生活魔法は万能です

浜柔

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160 無理

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 ロマが発射した信号弾がオークを呼び寄せたかは定かでない。確からしいのは『ランプ』の光にぼんやり浮かぶオークの姿が酷く醜悪で不気味なことだ。

「い嫌ああああっ!」

 その醜悪さが今更ながらに堪えられなくなったのだろう。突如叫びを上げたエリリースが風魔法を乱発する。幾らかはオークに達するものの有効な攻撃とは言い難く、オークのる気に油を注ぐ。その一方で大半は明後日の方へと飛んで行き、その一つがルキアスの頬を掠めた。血が滲んで一筋落ちる。

「エリリース、待って! ストップ!」

 慌てて伏せて声を上げるがエリリースは止まらない。が……。

「ぎゃひっ!」

 直後。奇矯な叫び声を上げ、頭を押さえて蹲った。その頭上には煙を立てるリュミアのチョップ。

「落ち着きなさい……ね!」

 リュミアがいつになく目を吊り上げていた。
 エリリースは涙目だ。

「痛いです……」
「おい! じゃれ合ってる場合じゃないぞ!」

 る気を漲らせたオークが雄叫びを上げながら歩みを速め、駆け始めている。

「とにかく迎撃だ!」

 ロマが弓を取り出して、続け様に三本放つ。それは先頭を走る三頭のオークの額に次々と突き刺さり、後続を巻き込む転倒を引き起こす。その間にリュミアも風魔法を次々と放って十数頭のオークを血祭りに上げる。
 ルキアスも銃を一発だけ発射するが、オークの肩を貫くに留まった。大群相手では焼け石に水だ。

「全然間に合わねぇ! 一旦逃げるぞ! ルキアス先に行け!」

 ロマが叫んだ。ルキアスはその声に弾かれるように動き、「エリリース!」と未だ座り込むエリリースの手を引いて立ち上がらせてオークの群れとは逆方向へと走り出す。
 が、森から飛び出た別のオークに行く手を阻まれた。オークは既に攻撃態勢。棍棒を振り上げている。銃の次弾は間に合わない。おまけに立ち止まったことでエリリースがまた頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。

「嫌あああっ! 無理無理無理無理無理ーっ! 生理的にげぼはっ……」

 途中でそのオークの肉を食べたのを思い出したのだろう、胃の中のものをぶちまけてしまった。これではエリリースがいよいよ動けない。
 その様子をルキアスの後に続こうとしていたロマが見咎める。

「マジか!? 足止めだ!」
「ええ!」

 いち早くロマが異変に気付いて指示を出し、リュミアがそれに答える。エリリースを抱き抱えては逃げられないから、足止めしている間にルキアスにエリリースを復活させて貰わなければならない。残るザネクだけでルキアスの支援に向かう。
 だがザネクは一歩届かない。オークの棍棒の方が早かった。となるばルキアスが今取れる手段は一つのみ。

「『傘』!」

 斜めに張った『傘』はオークの一撃で砕かれはしたが、逸らすのには成功した。ザネクがすかさずそのオークの首を狩り取る。これで一安心。かと思いきや、森からまた五頭のオークが躍り出る。

「こっちだ!」

 ザネクがその中の一頭に剣戟を加え、別の二頭も牽制するが、残る二頭がルキアスとエリリースへと棍棒を振り上げる。リュミアとロマは後続のオークの足止めで手が放せない。

「『傘』!」

 これで一頭の攻撃は避けられる。だがもう一頭は? ルキアスは突き動かされるままに蹲るエリリースに覆い被さり、目を瞑った。
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