生活魔法は万能です

浜柔

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54 道連れ

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 ルキアスは農夫のガズイ宅を辞した翌日の晩、目印とした最後の大きな町パルドスに着いた。パルドスの町はベクロテが歩いてほんの数日範囲のせいか、人通りが多く、喧騒が止むことを知らない。
 広場を見付け、テントを置く。それから芋蔓を何本か茹でて皮を剥き、食べやすい長さに切る。甘薯を洗って焼く。
 その甘薯が良い匂いを漂わせ始めた頃。

「おい、お前。お前はダンジョンに行くんだろ!」

 ルキアスは突然大声で呼び掛けられた。ビクッとなって振り向けば、赤い癖毛がツンツン撥ねた勝ち気そうな少年が立っている。年の頃はルキアスと同じだ。
 ルキアスはこの少年もダンジョンに行こうとしているのだと感じた。そう感じた理由までは判らない。強いて言うなら、纏う雰囲気がそうなのだ。

(ぼくもきっとこんな感じなんだ……)

 理屈でも何でもないと理解したルキアスである。

「そうだけど……、君は?」
「俺はザネク・ドースバス! お前は?」
「ぼくはルキアスだけど……」

(聞いたのは名前じゃないよ……)

 聞きたかったのは何を目的としているかだ。

「ルキアスだな! 俺もダンジョンを目指している! どうだ? 一緒に行かないか!?」
「は……?」

 ザネクの不躾さに引き気味のルキアスだ。
 しかし彼の申し入れには心惹かれるものがある。ところが一方では気後れもする。それはルキアス自身の問題だ。

「ぼくは『天職無し』なんだけど、いいの?」

 ザネクは目を見開いた。見るからに予想していなかったのが窺える。

「あ、ああ! そのくらい何てことないぜ!」

 若干上擦った声で返事をしたザネクの目は泳ぎ気味。やせ我慢が混じっているのがルキアスにも判った。自分から申し入れたにも拘わらず自分から断るのはさすがに憚られるのだろう。
 彼が欲しかったのはダンジョンを一緒に探索できる天職持ちの仲間に違いない。ところが声を掛けた相手が『天職無し』と知って動揺したのだ。もしかすると声を掛けたのはルキアスが初めてで、天職のことを失念してしまっていたのかも知れない。
 しかしルキアスはそのやせ我慢を快く感じた。もう少しこの少年と付き合ってみたいと思うくらいには。

「じゃあ、ベクロテまで一緒に行こう」
「そ、そうだな! ベクロテまで一緒だ!」

 ザネクはホッとした表情を見せた。ここからベクロテまでは歩いて四日程度。その間に天職の出番も無く、ベクロテに着いたところで別れるなら、やせ我慢をするまでもない。

「そうと決まったらお近づきの印に一緒に飯食おうぜ」

 調子が戻ったらしいザネクにルキアスは誘われるが、応じるのは不可能だ。収入の目途が立っていない以上、不用意に現金を減らすことはできない。

「ごめん。ぼくはその……、お金に余裕が無くて……」
「そう言うことか」

 サネクはルキアスの手許のフライパンを見て呟いた。ルキアスが甘薯を焼いている真意を測りかねていたのだ。

「それじゃ、俺の分を買ってくるから待ってろ」
「え、あ……」

 ザネクはルキアスが返事をするのも待たずに走って行く。
 数分後には戻って来た。

「ほら、これ。そっちの芋と交換だ」

 ザネクはルキアスに豚肉だろう串焼きを突き出した。思わず串焼きと甘薯を見比べるルキアスだ。

「いいの?」

 どう見ても串焼きの方が高価なのだ。

「言ったろ。お近づきの印だ」
「あ、うん。ありがとう」

 ザネクには矜恃のようなものがあるらしい。
 ルキアスは朗らかに笑った。
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