足跡

秋空夕子

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足跡

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 あれは私が小学生の頃、一人で留守番をしていた時のこと。

 ギシッ

 部屋にいると床の軋む音が聞こえてきた。
 最初は風か何かだろうと気にも留めなかったが、もう一度聞こえて、私は本を読むのをやめた。
 一瞬誰か帰ってきたのかと思ったのだが、それにしては玄関が開く音がしないのはおかしい。
 私はそっとドアに近づき耳を立てるとまたギシッと聞こえた。
 それは間違いなく、誰かが廊下を踏みしめる音だ。
 そんなことを思った私を肯定するかのようにまた音が鳴る。
(ど、泥棒かな…?)
 事件事故とは全く無縁に生きてきた私に未知の侵入者を追撃しようという勇気はなく、また聞こえたギシッという音に心臓を掴まれたかのように飛び上がってベッドに潜り込んだ。

 ギシッギシッギシッ

 音は徐々にその間隔を短くしていき、まるで早歩きをしているかのようにこちらに近づいてきた。
(私の部屋に入ってきたらどうしよう…)
 しかし、私の不安をよそに足音はあっさりと私の部屋の前を通り過ぎてしまう。
 そして音はぴたりとやんだ。
 多分、廊下の端に行きついたのだろう。
 私がどうしたんだろうかと様子を伺っているとそれは突然走り出した。

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ

 それは何度も何度も廊下を行ったり来たりと駆け回り、私はもう何が何だかわからないままベッドの中で震えていた。





 どれくらい時間がたっただろう…
 気付くとその足音は消えていた。
 しかし、私は部屋からはおろかベッドから出ることすらできずにいた。
「ただいまー」
(お母さんだ!!)
 買い物からようやく母が帰ってきて、私は急いで部屋から出た。
 そして、私の目に飛び込んできたのは、



 廊下中が人の裸足の跡で赤くべったりと汚された光景だった。
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