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二七 厄介事は避けましょう
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あたしは決断した。野菜の天ぷらの販売を中止する。
「だって、さっぱり売れないんだもん」
「『もん』って貴女ね、子供じゃないんだから」
「むぅ」
メリラさんに呆れられても、薩摩揚げが売り上げ全体の九割以上ともなると拗ねたくもなる。今までしていたことへの徒労感が半端ではないのだ。
「決断自体はしょうがないと思うのだけど、薩摩揚げ一種類だけになるの?」
「それなんですが、人参の代わりにケールを入れたものも用意しようと思ってます」
「あら? それは興味有るわね」
「はい。明日から早速、商品を入れ替えます」
「そう、楽しみにしてるわ」
一月後半になって、少しずつお客さんが増え始めた。その殆どが冒険者らしき人だ。冒険者その壱とその仲間達が食べているのを見て興味を示したのだろう。実際、そんなことを言ったお客さんも居た。そんなお客さん達は最初こそ野菜の天ぷらにも興味を示すのだが、二度目以降は総じて薩摩揚げばかりを買っていった。
時折入る配達の注文でも薩摩揚げだけを望むお客さんも居て、野菜の天ぷらの立場と言うものが無い。
そんなこんなで、明日からは二種類の薩摩揚げだけを売る予定にしている。品数が減ってしまうが、売れない商品を整理して売れる商品に集中するのも経営だ。
ただ、屋号は一体何だったんだろうと思わなくはない。
明けて二月一日。そう、月が変わるのを契機に商品を入れ替えることにしたのだ。
「あら、美味しいじゃない。私はこっちの方が好きだわ」
メリラさんはケール入りの薩摩揚げを囓りつつ、若干口元を緩ませている。メリラさんの口に合ったようで何よりだ。
「入っているものが変わると、意外と味も変わるものなのね」
「はい。劇的には変わりませんが、僅かな違いが案外大きな差に感じますよね」
「ほんとにそうだわ。これならもっと色々な味を作って欲しくなるわね」
「そうしたいのはやまやまなんですが、種類を増やすと手間も掛かりますし、リスクも高くなってしまうので、今はちょっと対応しきれないんです」
「そうなの? 残念ね」
メリラさんは「仕方がない」と言った感じに肩を竦めた。
◆
『配達を頼む』
「はい、メニューは人参と玉葱が入った薩摩揚げと、ケールと玉葱が入った薩摩揚げの二種類になっています。それぞれ一つ五〇ゴールドとなっています」
『そうか。それじゃ、その二つを二〇個ずつ頼む』
「はい。二〇個ずつ、合計四〇個ですね。どちらに伺えば宜しいでしょうか?」
『西の森だ』
「はい。それでは配達料と合わせて合計四〇〇〇ゴールドとなります。洞窟の中などにいらっしゃる場合は入り口までの配達となりますが、宜しいでしょうか?」
『ああ』
「承りました」
配達である。配達の注文が入るのは、決まって悪天候の日の日暮れ前だ。今回もその例に漏れず今日は風が強い。
人通りも殆ど無い通りを抜けて西の門へと行く。
「また配達かい? こんな日ばっかりで大変だな」
「ええ、まあ」
通る人の少ない天気の悪い日にばかり門を通るためか、門番さんとはちょっとしたお馴染みさんになってしまった。ついでにこの門番さんはお店の常連さんでもある。あたしが何を配達しているのか気になってお店に来てくれたらしい。
「気を付けてな」
「ありがとう」
そんな他愛のない会話をしつつ門を通れば、森は直ぐ先に見える。
木々のざわめきも聞こえてくるが、走り出してしまえば聞こえなくなる。それは風の魔法の影響だ。身体の前の空気を掻き分けて身体の後ろへと追いやっているため、音の殆どが耳に届かなくなってしまうのだ。それはそれで構わない。音が聞こえたとしてもほんの一瞬にしかならず、きっと何の音だか判らないからである。
