天ぷらに愛を、(with 女神のお使い)

浜柔

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一一 家の準備は整った

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 冒険者ギルドでの騒動の翌日は、エクローネさんの訪問から始まった。大工さんを一人連れている。
 あたしが希望を言うと、二人は寸法を測って図面を引いた。
 そして、エクローネさんが完成予想のスケッチを描いて見せてくれた。その画の光景は、あたしの思っていたものより良いものだ。
 何だかエクローネさんの多才さが羨ましい。

 その午後からはもう、大工さんが作業に取り掛かった。何日もしてから始めるものだと思っていたので驚きである。材料の仕入れなんかにも時間が掛かる筈だ。
 あたしを特別扱いしているのだと、あたしにだって判ってしまう。だから少し心苦しいし、疑問でもある。騙された金額はあたしが突出して多いと言っても、別にあたしが持っていたお金を取られた訳じゃない。契約書は正式で、補償などしなくてもギルドに咎めは無いのだから、こうまでする理由が無い筈なのだ。あたしの事など知らぬ存ぜぬで押し通せば良いだけだ。

 改装は一週間ほど掛かった。その間、あたしは酒場のウェイトレスをしていた。時折、おかみさんが言った通りの陰口が聞こえてきて泣きたくなったが、ぐっと我慢した。その所為か、愛想笑いが上手になった気がする。
 だけど、そんなあたしを見て、おかみさんが痛ましげな表情を見せることが有った。そのことが、あたしには陰口より辛かった。
 噂はそれだけではない。ギルドがドラゴンで一〇億円儲けたと言うものが有る。最低買い取り額が三億円だと言うことだから、強ち嘘ではないだろう。だとするなら、賠償金の話の時に一億円しか支払えないと言っていたのが判らない。一体、何に使っているのだろう? もしかすると、借金まで有ったのかも知れない。
 色々不思議だけど、噂を追及すると深みに填りそうな予感がする。だから、知らない振りをしておこう。

  ◆

「きゃーっ!」
 パチパチパチ。
 自宅を見て、思わず歓声と拍手が出た。この一週間、酒場で寝泊まりをしていて改装中を一切見ていなかった。だから余計に感動が大きい。
 外壁は杉の板のような色で綺麗に塗り直され、扉やひさしが新品になっている。落ち着いた色合いが天ぷらにピッタリだ。
 中に入ると、一メートル半くらいの所にカウンターが有り、カウンターの三分の二は下がガラスのショウケースになっている。窓ガラスの入った家が少ない中、随分奮発してくれたものだ。
 その奥には新しい竈が据えられていた。元々奥行き五〇センチメートル程度の暖炉が有ったのだが、それが竈兼用のものに置き換えられたのだ。一週間でよく設置できたものだと感心する。
 不思議なことに、暖炉は有っても煙突は無かった。煙をどうするつもりだったのか、家を建てた人に聞いてみたい気がする。今回は、天井に換気パイプ代わりのものを建物の正面まで作って貰っている。油の問題も有るので、魔法で風を起こして換気扇代わりにするのだ。
 竈の横には蛇口の無い流しも作られている。水はこれまた魔法頼みである。
 その他、傷みかけていた部分は全て修理されていた。ベッドの土台も新しくなっていた。至れり尽くせりだ。
 費用が幾ら掛かったのか少し気になってしまう。だけどきっと、これは言わない約束だろう。
「ご満足いただけましたか?」
「はい!」
 あたしは笑顔で答えた。
 そう、ずっとエクローネさんが傍にいたのだ。あたしが家の中を見て回っている後ろを黙って付き従っていた。何かを質問すれば答えてくれたのだろうけど、特に質問することも無かったので無言だった。エクローネさんは何度かもの言いたげな仕草をしていたが、言い難そうにもしていたので、あたしにとって嬉しくない話だと思って気付かない振りをした。
 今回の件ではエクローネさんに随分と迷惑を掛けたような気もする。多分、泣いて感謝でもすればあたし自身はすっきりするのだろう。だけど、そうしたくない気持ちも有るのだ。そうしてはいけない気もする。だからあたしは笑うのだ。いつの間にか上手くなった愛想笑いで。
 店先に戻ると、ギルダースさんが待っていた。手には四角い大きな鍋や笊を抱えている。
「こんにちは」
 愛想笑いは絶好調だ。だけど、ギルダースさんは若干渋面になってしまう。何故だ?
「これは、ギルド員からの開店祝いの前渡しだと思って受け取ってくれ」
 そう言うと、ギルダースさんは鍋や笊を差し出してきた。お祝いだと言われると断り辛いし、欲しかった物でもある。少々困惑しつつもあたしは受け取った。
 更に、ギルダースさんは小さな四角い石を差し出してきた。
「これは、リドルとエクローネと俺からだ」
「何ですか、これ?」
「通話石と言う魔法道具だ。それぞれで違う番号が刻まれていて、その番号を指定して通話ができるものだ」
 なんと! 電話みたいなものがあるんだ!
「それは、すごいですね!」
「ああ、会話が周りに丸聞こえと言う難点は有るが、商売をするには必須だと言えよう」
「ありがとうございます!」
 電話が有るのと無いのとでは、確かに大きな違いが出るだろう。予めこの魔法道具の存在を知っただけでも大きい。
 ふと、ギルダースさんの視線を感じ、あたしは自分の口元が緩んでいるのに気付いた。慌てて口を押さえると、何故かギルダースさんに肩を竦められてしまった。
「それでは、商売の成功を願っている」
「私もです」
 それだけを言って、ギルダースさんとエクローネさんは帰っていった。
 その背中に、あたしはお礼を言う。
「ありがとうございました」
 歩き去っていくエクローネさんは何故か俯いていて、ギルダースさんが彼女の頭を撫でているのが印象に残った。

 夜、ベッドに潜っても、エクローネさんの後ろ姿が頭の中にちらついてなかなか寝付けない。あたしは何か失敗した気がする。
 しかし、幾ら考えても判らないものは仕方がない。明日のことを考えよう。明日は営業許可を取って、開店の準備を進めるのだ。
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