魔王へのレクイエム

浜柔

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第四章 魔王を求めて北へ

第五十一話

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 魔物猟師の町の南の町外れには俗に港と呼ばれるゴンドラ停泊場が在り、小型、中型のゴンドラなら停泊料を支払うことで泊められる。周辺警備付きだ。だからゴンドラを離れて町に繰り出すことも可能となっている。
 小型ゴンドラなら町中にも乗り入れることもできなくはない。だが実際にそうするのは自宅に停泊場所を持つ町の住人に限られる。碌に停泊場所が無いため、住人でもない者が乗り入れたとしても町外れに戻る羽目に陥るのだ。町中では専ら浮遊器フローターで吊したカバンか、カートと呼ばれる一人乗りのコンテナ型ゴンドラが使われる。ただ、これはあくまでこの町の事情である。
 どの町でもほぼ変わらないのが、目に付きやすいところに停泊場が在り、その受付が案内所を兼ねていることだ。初めての町にゴンドラで訪れたなら、そこで町の事情を聞けば良い。目的地が判っているなら、そこまでの道も教えてくれる。
 その受付の構造はそそり立つ柱にフローターを用いた昇降機が取り付けられているもので、ゴンドラのマストに似ている。その昇降機でゴンドラの甲板に高さを合わせて乗員とのやり取りをするのだ。外見としては地面から太いマストが立っているようなものなので、割と遠くからも目立つ存在である。
 停泊区画の数は多くてもまばらにしか泊められていない停泊場。ノルトもまずは受付に行く。
「こんにちは」
「いらっしゃい。初めて見る顔だな」
「ええ、初めて来ましたから」
「やっぱりそうか。自前のゴンドラで来る人は珍しいからそうだと思った」
「珍しいんですか?」
「そうさ。ここに来るのはダンジョンに潜る魔物猟師が殆どだ。ゴンドラの停泊料も安くはないしダンジョンの入り口からは遠いとなれば、食事が出る宿に泊まったり、家を借りたくなるものさ。何しろ長期間になるからな」
 ダンジョンに潜るために遠路遙々来たのであれば、特殊な事情でも無ければ年単位で滞在する。すると毎日のように通うダンジョンまでの道が遠かったり、食事の用意に手間取ったりと言った無駄に思える時間の積み重ねが堪え難くなるのだ。
「でも、それなら皆さんはどうやってこの町まで来てるんですか?」
「そりゃ、乗り合いゴンドラだよ。四日に一度、片道二日の町までの便が通ってるんだ。まあ、歩いて来る人も居るけどな」
「なるほどそう言うことですか。それでここはガランとしているんですね」
 そんなこんなを話しながらもノルトは差し出された木札に名前を書いて前払いの料金を払ってと手続きは進められ、最後に受付係から差し出された木札を受け取った。
「支払い証明書みたいなものだ。出る時に返してくれ」
「解りました」
「それにしても四日間だけとは、何しに来たんだ? あ、いや、言い難いなら答えて貰わなくていいんだけどな」
「いえ、構いません。腕のいい魔物猟師を雇いたくて……、いえ、力を借りたくて探しに来たんです」
「腕のいい魔物猟師を探しにねぇ」
 受付係は全く意味が解らないとばかりに顎を撫でる。
「それなら魔法結晶買い取り屋にでも聞くことだな」
 そう言って受付係は幾つかの買い取り屋の場所を説明する。総じてダンジョンに近い北側だ。
「ありがとうございます」
 礼を言ってそこを離れたノルトは、指定された区画に移動してゴンドラを停泊させた。
「それじゃ、早速行きましょうか」
「そうだな。でも俺はちょっとばかりダンジョンに行ってみるよ」
「解りました。でも気を付けてくださいね。それと、できれば稼いで貰えると有り難いです」
 まだまだ旅は長い予定だから資金を稼げるなら稼いでおきたい心も有るのだ。
「何とも世知辛いが、善処しよう」
 クインクトは肩を竦めながら答えた。
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