天ぷらに愛を、(with 女神のお使い)

浜柔

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 九 騙されるのも人生さ

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 ギルド登録を抹消する手続きは簡単に終わった。カードを返却して証明書を貰うだけだ。受付嬢には引き留められたが、あたしの意志が固いのが判ると引いてくれた。
 これからは自力で仕事を探さないといけないが、頑張るしかない。駄目だったらまた別の町で冒険者から始めるだけだ。ともあれ、まずは酒場で雇って貰えないか訪ねてみよう。

「よう、ねえちゃん」
 冒険者ギルドを出た後、とぼとぼと酒場へ向かっていると、三人の冒険者らしき男達に通り道を塞がれた。時折酒場で見たような気もする連中だが、嫌な予感しかしないし、相手にする気にもならない。黙って引き返す。すると、二人が回り込んでまた通せんぼをする。
 まったく頭にくる。
「おいおい、無視するなんてご挨拶じゃねーか」
 挨拶なんてしてないのに、ご挨拶とはこれ如何に。それはさておき、両側を塞がれたら引き返すのも無意味だ。酒場への道を塞いでいる方に向き返った。
「どいて」
「つれねーなぁ。あんた、三億儲けたんだろ? 少しぐらいお裾分けしてくれたっていいんじゃないか?」
「そうさ、お前があんなドラゴンを倒せるようには見えねぇ。どうせ他の誰かがったをくすねたんだろ?」
 何を言ってるんだ? この連中は。三億ってどこからでてきたんだ?
 黙っていると、後ろの男が腕を掴んできた。
「スカしてんじゃねーよ! お前は金を出しゃいいんだよ! さっきギルドから金を引き出してきたのは判ってるんだ!」
「放して!」
 登録を抹消したためにギルドに預けたままになっていたお金を全て現金で渡されたのだが、それのことを言っているのだろう。こんな連中にはびた一文渡す気は無い。段々と殴りたくなってきた。しかし、あたしが殴るとこんな連中の頭なんてトカゲより酷いことになるのは目に見えている。殺人犯になるのは御免なので殴れない。
「金を出したら、放してやるよ!」
 これって明らかに犯罪なのに、近くを通る通行人は見て見ぬ振りと言うより気にも留めてない感じだ。
 もしかして、こんな恐喝はありふれた光景なのだろうか?
 だとすれば、とんだ野蛮人の国だ。こんな町は出て行った方が良いのかも知れない。だけど、他の町も似たり寄ったりの可能性が高いし、ほんとにそうだった場合には取り返しが付かなくなりそうだ。やはり、できる限り我慢をした方が良いだろう。
「しかし、なんだ? このねえちゃん。やけに硬いな」
「ムキムキってか?」
「ギャッハハハハハ!」
「放して!」
 男達が馬鹿笑いをしながらあたしの身体を探るように触ってきたので、反射的に手を振り上げた。
「あんた達! 何やってんだい!!」
 怒号が響いた。あたしのよく知る声だ。途端に男達が狼狽えだした。
「いや、ほら、あれだよあれ、なあ?」
「ああ、あれだよな、あれ」
 男達の言い訳にもならない言い訳に対し、おかみさんのドスの利いた声が響く。
「あんたら、この娘が絡まれた時に店に居た連中だね? あたしは『命が惜しかったらこの娘にちょっかい出すんじゃない』って言った筈だよ? 聞いてなかったとは言わせないよ!」
「あ……あ……」
 男達は目を泳がせ、意味の無い音を口から漏らすだけだ。おかみさんがそんなに怖いのなら、恐喝なんてやらなければいいのに。
「あんたらはあたしの店に出入り禁止だよ。いや、それじゃ生温いね。今度あたしの目の前に現れたら、頭と胴体がさようならするってことにしようか」
「ひっ! ひっ! ひぃぃっ!」
 男達は全身で震えている。あ、なんか股間がびしょびしょだ。
「判ったら、とっととこの町から出て行きな!」
「ひぃぃぃっ!!」
 男達は悲鳴を上げ、けつまろびつ走り去った。
 男達が走り去るのを見やると、おかみさんはあたしの方へと振り返った。
「大丈夫だったかい?」
「はい、ありがとうございました」
「それにしても、ナイフを出せって言ってたのに、やっぱり手の方が先に出そうになってたね」
「あ! そう言えば……」
「まあ、いいさ。だけど悪かったね。あんな屑どもは大抵駆逐したと思ってたんだけどね」
 おかみさんは肩を竦めた。
「あ、いえ、おかみさんの所為じゃありませんから」
「そう言って貰えると、助かるよ」
「あの、それでおかみさん、お願いが有るんですけど……」
「なんだい? 改まって」
「ギルドの依頼とは関係なしに、おかみさんの店で雇って戴けませんか?」
「どう言うことだい?」
 おかみさんは眉根を寄せた。
 あたしは、市民登録と家や家財の購入でお金が足りないことと、ギルドの登録抹消の経緯とを話した。
「そう言うことかい。確かにドラゴンを倒したんじゃ仕方ないね。だけど、あんたは三億ゴールド受け取ってるって話じゃなかったのかい? それだけあれば、お金が足りないなんてことにはならないんじゃないか?」
「それです! さっきの連中もそんなことを言っていたんですが、何であたしが三億円持ってることになってるんですか!? あたしは三〇〇〇万円しか貰ってません!」
「エン?」
「あ、ゴールドの言い間違いです」
「ああ、ごめんよ。それはどうでもいいんだ。それより、三〇〇〇万ってどう言うことだい?」
 あたしがトカゲを売った経緯を話すと、おかみさんの眉間に深い皺が寄った。
「とにかく、買った家と家財とやらを見せてごらん。それと売買契約書もだよ」
「はい」