森と言っても木が生い茂る所ばかりではなく、ぽかんと下草だけの広場も有る。そんな場所では、森の中であっても強い風が吹き付ける。それでも、走る時に風の魔法を使っているあたしに限って言えば、影響されることは無い。
だけど一般にはそうはいかないらしい。丁度、前方の広場で戦っている人達と魔物のようにだ。双方共が風に煽られて、度々体勢を崩している様子。
何でこんな場面に出会すかな、と思わなくもないが、出会したものは仕方がない。避ける。そう、避けるのだ。虎を五倍くらいの大きくしたような魔物はこの辺りにしては少々大きい気がするが、ほんの数回しか森に入ってないあたしが知らなかっただけだ。多分。
だけど、何故こうも間が悪いのか。あたしが避けた方向に魔物が飛び退り、風にも煽られて目の前に来てしまった。
ベコッ。
あっはっはっはぁ……。また蹴飛ばしちゃったよ。
虎は背中がポッキリ折れて、ピクピクとしている。明らかに致命傷だ。
その虎を蹴飛ばした勢いで足が止まってしまった。雪を踏みしめて駆け寄ってくる複数の足音が聞こえる。振り向けば、小綺麗な揃いの防具に身を包んだ男達があたしに向けて剣を構えていた。
「何? これ」
いつかの牛頭の時より酷い。あたしは直ぐにそこから立ち去った。
後ろから「待て」だとか何とか聞こえてくるが、そんなのを聞くつもりは無い。
配達先の冒険者は程なく見つかった。
「お待たせしました、天ぷら屋です」
「ああ、待ってた」
「代金は四〇〇〇ゴールドになります」
「ああ」
用意していてくれたのだろう、直ぐに出してくれた。
「ありがとうございました」
「なあ、あんた。ここに来る途中、大牙虎を見なかったか?」
「はあ、人の五倍くらい有りそうな虎っぽいのは見ましたが……」
「ほんとか!? そいつはどっちに行った!?」
身を乗り出して唾を飛ばしてくるのは勘弁して欲しい。
思わず顔を背け、相手を押し止めるような形で掌を開いて構えてしまった。
「死んだと思いますけど……」
「死んだ?」
「はい。誰かと戦ってましたし、ちょっとした事故も有りましたから」
「そうか、良かった」
冒険者はあからさまにホッとした表情をした。
「いつまでもこんな所で足止めされたくないからな。ありがとよ」
「はあ……。では、これで失礼します」
さっきの現場を通りたくなかったので迂回して帰ると、門が何やら騒々しかった。
門番さんは申し訳なさそうに言う。
「すまんな、ここは今、通れないんだ」
「何か有ったんですか?」
「第二王子と騎士団がここを通って町に入ることになったんだ。王子が入るまで一般人は通れない」
「王子って、また何で?」
「狩りをしていた西の森で負傷者が出たらしい」
「それは大変ですね……」
「そうだな。何でも、何十イグも奥に入らないと出ない筈の魔物がほんの三イグの所で出たとか何とか」
一〇〇キロメートル以上奥に入らないと居ない筈の魔物が一〇キロメートルやそこらの所で出たとは難儀なことである。
「そんな魔物が出ることってよく有るんでしょうか?」
「年に二、三度はな」
「結構、多いんですね」
「ああ。それが今回、王子と鉢合わせした訳だ」
「それはまた……」
「で、負傷者の治療のために急遽このクーロンスに来ることになったんだ」
「急遽ってことは、西の森には来ていてもクーロンスには来ない予定だったんですか?」
「ああ。行軍や野営の訓練も兼ねていてな。王都から西の森に来て、狩りをしたらそのまま帰る予定だったんだ」
「王都から西の森ですか……」
むむむ、西の森である理由がよく判らない。
指を顎に当てて少し上目遣いに考え込んでいると、門番さんが苦笑して解答をくれた。
「今回みたいな不測の事態が起きても対応できるように、町の近くでありながら割と強い魔物の居るここの西の森なんだ。訓練で死んだらつまらないだろ?」
「ああ、なるほど。ありがとうございます」
「疑問が解決して何よりだ」
