生活魔法は万能です

浜柔

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152 茂み

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 ザネクは今日幾度か目の留めの剣を振るった。ゴブリンが跳ね飛ばされて草の茂みに落ちる。

「あちゃっ」
「跳ばしすぎだよ」
「悪ぃ悪ぃ」

 ルキアスはゴブリンの骸を回収するべく慎重に茂みに分け入って行く。茂みから引っ張り出してから魔石を抜くのだ。ところがちょうどゴブリンが落ちた地面に違和感のある出っ張りを見付けた。

「ザネク、ちょっとこれ見て」
「どうした?」

 ザネクが手招きするルキアスの許に寄ると、ルキアスは地面を指差して言う。

「これなんだけど……」
「盾みたいだな」
「だよね?」

 丸い盾らしき物体が地面にほぼ水平で埋もれている。ルキアスが手で起こせば簡単に持ち上げられた。少し手を入れれば使えそうな木製の盾で間違いない。勿論使えるかどうかとルキアスやザネクが使うかは別の話だ。

「これってもしかしてルキアスが第一階層で拾ってたのと同じか?」
「だと思う。この階層の宝箱も第一階層と同じなんだね」

 ザネクは顎に手を当て、ルキアスの顔色を窺う。

「宝探ししてみるか? 宝と呼べるようなものでもないが」

 拾っても使い道が無く、売れもしないような品物だ。宝と言っては却って語弊が有る。
 しかしそれはそれである。

「いいの!? やってみたい!」
「じゃあそうしようぜ。その方が探索らしいしな」

 ザネクは「漫然と魔物を探して狩るだけの時間に飽きた」と言うが、理由の大半はルキアスが宝探しをしたそうにしているのを慮ってのことだろう。
 ルキアスはそれに気付きはしないが、素直に喜ぶ。

「うん、ありがとう!」

 二人はどんな場所に宝が有るかを相談し、「やはり目に付かない茂みだろう」と話が纏まった。あちこちの茂みを掻き分け掻き分け探索する。
 あまり深い茂みには入らない。深ければ深いほど地面を見るのも一苦労だ。その上でオークと鉢合わせする可能性だって有る。もっと大人数なら話は別だが、二人だけで鉢合わせしたら対処に困る。
 そうして探索を続けていると、ゴブリンやコボルトとは幾度か鉢合わせする。が、弱い魔物だから難無く退けた。茂みからわらっと出て来ることもあるが、二桁の数にはならないので問題ない。
 オークとはさっぱり遭遇しない。
 だから困ったのはむしろ葉っぱだ。草葉や灌木の枝葉はふとした拍子に刃物になって切り付けて来る。実際にはそれらの在る所に手足を突っ込んでいるだけだが、傷を負わされるのに違いは無い。堪りかねたザネクが途中から掻き分けるのではなく切り払って進む。
 ルキアスはザネクに負担を掛けるようで申し訳なく思いつつも、ザネクが何やら茂みの切り払い方の研究をしている様子でもあったので、特に何も言わなかった。
 そんなこんなでダンジョンから引き上げるまでに見付かった宝は最初の盾を合わせて四つ。木の盾、細い槍、薄汚れた薄い革のチュニック、変色の見られる革の膝当だ。

「ゴミばっかだったな」

 ザネクの一言にルキアスも同意せざるを得ない。槍の穂先だけを弾丸の材料として回収するに留まった。
 今日は他の成果もささやかだ。ゴブリンやコボルトの魔石二〇個弱。六〇〇〇ダールに満たない。いずれも皮が売れなくないが、肉が売れないので買取所に丸のまま持ち込んだら解体費用を取られて無いのと同じになる。だから魔石だけ抜いて持ち帰る。
 『鏡』についてはこれと言った進展が無かったので今後の課題である。
 それでもそこそこ満足な探索だった二人だ。一日を振り返りつつ帰途に就く。
 ところがダンジョンを出た所に仁王立ちのエリリースが待っていた。
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