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550 知っておきたい
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「兄弟、案外ここによく来てるよな」
「ラビット丼はぼくのソウルフードだからね」
「いや、そうじゃなくてな……」
ロマはルキアスの答えがお気に召さなかったらしい。
「向こうのダンジョンの探索は順調か?」
「順調だと思うけど、どうして?」
「……いや、ほら、兄弟は中層にも行ってなかったろ?」
「それで諦めてここに入り浸ってるように思ったんだ?」
「ま、まあな……」
「そこは心配要らないよ。ぼく達だって魔物が一体だけなら大丈夫だったし、ザネクのお陰で魔物を一体に絞れてもたし……」
そうできたのは他の探索者が居ない間にダンジョンに入れたのも理由だ。他の探索者が居たなら不用意に『大盾』を出せないので一体に絞れたかは怪しい。
もし一体に絞れなかったとしたら、メイナーダ達に依存するか、ベクロテに逃げ帰る羽目になったことは否めない。
しかし今となってはもう過去の話。ザネクの剣を新調した今なら一体に絞らなくてもザネクが倒せてしまう。この安心感からルキアスやシャルウィも落ち着いて攻撃できるので、ザネクの負担も然程上がらない見込みだ。
「だけど今は気が抜けてるかも。少しお金があって探索を頑張らなくてもいいから……」
「ほう、そう言うもんかもな」
ロマは訳知り顔で頷いた。
「話は変わるけどよ。俺もまたそっちのダンジョンに行こうかと思ってる。一度くらい中を見ておかなけりゃ、人に紹介もできないからな。だから着いたらよろしくな」
前回は入口の外から見ただけだ。
「それならぼくはもうこの後帰るだけだから連れて行こうか?」
「あー、それはー、ほら……、なあ……?」
「あー、それなら下が見えなかったら大丈夫じゃない? あの後下の面を黒くできるようになったんだ」
探索者の情けで高所恐怖症に直接は触れない。
「折角だから試してみてくれないかな? ぼくも効果があるのかはっきり知っておきたいんだ」
「……し、仕方ねぇな。兄弟に頼まれたら嫌とも言えないからな」
ロマはまだまだキョドりつつも腹は括ったようである。時間と恐怖を天秤に掛けたのが、ルキアスが頼む形にしたことで僅かばかりでも時間に傾いたのだろう。
ルキアスがラビット丼を食べ終わったら連れだってダンジョンタワーを出て広場へと行く。
「『傘』『シェード』。ほら、下が見えないでしょ。これなら落ち着けるんじゃない?」
ルキアスは『傘』を差して下面に『シェード』を掛けた。そして先に乗り込んで後を叩く。
「……ぉぅ」
ロマは弱々しく返事をして石橋を叩くかのように『傘』に乗り、ちょこんと座り込む。借りてきた猫のよう。この高さでは落ちてもノーダメージなのに緊張している様子だ。
「飛ぶよ」
「……」
『傘』が上昇するに順ってロマが顔を蒼くして冷や汗を流す。
「どはあぁぁっ……」
息を止めていたらしい。苦しくなった息を大きく吐き出した。冷や汗は恐怖からではなかった。
「大丈夫みたいだね」
「ん、んん……」
ロマはまだまだキョドり気味ではあるものの、前回のように頭を抱えて蹲るようなことにならなかった。
「ラビット丼はぼくのソウルフードだからね」
「いや、そうじゃなくてな……」
ロマはルキアスの答えがお気に召さなかったらしい。
「向こうのダンジョンの探索は順調か?」
「順調だと思うけど、どうして?」
「……いや、ほら、兄弟は中層にも行ってなかったろ?」
「それで諦めてここに入り浸ってるように思ったんだ?」
「ま、まあな……」
「そこは心配要らないよ。ぼく達だって魔物が一体だけなら大丈夫だったし、ザネクのお陰で魔物を一体に絞れてもたし……」
そうできたのは他の探索者が居ない間にダンジョンに入れたのも理由だ。他の探索者が居たなら不用意に『大盾』を出せないので一体に絞れたかは怪しい。
もし一体に絞れなかったとしたら、メイナーダ達に依存するか、ベクロテに逃げ帰る羽目になったことは否めない。
しかし今となってはもう過去の話。ザネクの剣を新調した今なら一体に絞らなくてもザネクが倒せてしまう。この安心感からルキアスやシャルウィも落ち着いて攻撃できるので、ザネクの負担も然程上がらない見込みだ。
「だけど今は気が抜けてるかも。少しお金があって探索を頑張らなくてもいいから……」
「ほう、そう言うもんかもな」
ロマは訳知り顔で頷いた。
「話は変わるけどよ。俺もまたそっちのダンジョンに行こうかと思ってる。一度くらい中を見ておかなけりゃ、人に紹介もできないからな。だから着いたらよろしくな」
前回は入口の外から見ただけだ。
「それならぼくはもうこの後帰るだけだから連れて行こうか?」
「あー、それはー、ほら……、なあ……?」
「あー、それなら下が見えなかったら大丈夫じゃない? あの後下の面を黒くできるようになったんだ」
探索者の情けで高所恐怖症に直接は触れない。
「折角だから試してみてくれないかな? ぼくも効果があるのかはっきり知っておきたいんだ」
「……し、仕方ねぇな。兄弟に頼まれたら嫌とも言えないからな」
ロマはまだまだキョドりつつも腹は括ったようである。時間と恐怖を天秤に掛けたのが、ルキアスが頼む形にしたことで僅かばかりでも時間に傾いたのだろう。
ルキアスがラビット丼を食べ終わったら連れだってダンジョンタワーを出て広場へと行く。
「『傘』『シェード』。ほら、下が見えないでしょ。これなら落ち着けるんじゃない?」
ルキアスは『傘』を差して下面に『シェード』を掛けた。そして先に乗り込んで後を叩く。
「……ぉぅ」
ロマは弱々しく返事をして石橋を叩くかのように『傘』に乗り、ちょこんと座り込む。借りてきた猫のよう。この高さでは落ちてもノーダメージなのに緊張している様子だ。
「飛ぶよ」
「……」
『傘』が上昇するに順ってロマが顔を蒼くして冷や汗を流す。
「どはあぁぁっ……」
息を止めていたらしい。苦しくなった息を大きく吐き出した。冷や汗は恐怖からではなかった。
「大丈夫みたいだね」
「ん、んん……」
ロマはまだまだキョドり気味ではあるものの、前回のように頭を抱えて蹲るようなことにならなかった。
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