門番さんは何が可笑しいのかクスクスと笑った。
あたしは待つより別の門を通った方が早いので、南門に回ることにした。
日が変わって、いつものようにお客さんを待っていると扉が開いた。
「いらっしゃいませーっ!」
「こんにちは」
「あ……、お久しぶりです」
エクローネさんの顔を見た途端、自分の顔に愛想笑いが貼り付くのを感じた。
「今日は、その、伺いたいことが有って参りました」
「聞きたいことですか……」
お店のお客さんじゃないと判った途端に愛想笑いも剥げ落ちる。
「あっ……」
エクローネさんは軽く息を呑んで目を伏せてしまった。
だが、あたしの顔の筋肉は、取り繕おうにも麻痺したように動かない。我ながらかなり根に持つタイプらしい。
「それで、ご用件の方は?」
「あ、すみません。昨日の夕方、西の森で大牙虎を倒した方を捜しているのですが、千佳さんに心当たりは有りませんか?」
昨日の件だろう。だけど、居合わせた人達の態度からすれば面倒事としか思えない。ならばどうするか。知らぬ存ぜぬを貫き通すまでだ。
「有りません」
「しかし、千佳さんは丁度その頃、西の森に行かれましたよね?」
「森には行きましたけど、心当たりは有りません」
「でも……」
むむむ、エクローネさんが妙に粘る。
「しつこいですね。仮に心当たりが有ったとしたらどうだと言うんですか?」
声が低くなっているのが自分でも判る。いつもはどうやって声を出してたんだっけ?
「それは、先には言えません」
「何ですか? それ。どうせ騙そうとでもしているんでしょう?」
「だ、騙そうとだなんてしていません!」
エクローネさんは勢い込んで反論するが、裏だか隠し事だかが有るのが見え見えではまるで信用できない。
「とにかく、あたしは騙されるのも、面倒事も、まっぴらです。お引き取りください」
「あの、だからですね……」
「お引き取りください!」
あたしが声を荒げるとエクローネさんは放心したように動かなくなった。そして、彼女の頬に涙が伝った。
「何故、貴女が泣くんですか!?」
「ご、ごめんなさい、わ、私……。帰ります」
エクローネさんは手で顔を覆いながら帰っていった。
それを見送るあたしは、自分が癇癪を起こした小さな子供に思えた。
この夜、町の北東方向で大きな地響きが続いた。第二王子と騎士団の面々がパニックになる一方、町の人々は二回目でも有るためか、パニックにはならなかったらしい。
そんな中、誰かが呟いたのだと言う。
「泣いているみたい」
「だって、さっぱり売れないんだもん」
「『もん』って貴女ね、子供じゃないんだから」
「むぅ」
メリラさんに呆れられても、薩摩揚げが売り上げ全体の九割以上ともなると拗ねたくもなる。今までしていたことへの徒労感が半端ではないのだ。
「決断自体はしょうがないと思うのだけど、薩摩揚げ一種類だけになるの?」
「それなんですが、人参の代わりにケールを入れたものも用意しようと思ってます」
「あら? それは興味有るわね」
「はい。明日から早速、商品を入れ替えます」
「そう、楽しみにしてるわ」
一月後半になって、少しずつお客さんが増え始めた。その殆どが冒険者らしき人だ。冒険者その壱とその仲間達が食べているのを見て興味を示したのだろう。実際、そんなことを言ったお客さんも居た。そんなお客さん達は最初こそ野菜の天ぷらにも興味を示すのだが、二度目以降は総じて薩摩揚げばかりを買っていった。
時折入る配達の注文でも薩摩揚げだけを望むお客さんも居て、野菜の天ぷらの立場と言うものが無い。
そんなこんなで、明日からは二種類の薩摩揚げだけを売る予定にしている。品数が減ってしまうが、売れない商品を整理して売れる商品に集中するのも経営だ。
ただ、屋号は一体何だったんだろうと思わなくはない。
明けて二月一日。そう、月が変わるのを契機に商品を入れ替えることにしたのだ。
「あら、美味しいじゃない。私はこっちの方が好きだわ」
