生活魔法は万能です

浜柔

文字の大きさ
240 / 627

240 壁の仕掛け

しおりを挟む
 何らかの仕掛けは動いた。だが何も起きない。
 それはそうだ。同じものがもう一箇所在るのだから、片方動かすだけで何かが起きると考える方が楽観的だ。

「そんじゃ、こっちも押してみるぞ」

 ザネクが左下隅の音の違った石を押す。するとこの石もガコッと奥へと引っ込んだ。
 だが何も起きない。ザネクは思案顔だ。

「何か足りないんだろうな」
「何か……」

 ルキアスは壁を一望できる場所まで壁から離れ、全体を見回してみる。
 仕掛けが在ったのは右下と左下だ。シンメトリーのようでありながらどこかバランスが悪く感じられる。

「もしかして」
「何か閃いたか?」
「うん。もしかしたらだけど確かめてみるよ。『傘』」

 ルキアスは小さめに『傘』を差して乗り込み、壁の右上隅へと上がる。そして右上隅から少し――右下隅から仕掛けの石までの距離と同じくらい――離れた石を押してみる。
 ガコッと奥へと引っ込んだ。

「おおー」

 ザネクが感嘆の声を漏らした。
 ルキアスはザネクに軽くどや顔を返すと、左上隅に移動する。四隅の三つまでに仕掛けが在ったなら残る一つに在る筈だ。それが証拠に仕掛け全体はまだ動いていない。その左上隅、やはり同じくらいの距離の石を押す。
 ガコッと奥へと引っ込んだ。
 ところが次の瞬間、壁がゆっくりと手前に傾き出した。目前で壁がずれていくのだからルキアスにははっきりと見える。

「逃げて! 倒れる!」
「うおっ!?」

 ルキアス自身も壁から離れつつザネクに警告を発すると、ザネクは一目散に壁から遠くへ駆け出した。十分離れて振り返ると、ちょうど壁が地響きを起てて床に激突するところであった。
 もうもうと土埃が舞う光景を前にしてザネクがぼやく。

「危ねぇなー」

 上の二つの仕掛けは空を飛ぶか梯子を使わなければ動かせない。普通には梯子だ。しかし梯子に昇っで仕掛けを動かしたとしたら、果たして倒れる壁から逃げおおせるか。この階層が適正な探索者なら運が良くてギリギリ逃げられるくらいだろう。
 埃が鎮まるのに合わせるようにルキアスも床に降り、二人で壁の向こうだった場所を見定める。
 そこは隠し部屋で、宝箱らしき箱がポツンと置かれているだけだ。

「何の捻りもねぇな」
「あったら困るよ」
「まあな。開けてみようぜ」
「うん。でも罠とか無いよね?」
「箱には無いんじゃないか? 壁が罠みたいなものだったからな」
「それもそうだね」

 そうして開けた宝箱の中身は何の変哲も無い鉄の剣であった。
 二人して微妙な顔になったのは言うまでもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
 病弱な僕は病院で息を引き取った  お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった  そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した  魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...