4人

涼雅

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放送

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生放送を開始した

陟さんの家に、3人集まって。

パソコンの前に3人揃って並んだ。

今日はリーダーの、陟さんの枠で。

「…あ、あー聞こえてる?」

いつもとは違う陟さんの声にファンのみんなは気づいてしもたんやろな

コメントは陟さんを心配するもので埋め尽くされた

「あー、聞こえてるっぽいんで早々に始めよか…

  颯冬、翔くん、挨拶…」

「あー、颯冬でーす。」

「………」

陟と颯冬が挨拶する中、翔はそれを無視した

声、でーへんもん

なんでや、声出やんの

「翔くん?どしたの?」

心配そうな陟の声にも反応を示せないまま。

声が出ない、と文面で見せ、ひとまず進行を進めた

「えーっと、今回の放送は、おふざけ一切なしです」

そんな真面目な声にファンは不安を募らせた

いつもは4人仲良く茶化しあってふざけてるのに。

え、なになに、とか。

もう1人は?とか。

「……もう1人、拓也がここにおらん理由を、話します」

重苦しい颯冬の声

少し震えているのは、きっと涙を堪えているから


まさか、脱退したとか?

ずっとネット浮上してなかったし…

と、コメ欄は徐々に荒れ始めた


「っ、脱退したとか、そんな、ことじゃなくて、そんな、生ぬるい事じゃなくて……」

「拓也は!黙って脱退とか、せぇへんもんっ……ちゃうんよ、ちゃう……」

脱退コメに反応してしまった2人

上手く言葉選びのできないリーダー

否定することしか出来ない彼の恋人

互いに互いの手を強く握り締めていた

それが、俺を締め付けた

2人は、一緒におられるんやな

俺は、1人なんやな

とか、皮肉めいたことを心の奥で考えてしまう

あー、俺がしっかりしやんといけないんやなぁ

今なら声が出そうで咳払いをしてみた

「……ぁー、あ、声出た…」

掠れた声を漏らせば、陟さんがばっと顔を上げる

「翔くんっ!…いいよ、無理に、話さなくても…っ」

「2人とも泣いてるのに、俺が話さんで誰が話すねん」

ははっと、乾いた微笑が喉から漏れた

「みんな、落ち着いて聞いて欲しい」

落ち着いて、話せるように

「ここに、拓也さんがおらんのは、つい2週間前くらいに、亡くなったからや」

思った以上に冷たい声が出た

拓也さん、亡くなったんやって。

ほんまかいな?あの拓也さんやで?

亡くなったという事実を口に出しながら、まだ頭で否定する

だって、まだ生きとるもん

きっと、みんなを脅かそうとして、死んだフリやん

コメ欄は動かなくなった

みんな、絶句してコメントを打つことを忘れている

「しょうくん……、たくやぁ……」

「うぅ、ひぐっ……うっ、たく、たくやぁ……」

淡々と告げた事実に2人はまた涙を流す

なんで?なんで泣いとるん?

拓也さんが死んだんとか、嘘やん、ドッキリやん


コメ欄はすぐに目まぐるしい速さで荒れ始めた

そんなネタ洒落にならない

嘘つかないで

拓也さんが死んだとか不謹慎すぎる嘘

信じたくない


それを見た陟さんは拳を握りしめて声を絞り出した

「嘘じゃ、無い…ネタでもねぇ……そんなコメント、した奴…名乗り出ろ
 ……ふざけんなよ……おれ、だって、信じたく、ないし………ひぐ、たく、やぁ……」

怒りをあらわにした声にファンは嘘ではないと認識し始める

こらえていたのに最後の言葉は消え入るように涙で濡れた

「おれらだって、信じたくないし……つい、この間までっいっしょに……げーむ、して、ごはんいっしょにたべて……いっしょにっ……いっしょっ……たくや、と……」

颯冬もそう言うけれど、最後は文にならなくて泣きじゃくることしか出来ていなかった

「………と、言うことです。これはほんまやし、嘘でもネタでもない……それは、信じて欲しいです」

信じる?何を?

拓也さんが死んだってこと?

嘘やん、嘘やもんドッキリやん、生きとるし

口から出る言葉に頭が、手が、足が、全てが、否定してくる

「もぉ、しょうくん…むりしな、いでっ……」

「わく、とじますっ……」

耐えられなくなった2人の声。

颯冬は枠を閉じようとカーソルを合わせた

「…………うそやん、」

俺の呟きに颯冬は手を止める

「しょうくん……?」


「うそやん、嘘やもん拓也さんが死んだとか嘘やん、ドッキリやん、きっとどっかで生きとるし大丈夫やし!あの拓也さんやで?!年下のくせにしっかり者でろくに弱音も吐き出せない愛おしい、人なんよ…??皆のこと驚かそうとしとるだけ、やん…!死んでないもん生きとるし、嘘やもん嘘やん、うそ…!!!うそうそうそうそ!起きたら拓也さんがおって、おはよって話しかけてくれる!京都訛りな言葉で!一緒にご飯も食べて一緒にゲームもして一緒に生きてくって決まっとるもん!!!いないなんてそんなん嘘やん、一緒におるって約束したし!ずっと、ずっと、一緒やし!!!

 たくやと……!!!!








  嘘って、言ってや……」

口からつらつらと流れ出る虚言と願い

「翔くんっ」

そんな俺に耐えかねた2人に抱きしめられる

あぁ、お葬式でもこんなんあったなぁ。

「……………とりあえず、枠終ろか」

自分の失態に気が付かないまま

翔の言葉を最後に放送は終わりを告げた
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