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番外編 昔話
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これは祖父から聞いた話だ。
当時、祖父は年の近い従兄弟と一緒に猟師をしていたらしい。
しかし、その年はどうにも大した獲物が捕れず、二人とも困り果てていた。
「なあ、おい。狼の山に行ってみないか?」
従兄弟の言葉に、祖父は驚愕した。
「狼の山って、お前正気か?」
狼の山というのは、祖父たちが暮らす町やその周囲で決して入ってはいけないと言われている山だ。
なんでも、その山には大きな狼が住み着いていて、山を荒らすものを襲うと言われている。
「いくらなんでもあんな危険な山に入るだなんて……」
「何が危険なもんか。今どき狼が住んでいるわけがないだろう」
「しかし……」
「それに、山に入らないとしてどうするつもりだ? このまんまだと冬を越せないぞ?」
祖父は山に入ることに抵抗があったが、従兄弟の言うことも最もだったので一緒に狼の山へ向かうことにした。
狼の山に入って、しばらくはなんともなかったという。
他の猟に入る者がいないからか、獲物はそれなりにいて二人は狩りをした。
しかし、時間が経つにつれ周囲の霧が濃くなっていったのだ。
「なあ、おいもう帰ろう。もう十分だろ?」
「いや、もう少し粘るべきだ。蓄えはいくらあってもいいからな」
「けど霧が……」
「これぐらい平気だって。お前は慎重過ぎるんだよ」
祖父がいくら言っても、従兄弟は引かなかった。
一人で戻ることも考えたが、万が一従兄弟に何かあれば自分が責められると思って仕方がなく一緒に行動することにした。
だが霧はどんどん濃くなり、帰り道がわからなくなってしまったのだ。
「おい、どうする? これじゃあ、帰れないぞ」
「わかってるって。とにかく、どこか霧が晴れるまで休める場所を探そう」
二人が周囲を見渡すと、祖父が横穴を見つけた。
「おい、あそこなら休めるんじゃないか?」
「ああ、そうだな。行ってみるか」
その横穴は人二人が横に並んでも問題ないぐらいの大きさで、祖父はどうしてこんなに大きな横穴があることにさっきまで気づけなかったのか不思議に感じるほどだった。
横穴に入ってみるとそこは二人の予想以上に深く、どこまでも続いている。
その上、人工的に掘られたものなのか、非常に歩きやすかった。
もしかしたら、奥はどこかに繋がっているのかもしれない。
二人はそんなことを話しながら進んでいくと、穴の向こうから光が見えた。
穴を抜けるとそこには大きな屋敷が存在あったのだという。
それも、こんな山奥にあるのが信じられないほど立派な屋敷だったそうだ。
「何かご用でしょうか?」
思わず屋敷に目を見張る二人に、屋敷から女性が出てきて話しかけてきた。
その女性を顔を見て祖父は驚いた。
なにせその顔には大きな傷跡がいくつもついていたからだ。
けれども、ジロジロ見るのも失礼だと考え、なるべく女性の顔を見ないように自分たちの事情を話した。
「まあ、遭難してしまったのですね。よかったら霧が晴れるまでうちで休んでいかれてはいかがでしょう?」
「いいんですか?」
「ええ。大したおもてなしはできませんが、どうぞ」
女性に案内され、祖父たちは屋敷に足を踏み入れた。
屋敷は外観だけではなく、内装も立派で、どこかの武家屋敷のようだった。
「ここにはあなた一人で暮らしているのですか?」
「いいえ。夫やその部下の方たちと暮らしているんです。今は、生憎と席を外しておりますが」
女性の説明に祖父はなるほどな、と思った。
こんな広い屋敷にもかかわらず、廊下も壁も実に綺麗だ。これはどうやっても一人では維持できないだろう。
ただ、屋敷に入ってから、妙に視線をあちこちから感じていたが女性以外に人影は見えない。
