魔法少女と悪の下っ端おじさん

おてんと

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第56話 マジカルイエローと怪人ロリビャッコ

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 「ここがうちの店だよ」

 「おおー! 良い匂いが漂ってくるのだ!」

 平日の夕暮れ時。

 本日の魔法少女と悪の組織<ジョーカーズ>の戦いが終わった後、マジカルイエローは仲間の魔法少女たちとある少女を連れて帰宅していた。

 その少女は見た目は姫奈子とそう変わらない年頃の怪人で、ロリビャッコという。

 特筆すべきは虎耳と虎尻尾で、一部のマニアから好評される様相だが、全身赤ジャージのためイマイチと言ったところ。

 そんなロリビャッコは姫奈子の親が経営している店にやってきていた。

 黄瀬家の店は、昼は飲食店、夜は居酒屋を営むという所謂、二毛作営業を行っている。が、今は準備中の時間帯で、“準備中”と書かれている札が掛けられている。もう少しすれば居酒屋の営業時間だ。

 咲良と真海は怪人を仲間の家で働かせていいのか不安だったので、とりあえず初日だけ様子見しようと思って同行した。


 「じゃあお母さんたちに許可取ってくる」

 「うむ!」

 「私たちはここで待ってるね」


 姫奈子は店の中に入り、厨房に居た両親にさっそくお願いすることにした。

 その際、ちゃんと店の扉を閉め切っていなかったため、咲良たちに黄瀬家の会話が聞こえてきてしまう。


 「ねね、お父さんとお母さんにお願いがあるんだけど」

 「え、なに?」

 「猫飼いたいなーって」


 姫奈子、まさかの怪人を猫扱い。彼女は四天王をなんだと思っているのだろうか。

 当然、姫奈子の両親は即却下の言葉を述べる。


 「駄目だよ。日中、猫の世話なんてやってる暇はうちにないんだから」

 「そうよ。それにもし猫の毛が料理に入ったら騒ぎになるじゃない?」

 「大丈夫、大丈夫。そんな抜け毛が多い猫じゃないと思うし、頼めば働いてくれると思うんだよね」

 「は、働く猫?」

 「文蔵みたいな?」

 「どっちかって言うとクリシュナ寄りかな」


 何と比較しているのかわからないが、ややあって姫奈子が店の中から出てきた。

 姫奈子が親指を立てて言った。


 「普通の猫は飼えないって言われた」

 「「......。」」

 「トラは猫じゃないのだ」


 どこに親指をグッと立てる要素があったのだろうか。

 が、姫奈子は人差し指をチッチッチッと左右に揺らして続ける。


 「わかってないなぁ。うちの両親は普通の猫は駄目って言ったんだよ。逆に言えば、ちゃんと働けて役に立てる猫なら飼えるってことだよ」

 「トラは猫じゃないぞ?」

 「はいはい。うちの両親は無類の猫好きだから、もう交渉成立したようなもんだから」


 姫奈子に背を押され、ロリビャッコは店の中に入る。

 ロリビャッコの姿を見た姫奈子の両親が、まるで雷にでも打たれたかのようなリアクションを見せた。


 「な?! ケモミミ少女だとッ!!」

 「な、なんて可愛いの......」


 そして二人は何やら点数の書かれた札を揃って持ち上げた。


 それぞれ九点、十点と記載されている。


 姫奈子は状況の理解に追いついてない様子の三人に説明をする。


 「今、二人が採点したのは“外見”の項目の評価だね。今から行われるテストで高得点を取れば合格だよ」


 中々愉快なご両親である。

 ちなみに九点の札を上げたのは姫奈子の父親だ。ロリビャッコの赤ジャージ姿でマイナス一点にした男である。

 「トラは今、十九点ってことか」

 と、ロリビャッコが口を開いたところで、またも黄瀬 姫奈子の両親が点数札を持ち上げる。

 点数はそれぞれ十点と十点。

 真海が問う。

 「今の項目は?」

 「ロリビャッコの計算能力だね。即座に十九点と足し算できたのが、うちの両親には好印象だったみたい」

 「あ、甘い採点だね......」

 「あと声が可愛かったわ」

 「できれば十点以上与えたかったよ」