 あたしは、おかみさんを自宅へと案内した。
「この家かい。これが一五〇〇万か。ちょっと家の売買契約書も見せてごらん」
「あ、はい、これです」
 あたしは、ずだ袋の中から契約書を取りだした。貴重品の類は全てずだ袋に入れて持ち歩いているのだ。
 おかみさんは契約書を見ると、ほっと息を吐いた。
「良かった。不動産取引税は売り主側で纏めて払うようになっているね」
 税金!
 すっかり税金のことを失念していた。おかみさんの口振りなら、不動産取得税的なものは払わなくてよさそうだ。少しだけ胸を撫で下ろす。
「それで、買ったものってのは?」
「こっちです」
 おかみさんを寝室に案内した。掃除の前に買ったもの全てをベッドの上に置いていたのがそのままになっている。
 そして、一つ一つ値段を言っていくと、おかみさんは困ったような顔をした。
「なんて言うか、あんたは随分ぼられてるよ」
「え!?」
「パンみたいなものだと交渉なんてしてたら商売にならないんで、元々交渉の余地のない値段で売ってるものだけど、布団や服みたいなものは下手すると三倍の値段をふっかけてくるものなんだよ」
「ええ!? それじゃあ!」
「ああ、布団は全部で三〇万、古着は二枚で三万が妥当な線だね」
「そんな!」
「鍋なんかも半額とは言わないけど、七割くらいで買えた筈だね」
 あたしは相手の言い値で買ってしまっていたのだ。
 また泣きたくなってきた。
「だけど、防寒具は良い買い物だよ。これはギルダースの店で買ったものだろ?」
「よく判りませんけど、冒険者向けの店でした」
「だったら間違いないよ。あいつは融通が利かない代わりに端から適正価格で売ってるからね」
「あの、ギルダースさんって?」
「あんたもギルドでよく見てるだろ? 厳つい顔のおっさんだよ」
「あの人、お店を持ってたんですか!?」
 ちょっとした驚きである。
「まあ、店の方はあいつの女房が切り盛りしてるんだけどね」
「はあ……」
「それじゃ、そろそろ問題のドラゴンの売買契約書とやらを見せて貰おうか」
「はい」
 あたしは契約書を取り出し、おかみさんへと差し出した。
 おかみさんが契約書を読み進めるのを見ていると、みるみるおかみさんの顔が怒りに歪んでいくのが判った。
「なんだい! これは!! あんた、こんな契約をしたのかい!?」
「ええ!? 変な契約なんですか?」
「は? もしかして読めないのかい?」
「はい……。ちょっと言い回しが難しすぎて……」
「そっか、あんたはここに来て一ヶ月くらいだったね……」
 おかみさんの顔が苦悶したように歪んだ。
「あんた、このままじゃ、二割の所得税を納めなきゃいけないよ。三〇〇〇万の二割だから六〇〇万だね。年明け直ぐに払うことになるから、もう三ヶ月も無いよ」
「ええ!? そんな! 払えなかったらどうなるんですか!?」
「まあ、この家を差し押さえられるってところかね」
「折角買ったのに! もう三〇〇万も残ってないのに、三ヶ月でなんて払いようがありません!」
 おかみさんが眉尻を下げた。
「あんたが売買契約を結んだのは、ギルドじゃなくギルド長個人になってるんだよ。ギルド長はあんたから買ったドラゴンをギルドに三億で売って差額を懐に入れたって寸法さ。あんたが倒したドラゴンの大きさなら三億は最低価格みたいなものだから、査定とか無しにギルド長の一存で契約できるからね」
「そこで三億!? でも、なんであたしが三億で売ったことになってるんですか?」
「それがよく判らないんだよ。だけど、あんたは売った先がギルドじゃないのに気付かなかったのかい?」
「はい。手続きはギルド職員の方がやってくれましたし……」
「何だって!?」
 おかみさんの顔が、また憤怒の形相に変わった。かなり怖い。
「直ぐに、ギルドに行くよ! 付いて来な!」
「はいっ!」
 おかみさんの迫力に思わず気を付けの姿勢になってしまった。

 おかみさんは走るのが速い。人混みをすいすい擦り抜けていく。人混みでまごつくあたしは程なく置いてきぼりにされた。
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