きっと、こんなに立派な屋敷に入るのは初めてだから、緊張しているのだろうと祖父は結論づけたそうだ。
「ここで少しお待ち下さい」
やがて祖父と従兄弟はある一室に案内された。
二人を案内した後、女性は一旦席を外したのだが、すぐにお茶を入れて戻ってきたそうだ。
「粗茶ですが、どうぞ」
「こうして休ませていただくだけでなく、お茶までご用意していただき、ありがとうございます」
「いえいえ、困った時はお互い様ですから」
女性の丁寧で柔らかな物腰に、祖父はすっかり心許していた。
それから祖父と従兄弟は二時間ほどその家にお邪魔していたそうだ。
霧が晴れて、二人は女性にお礼を告げて屋敷を出た。
横穴に入る前に、祖父が一度屋敷に振り向くと、女性の周囲に奇妙なもやが見えたような気がしたらしい。
それから二人は山を降りていったそうだが、従兄弟がふいにこう言ったそうだ。
「それにしても、あの人の顔はひどいもんだったな。何があったらあんな顔になるんだ?」
従兄弟がいっている相手が、先程の女性のことであることは明らかだった。
「おい、恩人に向かってなんてことを言うんだ」
祖父が注意しても、従兄弟は笑うばかりで反省の様子がみえない。
強めに注意しようとしたその瞬間、祖父の背筋に冷たいものが通ったそうだ。
祖父が周囲を見渡すと、山頂に白い獣を見つけた。
よく見ればそれは、巨体を持つ狼だったそうだ。
その狼はじっと祖父たちのことを睨みつけていたらしい。
あの狼に襲われたら逃げられない。
そう感じた祖父は何も気づかない従兄弟を引っ張って、急いで山を降りたそうだ。
結局その後は何事もなく、二人とも無事に家に戻れたらしい。
だが数日後、山に入った従兄弟がいつまでたっても戻ってこないので、仲間たち総出で探しに行ったところ、彼は死体で発見された。
それも、まるで獣に食いちぎられたかのような、無残な姿だったらしい。
「きっとあの女性は、狼の伴侶だったんだろう。奥さんを笑われたら言われたら、そりゃ怒るだろうさ」
祖父はそれから、どんなに獲物が捕れなくとも狼の山に足を踏み入れることはなかったという。
当時、祖父は年の近い従兄弟と一緒に猟師をしていたらしい。
しかし、その年はどうにも大した獲物が捕れず、二人とも困り果てていた。
「なあ、おい。狼の山に行ってみないか?」
従兄弟の言葉に、祖父は驚愕した。
「狼の山って、お前正気か?」
狼の山というのは、祖父たちが暮らす町やその周囲で決して入ってはいけないと言われている山だ。
なんでも、その山には大きな狼が住み着いていて、山を荒らすものを襲うと言われている。
「いくらなんでもあんな危険な山に入るだなんて……」
「何が危険なもんか。今どき狼が住んでいるわけがないだろう」
「しかし……」
「それに、山に入らないとしてどうするつもりだ? このまんまだと冬を越せないぞ?」
祖父は山に入ることに抵抗があったが、従兄弟の言うことも最もだったので一緒に狼の山へ向かうことにした。
狼の山に入って、しばらくはなんともなかったという。
他の猟に入る者がいないからか、獲物はそれなりにいて二人は狩りをした。
しかし、時間が経つにつれ周囲の霧が濃くなっていったのだ。
「なあ、おいもう帰ろう。もう十分だろ?」
「いや、もう少し粘るべきだ。蓄えはいくらあってもいいからな」
「けど霧が……」
「これぐらい平気だって。お前は慎重過ぎるんだよ」
祖父がいくら言っても、従兄弟は引かなかった。
一人で戻ることも考えたが、万が一従兄弟に何かあれば自分が責められると思って仕方がなく一緒に行動することにした。
だが霧はどんどん濃くなり、帰り道がわからなくなってしまったのだ。
「おい、どうする? これじゃあ、帰れないぞ」
「わかってるって。とにかく、どこか霧が晴れるまで休める場所を探そう」
二人が周囲を見渡すと、祖父が横穴を見つけた。
「おい、あそこなら休めるんじゃないか?」
「ああ、そうだな。行ってみるか」
