生活魔法は万能です

４３３ アダマント製

　五日掛かりでフヨヨンが希望する工具、具体的にはアダマント製切削工具のバイト、タップ、ダイス、ドリルの各種、加えてヤスリ各種の作成が終わった。その数五〇点近くに上る。
　フヨヨンとの共同作業になったので殆ど『捏ね』てばかりのルキアスだった。

「うっふふー。ルキアス、感謝するよ！」
「はい……」

　フヨヨンが喜んでいるのは偏にアダマントの切削工具を手に入れたからだ。仕上げも手ずから行ったためか、喜びも一入だろう。
　しかしルキアスは疲れたし、型に『捏ね』て押し込んで作ったような工具が使いものになるのか自信を持てないのでテンションが低い。その精度が如何ばかりかはルキアスの関知するところではくとも、気になるものは気になってしまうものである。

「このお礼に旋盤とボール盤とフライス盤と炭素工具鋼製の工具を取り揃えてプレゼントするよ。切削工具はアダマント製も含めるからこの後また手伝ってくれたまえよ」
「ありがとうございます……？」

　全ての工具を自作させられずに済んだのは有り難いものの、ここで工具を貰ってもあまり嬉しくないルキアスだ。工具の出番は空気銃を作るだけ終わるので、どうせなら空気銃を作って貰える方が良かった。
　それでもフヨヨンが嬉しいならそれで良いかと言う気にはなっている。
　ただ疑問はある。

「アダマントの工具ってそんなに嬉しいものですか？」
「え？　ルキアスにはこの良さが判らないのかい？」

　ルキアスは頷きで応えた。

「いいかい？　アダマントは世界一硬くて粘りもある。この工具を使ったら金属が木材のように削れてしまうんだ。つまり金属加工が思いのままさ。夢のようだろう？」
「でもそれならアダマントの工具くらい市販されてるんじゃ？」

　フヨヨンは首を横に振った。

「アダマントは素材だけで炭素工具鋼の一〇〇倍以上の値段なのさ。加工の難易度から来る技術料を加えれば更にその一〇倍もの価格になる。高価すぎて一般には使われないんだ。通常の鋼材の加工だけなら炭素工具鋼で可能だからね」
「それじゃ、素材としてのアダマントは何に使われるんです？」
「専ら探索者の武器だね。剣、槍、ナイフなんかの刃先が主な用途さ」
「そうなる理由って何かあるんですか？」
「単純に職人が儲かるからだよ。アダマントを加工できる鍛冶屋が限られているのに武器の需要は高いんだ。深層の魔物相手にはアダマントの武器でさえ心許ないことも多くて他の素材はは考えられないからね。それに加工精度もそんなに必要ないのも武器の特徴さ。剣なんて目分量で打っても違いなんて殆ど判らないだろう？　加工が楽で高く売れるとなればみんな武器を作ると思わないかい？」
「そうですね……」

　ルキアスは蒸気銃を目分量で作成したのを思い出した。これが剣ならもっと大雑把になったことだろう。

「さて……と、ボクはこれに魔法を付与してみるとしようかね」

　フヨヨンはバイトを光を透かすように眺めながら言った。

「付与したら何かいい事が？」
「硬くする魔法を付与したらきっとアダマントだって削れるよ」
「え!?」

　フヨヨンは驚くルキアスを見て、楽しそうに笑った。