードラゴンである。


 絶世の美女はタイトなチャイナドレスに身を包み、その身体のラインがくっきりと出る様相でタイツ野郎の前に現れた。

 そんなブルードラゴンは日傘を手にしており、くるりくるりと手で傘を回している。意中の相手であるタイツ野郎と会話ができたことを嬉しく思って、つい手が動いてしまったのだ。

 無意識に、くるりくるりと。

 ちなみに先日、魔法少女<マジカラーズ>の面々と戦って、大人気なく完勝したブルードラゴンは、<転移>のスキルで東京支部に戻った後、「味気ない別れ方をしたわね」などと言いながら、本日再び<転移>スキルでタイツ野郎がいる田舎町に帰ってきてた。

 タイツ野郎に会えないかと町をうろちょろしていたら、偶々公園のベンチにタイツ野郎が居るところを発見。

 内心でガッツポーズしつつ、無意識に尻尾が地面をビタンと叩いてしまったのは、ここだけの話である。

 「なんだ、東京に帰ってなかったのか」

 「帰ったわよ。でも戻ってきたわ」


 「なんで?」

 「スペインのお土産を持ってきたの」

 「どういうこと?!」


 タイツ野郎、思わず身を起こしてツッコんでしまう。


 「お土産って、昨日グアムのお土産を貰ったばっかだよ?! 旅行のスケジュールどうなってんだよ!」

 「別にいいじゃない。私の勝手でしょ」


 ツン。ブルードラゴン、素直になれない性格のせいで、スペイン旅行を一日もせずしてきたと言う羽目に。

 当然、中年野郎にその思いは伝わらない。

 タイツ野郎はブルードラゴンから見るからに高そうな紙袋を受け取った。


 「えっと、なにこれ」

 「ワインよ」

 「お、マジか!」


 タイツ野郎、お酒と聞いて喜んでしまう。

 ブルードラゴンはそんな中年を見て、喜んでもらえたことに内心で万歳した。


 「いいね~。ありがたく飲ませてもらうよ」

 「ええ」

 (私を誘いなさい! 私を! 今晩一緒に飲まないかって!! きゃー!)


 ブルードラゴンは顔にこそ出さないが、心の中には割と激しい性格を持っている。

 ただ彼女の尻尾だけは、その感情と神経が繋がっているようで、喜ぶ度にぶんぶんと揺れているのだが、本人はそれに気づいていない。


 あとタイツ野郎も。


 「はぁ。俺も便利なスキルが欲しかったわ~」

 「ふふ。羨ましい?」


 「ああ。毎日通勤時間を短縮できんじゃん」

 「しょうもない理由ね」

 (それより私の<転移>で、今度どこかに出かけようって言いなさいよ)


 「いやいや。年を取るとな、若い頃は苦じゃなかったものが嫌になってくるんだよ」

 「どうでもいいわ。やっぱり一番のメリットは行きたい所にすぐに行けることよ」


 「ああ、忘れもんしたときとか便利だよな」

 「......。」


 だから、なぜ、そうなる。

 ブルードラゴンはジト目でタイツ野郎を睨んだ。

 斯く言うブルードラゴンだが、別に旅行することが好きとかではないのだ。何度も言うが、旅行するのはタイツ野郎と会ったときの話題を作るため。

 そのきっかけを作るためにお土産を買い、タイツ野郎も行きたいと言わせるために自慢話をする。


 回りくどい女なのだ。


 (ほんっと鈍感ね。なんで「俺も旅行したいから連れてって」の一言が言えないのかしら?)


 ブーメランとはまさにこのこと。

 埒が明かないため、ブルードラゴンから踏み込むことにした。


 「あなたは旅行に興味が無いの?」

 「無いことも無いが......旅行先って怖いじゃん」


 田舎のヤンキーか。

 ブルードラゴンはそうツッコミそうになるのを既の所で踏み止まった。


 「情けないわね。何が怖いのよ」

 「いや、海外って言語通じないし、文化知らないから、知らないうちに何かやらかしてそうで楽しめない気がする」


 「国内は?」

 「ああー、日本の観光地に行くのはありかな」


 お、これは脈ありかしら?と思うブルードラゴンであったが、タイツ野郎の次の一言で膝から崩れ落ちそうになる。


 「でも旅行って面倒くさいイメージあるんだよなぁ。俺、計画立てるの苦手だし」

 「......。」


 ブルードラゴン、いつになったらこの中年とイチャラブ旅行デートができるのかと不安になった。

 自分から一言言ってしまえば、それで片が付きそうなものだが。


 「あ、ちょっと待ってろ」

 「?」


 するとタイツ野郎は立ち上がって、近くの自販機の下へ向かい、缶コーヒーを二つ買ってきた。

 一つはブラック。もう一つはカフェオレ。どちらも同じメーカーのものである。

 タイツ野郎はカフェオレをブルードラゴンに渡した。


 「ほらよ」

 「ありがと」


 「大したもん返せなくて悪いな。いつも貰ってばっかでよ」

 「気にしなくていいわよ」


 などと言いながら、タイツ野郎から貰った冷たいそれに内心で感動する悪の怪人。安い女と言われればそれまでだ。

 タイツ野郎が再びベンチに座ると、その横に少し距離をあけてブルードラゴンが座った。

 タイツ野郎は缶コーヒーをプシュッと開けて傾ける。ブルードラゴンはカフェオレを手にしたまま、タイツ野郎と同じ景色を眺めていた。

 (これ、飲むのが勿体ないわ......。でも飲まないと、自分が買ってきた物が苦手だったのかって思われそうだし......)

 「あれ、甘いの好きだったよな?」

 「っ?!」


 「もしかして他の方が――」

 「そ、そんなことないわ」


 ブルードラゴン、プシュッと缶を開けて、カフェオレを飲む。

 あまりタイツ野郎から施しを受けたことが無いので、嬉しさが身に沁みる思いに駆られた。


 「世界一美味しい......」

 「はは、大袈裟だな」


 「本当よ?」

 「はいはい」


 これは善と悪が繰り広げる壮絶な戦いを記す物語。

 時として、悪の組織の戦闘員が平穏な日を送ることを記す物語でもあった。

 「あ、ワインによく合うチーズをこの前見つけたんだよ。スーパーでさ」

 「あらそう」

 「ちょっと<転移>でそのスーパーに連れてってくんない?」

 「あなた、私を便利なドアだと思ってるでしょ......」

 続く。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...