 などと言う姫奈子の両親。ツッコんでいると切りが無いので先に進む。

 姫奈子が奥の控室に行って、すぐに戻ってきた後、ロリビャッコにある物を渡した。

 それはこの店のスタッフが着ている制服とエプロンだ。

 姫奈子が告げる。

 「これに着替えてきて」

 「......今更だけど、トラも働かないといけないの?」

 「はははは! 面白いこと言うね。働かざる者食うべからず、だよ」

 「......。」

 姫奈子の目が笑ってない笑みに、ロリビャッコは退路を断たれた感じがして、致し方なく奥の控室へ向って着替えることにした。

 その際、尻尾を下げていたのが可愛らしいところ。

 ちなみに姫奈子の両親はそれぞれスマホを手にして、ロリビャッコの制服姿を待ち望んでいた。

 もはや合格していると言っても過言じゃない気がする咲良と真海だった。


 「着替えてきたのだ」


 やがて着替えが終わったロリビャッコが姿を見せる。

 白のブラウスに、紺色のチノパン。その上からフリルの着いた茶色のエプロンである。

 姫奈子の両親は勢いよく十点の札を持ち上げた。感動のあまり、目端に涙すら浮かべている始末である。そしてなぜか姫奈子も十点の札を上げているのが謎だ。

 咲良が姫奈子に問う。


 「ねぇ、ここのお店のエプロンってフリル着いてたっけ?」

 「いや、着いてないけど」


 「じゃあなんであの子のは着いてるの?!」

 「はは、偶々だよ、偶々」

 「ど、どんな偶々よ......」


 全てのテストが終わったのか、姫奈子の両親は賄い料理を作り始めた。その光景に、ロリビャッコは首を傾げる。


 「トラは合格したの?」

 「え、あ、うん」


 「おおー! これで食いっぱぐれないで済むのか!」

 「そうだけど、ちゃんと働いてよね」


 「任せるのだ!」

 「あ、二人もうちで食べてく? 大した物は出せないけど」

 「え、いいんですか?」

 「いいのよ~。いつも娘と仲良くしてくれてありがとう」

 「じゃあお言葉に甘えていただくわ」


 こうしてロリビャッコの三食おやつ付きのアルバイト生活が始まるのであった。

 賄い飯だが、ロリビャッコの前には山盛りに盛られた料理がずらりと並べられており、怪人は涎をだらだらと流し始めた。


 「おおー! これ食べていいのか?!」

 「もちろんだよ。この後、しっかりと働いてもらうけどね」

 「任せるのだ!」


 そしてロリビャッコは両手にスプーンとフォークをそれぞれ握って、山盛りの料理にありついた。


 「んまい! んまいのだ!!」

 「す、すごい食べっぷり......」

 「この小さな身体のどこに入っていくのよ」

 「へへ、ウチの料理は日本一美味しいからね。どんどん食べていいよ」

 「トラ、怪人やめてここで働くのだ!」


 冗談でもそれは笑えない。


 が、ここまで喜んで食べてもらうと、なんだか、敵なのについ嬉しくなってしまう姫奈子であった。彼女の両親に至っては嬉しくて目端に涙を浮かべるばかりである。

 黄瀬家ご夫妻がある提案をしてしまった。

 「あ、そうだ。ロリビャッコちゃん、ウチの子になる?」

 「お、妙案だね」

 「いや、怪人だから、この子」

 そしてその晩、ロリビャッコのことを心配していた中年タイツが、若手タイツを連れて姫奈子の店にやってきた。

 ロリビャッコは二人を笑顔で接客する。


 「いらっしゃいませなのだ!」

 「うおぅ、ロリビャッコか」

 「あれ、ロリビャッコさんのその格好、ここのお店で働いているんですか」

 「そうなのだ! 意外と楽しいのだ!」


 これは善と悪の戦いを記す物語。

 時として、悪の組織の怪人が意外にも居酒屋アルバイトできることを記す物語でもあった。


 「ロリビャッコちゃーん、三番テーブルにお飲み物運んでー!」

 「わかったのだ!」

 「......。」

 「なんか順調そうですね、ロリビャッコさん。」


 「その、なんだ......思ってたのと違うな」

 「あれ。先輩、もしかして寂しがって――」

 「寂しがってない」


 続く。
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