魔法少女と悪の下っ端おじさん

おてんと

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閑話 ブルードラゴンと夢

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 「ん......」

 私はブルードラゴン。

 秘密結社<ジョーカーズ>の戦闘員で、<絶海>の異名を持つ怪人である。


 朝、目覚めると私は自身が一糸纏わぬ姿であることに気づく。少しはだけて寒いと感じたのか、自然と冴えてしまうくらいには目覚めが良かった。

 外から差し込む陽の光を見つめていると、ベランダに一人の男が立っている様を見つけた。

 全身黒タイツ姿の中年男性で、名をタイツゴッドという。


 そう、私の“夫”だ。


 彼は外でこの部屋から見える景色を、煙草を吹かしながら眺めていた。

 ここは私と彼が買った、とある田舎の一軒家である。長閑な町で、私たちは平和な毎日を送っている。


 「......最高ね」


 そんな毎日がとても幸せに感じてしまう。

 私はキングサイズのベッドから出て、近くの椅子に掛けてあったバスローブを纏い、顔を洗いに行った。

 その後、キッチンへ向かって朝食の準備をする。


 「ふふ。待ってなさい、私が最高の朝食を作ってあげるわ」


 などと、未だにベランダで寛いでいる彼を他所に、私は調理に取り掛かった。

 と言っても、朝から手の込んだものは作らない。

 なにせ彼がそれを好んでいないからだ。

 なんでも、「普通でいい」らしく、何の工夫も無い朝食でも彼は喜んで食べてくれる。

 ウインナーソーセージを焼いただけでも、彼は満面の笑みで「ブルードラゴンの料理は宇宙一だ」と褒めてくれる。


 「きゃー!! ただソーセージを焼いただけなのに!! しゅきー!!」


 朝からハイテンションで料理をし、テーブルの上にそれらを並べてから、彼の居るベランダへ向かう。

 落ち着きを取り戻した様子で、私は彼に淡々と話しかける。


 「おはよう。何か面白いものでも見つけたの?」

 「お? いや、別にそんなことねぇよ。ただ良い景色だなって」

 「?」


 私は首を傾げてしまう。

 だってここは特別絶景でもなければ、自然豊かな町という訳でもない。ただの田舎の町にある一軒家で、そこから見える景色などに、これといった感情は抱かないから。

 だというのに、彼は部屋の中へ戻る際、すれ違い様に私にぼそりと呟いた。


 「お前と二人で一緒に暮らすには丁度いい町だなって思っただけだ」

 「っ?!」

 「ほら、中入ろうぜ」


 しゅき......。


 朝食の際、彼はテーブルに並べられた料理を一瞥して言った。


 「お、もう飯作ったのか。美味そうだ」

 「ふふ、これくらい妻として当然よ」


 「言ってくれれば手伝ったのに」

 「あなた、料理作るの下手じゃない」

 「うっ」


 私の言葉に呻く彼は、食卓の席に着こうとしたが、不意に私の方へ振り向いた。


 「あの、そろそろ放してくれない?」

 「え?」


 彼に言われて気づく。

 私の尻尾が彼の腕に巻き付いて放れなかったのだ。

 私は一瞬、自分が何をしているのか理解できなかった。

 彼は言いにくそうに言う。


 「ベランダから戻ってくるときに、俺の腕を掴んできたよな。なんでか知らないけど、全然放してくれなかったし」

 「っ!! こ、これは、その......」


 慌てて彼の腕から尻尾を解いた私は、上手い言い訳を探そうと慌てふためく。私は偶にこうして彼に尻尾を巻き付けてしまう癖があるらしい。

 偏に甘えている証拠なんだと思っている。


 次の瞬間、彼が急に私に抱き着いてきて言ってきた。


 「俺、料理は下手だけど、子作りなら得意だぜ」

 「え」


 直後、私は近くのソファーの上に押し倒された。

 彼は私を覆う形で、上から私の顔を覗き込んでくる。


 「今日、休みだろ?」

 「だ、駄目よ。朝食が冷めちゃう」


 「俺はお前を食べたい」

 「ま、待っ―」



 ******



 「んー」


 ピピピピピピピピピッ。


 携帯のアラームの音に起こされ、私は目を覚ました。

 目を開けると見知った天井が広がっていて、身を起こすと高層ビルから見える外の景色が部屋の窓辺から見えた。

 ここは東京にあるタワマンの一室で、部屋には私一人しか居ない。もちろんベランダにも誰も居ない。


 そう......私は夢から覚めたのね。


