4人

涼雅

文字の大きさ
上 下
2 / 22

お葬式

しおりを挟む

しんしんと、雪が降りそうな寒い日

今日は、とても大事な、最後の日

前日のコトにも出席したが、あまりよく覚えてない

バンドの相棒でもある、俺の恋人のお葬式

世間からはあまりいい顔をされないカップルだけど、互いに本気だった

同性カップル。

ただそれだけの理由でいい顔をされず、変な目で見られることが多かったな

そんなことも思い返しつつ彼の姿から目を逸らした

ふと周りを見ると、知ってる顔や知らない顔の人達が各々の気持ちを募らせていた

「翔くん……」

ぼーっとそれを眺めていると唐突に声をかけられる

「…陟さん、どしたん?」

「あの、今日は、ご愁傷さまです……っ」

陟さんはそう言い切ると目に涙を浮かべる

その肩を彼の恋人がそっと抱き寄せた

「翔くん、ほんまに、ざんねん、やなぁ…」

陟さんのことを慰めるように抱き寄せたのに、当の本人、颯冬もぼろぼろと泣きはじめる

いや、彼のことだ。

もっと前から泣いていたのかもしれない

ただ、それを俺の前では堪えていた

「……せやな、ほんまに、残念」

俺はとくに言葉も思い浮かばず、オウム返しになってしまった

いつもはその事を指摘してくる陟さんも今日はそんな余裕は無く、

颯冬と一緒にぼろぼろと泣いていた

「…ごめっ、なみだ、とまらなくて……っ」

必死に泣きやもうとしているのだろう

しかしそれは逆効果となり、どんどん酷くなっていく

泣き声もあげずに、嗚咽だけを繰り返していて、見ている方が苦しい

「…そ、そんな2人とも、落ち着きぃ…?」

2人の様子に耐えかねて声をかけるが聞こえていないのか、陟さんがしゃがみこんでしまった

それに呼応するかのようにすぐに颯冬も寄り添う

「…だ、だって、死んだんやで…?」

震えた声の颯冬

「……わかってるよ」

冷たい声の俺

「死んだのに、おちついて、いられるほどっ、やすいかんけいじゃ…ない……!」

必死な陟さん

「……せやな、」

冷静な、俺

遠回しに、叱られてるような気がして、勝手に気まずくなった

「翔くんは、なんで泣いてないん………?」

颯冬が真っ赤に腫れた目で俺を見上げる

純粋な質問

その回答を俺は持ってない

2人しゃがみこんでいる中、俺一人だけそれを上から見てる感じ

あー、周りから見たら俺、キッツ。

何偉そうにしてんねん

「……なんでやろな」

正しい回答が出来ない俺は質問を疑問で返した

「…相棒やろ?」

「恋人じゃん…」

…2人の縋るような視線に顔を背けた

「っ、なんでっ…!泣いてないん………」

2回目の同じ質問

「…わからんよ、自分でもなんで泣いてないんか、わからん」

同じ疑問の返し

しゃがみこむ陟から腕を掴まれる

「しょうくん、……ごめんっ……ごめん…」

なんで陟さんが謝るんや

俺はいつの間にか2人に抱きしめられていた

なんでそんな優しく抱きしめてくれるんや


それを何処か違うところで見ているかのような感覚で、二人の間を縫って見える景色をぼーっと見ていた


お葬式はいつ終わったのかわからず、気がついたら家のベットに横たわっていた

断片のような記憶だけが残っていた

颯冬と陟さんの泣き声

2人に優しく抱きしめられたこと

彼の御両親との会話

白い箱の彼

…焼かれて骨になった彼

これを骨壷にいれる箸の感覚

あぁ、おわったんやな

他人事のように思えてしまうのは、きっと彼はまだ生きてるから

きっとそう。

きっと、明日の朝には彼がおって、あったかい美味しい朝ごはん作って待ってくれとる

きっと、きっとそうや。





そんなことはありえない、なんてことを理解出来るほどいまの翔に余裕はなかった
しおりを挟む

処理中です...