その横穴は人二人が横に並んでも問題ないぐらいの大きさで、祖父はどうしてこんなに大きな横穴があることにさっきまで気づけなかったのか不思議に感じるほどだった。
横穴に入ってみるとそこは二人の予想以上に深く、どこまでも続いている。
その上、人工的に掘られたものなのか、非常に歩きやすかった。
もしかしたら、奥はどこかに繋がっているのかもしれない。
二人はそんなことを話しながら進んでいくと、穴の向こうから光が見えた。
穴を抜けるとそこには大きな屋敷が存在あったのだという。
それも、こんな山奥にあるのが信じられないほど立派な屋敷だったそうだ。
「何かご用でしょうか?」
思わず屋敷に目を見張る二人に、屋敷から女性が出てきて話しかけてきた。
その女性を顔を見て祖父は驚いた。
なにせその顔には大きな傷跡がいくつもついていたからだ。
けれども、ジロジロ見るのも失礼だと考え、なるべく女性の顔を見ないように自分たちの事情を話した。
「まあ、遭難してしまったのですね。よかったら霧が晴れるまでうちで休んでいかれてはいかがでしょう?」
「いいんですか?」
「ええ。大したおもてなしはできませんが、どうぞ」
女性に案内され、祖父たちは屋敷に足を踏み入れた。
屋敷は外観だけではなく、内装も立派で、どこかの武家屋敷のようだった。
「ここにはあなた一人で暮らしているのですか?」
「いいえ。夫やその部下の方たちと暮らしているんです。今は、生憎と席を外しておりますが」
女性の説明に祖父はなるほどな、と思った。
こんな広い屋敷にもかかわらず、廊下も壁も実に綺麗だ。これはどうやっても一人では維持できないだろう。
ただ、屋敷に入ってから、妙に視線をあちこちから感じていたが女性以外に人影は見えない。
きっと、こんなに立派な屋敷に入るのは初めてだから、緊張しているのだろうと祖父は結論づけたそうだ。
「ここで少しお待ち下さい」
やがて祖父と従兄弟はある一室に案内された。
二人を案内した後、女性は一旦席を外したのだが、すぐにお茶を入れて戻ってきたそうだ。
「粗茶ですが、どうぞ」
「こうして休ませていただくだけでなく、お茶までご用意していただき、ありがとうございます」
「いえいえ、困った時はお互い様ですから」
女性の丁寧で柔らかな物腰に、祖父はすっかり心許していた。
それから祖父と従兄弟は二時間ほどその家にお邪魔していたそうだ。
霧が晴れて、二人は女性にお礼を告げて屋敷を出た。
横穴に入る前に、祖父が一度屋敷に振り向くと、女性の周囲に奇妙なもやが見えたような気がしたらしい。
それから二人は山を降りていったそうだが、従兄弟がふいにこう言ったそうだ。
「それにしても、あの人の顔はひどいもんだったな。何があったらあんな顔になるんだ?」
従兄弟がいっている相手が、先程の女性のことであることは明らかだった。
「おい、恩人に向かってなんてことを言うんだ」
祖父が注意しても、従兄弟は笑うばかりで反省の様子がみえない。
強めに注意しようとしたその瞬間、祖父の背筋に冷たいものが通ったそうだ。
祖父が周囲を見渡すと、山頂に白い獣を見つけた。
よく見ればそれは、巨体を持つ狼だったそうだ。
その狼はじっと祖父たちのことを睨みつけていたらしい。
あの狼に襲われたら逃げられない。
そう感じた祖父は何も気づかない従兄弟を引っ張って、急いで山を降りたそうだ。
結局その後は何事もなく、二人とも無事に家に戻れたらしい。
だが数日後、山に入った従兄弟がいつまでたっても戻ってこないので、仲間たち総出で探しに行ったところ、彼は死体で発見された。
それも、まるで獣に食いちぎられたかのような、無残な姿だったらしい。
「きっとあの女性は、狼の伴侶だったんだろう。奥さんを笑われたら言われたら、そりゃ怒るだろうさ」
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