 「......。」


 二度寝して、もう一度同じ夢を見たかった。

 すごく見たかった。

 でも......。


 「ふ。現実なんてこんなものよね」


 私は起きることにした。

 顔を洗った後、私はキッチンの前に立った。


 「......コーヒーだけで良い気がしてきたわ」


 コーヒーだけ飲むことにした。

 マグカップに淹れたコーヒーを片手に、ベランダに出て外の景色を眺める。

 都会特有の喧しくも色鮮やかな景色に、なんだか息が詰まりそうな感じがした。


 私はコーヒーを啜る。


 「足りないわね......砂糖とミルクが」


 私はもう一度キッチンへ戻るのであった。



 家を出て、会社へ向かい、私専用の執務室へ向かう。

 秘書のホッサーパンダが今日のスケジュールを教えてくれた。日々の日課であり、彼女が居てくれないと仕事が回らないところがあるため感謝している。


 でも、今日はなんだか憂鬱だわ......。


 きっとあの夢のせいだ。こうして私の思考の邪魔をする夢ならば、もはや悪夢のように思えてしまう。


 「ふふ。なんてね」

 「?」


 「なんでもないわ。続けて」

 「はい。十五時からは秋葉原でヒーローと戦う予定でして――」


 そう、ホッサーパンダが言い掛けた時だった。

 不意に私の携帯の着信音が鳴り響く。

 ホッサーパンダが話を止め、私は携帯を手に取り、誰から連絡が来たのか画面を見て確認した。

 そこには――意中の相手の名前があった。


 「っ?!」


 ビタンッ。

 私は癖で尻尾を床に打ち付けてしまった。


 「ぶ、ブルードラゴンさん?」


 ホッサーパンダが取り乱した様子の私に声を掛けてくるが、今の私はそれどころじゃない。

 私は慌てた様子で、携帯の画面に映っている緑色の丸に人差し指を当てた。受話器のアイコンを示すそれは、横にスワイプするだけで遠距離の先方と会話ができる。


 私は深呼吸を数度繰り返した。


 ホッサーパンダが心配した顔つきで言う。


 「あの、早く出られては?」

 「......。」


 心の準備ってもんがあるでしょ!!

 私はホッサーパンダに問い質す。


 「ね、ねぇ。私の髪、変じゃないわよね?」

 「はい?」


 「ほら、化粧とかしてるけど、今朝は鏡の前でぼーっとしてたからあまり覚えてないし」

 「で、電話するだけでは? 顔は気にされなくても......」


 「何言ってるの?! ビデオ通話を求められたらどうするのよ!!」

 「ひッ」


 「で?!」

 「い、いつも通りお美しいですよ」


 よし!

 私は携帯の画面に映っている緑色のマークをスワイプしようとした――その時だった。

 緑色のアイコンがスッと消えてしまった瞬間を目にする。


 「え」


 思わず間の抜けた声を漏らしてしまった。

 着信音も止まり、ホッサーパンダが聞きにくそうに聞いてきた。


 「も、もしかして着信終わりました?」

 「......。」


 私は涙目になった。

 彼と話す機会を失ってしまったことに絶望してしまう。

 しかし、携帯の画面は留守番電話を映してきたので、私はつい画面を操作してしまった。

 彼の声が聞こえてくる。


 『あー、俺だけど。この前お土産くれたじゃん、スペインの。あのワインすっごい美味しかったわ。また電話する。じゃ』


 「......。」

 「ぶ、ブルードラゴンさん? どうしました?」


 なんて素っ気ない言葉なのかしら。でも喜んでくれたようでなにより。

 やっぱりお土産を使って彼に近づく作戦は妙案だったわ。

 私は自分でもわかるくらい頬が緩んでいることに気づく。もちろん、ホッサーパンダには見えないようにしている。


 「ふ、ふふ、ふふふ」

 「あ、あの~」


 「ホッサーパンダ、今日の予定は全てキャンセルよ」

 「あ、はい......うぇ?!」


 「これからシンガポールに行ってくるわ」

 「なぜ?!」


 「お土産を買ってくるためよ」

 「意味がわかりません!」


 「安心して。あなたの分のお土産も買ってくるから。じゃ」

 「あ、ちょ!!」


 これは善と悪の壮絶な戦いを記す物語、らしい。

 乙女な怪人が意中の相手のために、各国を転移してお土産を買ってくる物語だ。

 「え、ええー。ヒーローたちになんて説明すればいいんですか......」

 続く。
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