メリラさんはケール入りの薩摩揚げを囓りつつ、若干口元を緩ませている。メリラさんの口に合ったようで何よりだ。
「入っているものが変わると、意外と味も変わるものなのね」
「はい。劇的には変わりませんが、僅かな違いが案外大きな差に感じますよね」
「ほんとにそうだわ。これならもっと色々な味を作って欲しくなるわね」
「そうしたいのはやまやまなんですが、種類を増やすと手間も掛かりますし、リスクも高くなってしまうので、今はちょっと対応しきれないんです」
「そうなの? 残念ね」
メリラさんは「仕方がない」と言った感じに肩を竦めた。
◆
『配達を頼む』
「はい、メニューは人参と玉葱が入った薩摩揚げと、ケールと玉葱が入った薩摩揚げの二種類になっています。それぞれ一つ五〇ゴールドとなっています」
『そうか。それじゃ、その二つを二〇個ずつ頼む』
「はい。二〇個ずつ、合計四〇個ですね。どちらに伺えば宜しいでしょうか?」
『西の森だ』
「はい。それでは配達料と合わせて合計四〇〇〇ゴールドとなります。洞窟の中などにいらっしゃる場合は入り口までの配達となりますが、宜しいでしょうか?」
『ああ』
「承りました」
配達である。配達の注文が入るのは、決まって悪天候の日の日暮れ前だ。今回もその例に漏れず今日は風が強い。
人通りも殆ど無い通りを抜けて西の門へと行く。
「また配達かい? こんな日ばっかりで大変だな」
「ええ、まあ」
通る人の少ない天気の悪い日にばかり門を通るためか、門番さんとはちょっとしたお馴染みさんになってしまった。ついでにこの門番さんはお店の常連さんでもある。あたしが何を配達しているのか気になってお店に来てくれたらしい。
「気を付けてな」
「ありがとう」
そんな他愛のない会話をしつつ門を通れば、森は直ぐ先に見える。
木々のざわめきも聞こえてくるが、走り出してしまえば聞こえなくなる。それは風の魔法の影響だ。身体の前の空気を掻き分けて身体の後ろへと追いやっているため、音の殆どが耳に届かなくなってしまうのだ。それはそれで構わない。音が聞こえたとしてもほんの一瞬にしかならず、きっと何の音だか判らないからである。
森と言っても木が生い茂る所ばかりではなく、ぽかんと下草だけの広場も有る。そんな場所では、森の中であっても強い風が吹き付ける。それでも、走る時に風の魔法を使っているあたしに限って言えば、影響されることは無い。
だけど一般にはそうはいかないらしい。丁度、前方の広場で戦っている人達と魔物のようにだ。双方共が風に煽られて、度々体勢を崩している様子。
何でこんな場面に出会すかな、と思わなくもないが、出会したものは仕方がない。避ける。そう、避けるのだ。虎を五倍くらいの大きくしたような魔物はこの辺りにしては少々大きい気がするが、ほんの数回しか森に入ってないあたしが知らなかっただけだ。多分。
だけど、何故こうも間が悪いのか。あたしが避けた方向に魔物が飛び退り、風にも煽られて目の前に来てしまった。
ベコッ。
あっはっはっはぁ……。また蹴飛ばしちゃったよ。
虎は背中がポッキリ折れて、ピクピクとしている。明らかに致命傷だ。
その虎を蹴飛ばした勢いで足が止まってしまった。雪を踏みしめて駆け寄ってくる複数の足音が聞こえる。振り向けば、小綺麗な揃いの防具に身を包んだ男達があたしに向けて剣を構えていた。
「何? これ」
いつかの牛頭の時より酷い。あたしは直ぐにそこから立ち去った。
後ろから「待て」だとか何とか聞こえてくるが、そんなのを聞くつもりは無い。
配達先の冒険者は程なく見つかった。
「お待たせしました、天ぷら屋です」
「ああ、待ってた」
「代金は四〇〇〇ゴールドになります」
「ああ」
用意していてくれたのだろう、直ぐに出してくれた。
「ありがとうございました」
「なあ、あんた。ここに来る途中、大牙虎を見なかったか?」
「はあ、人の五倍くらい有りそうな虎っぽいのは見ましたが……」
「ほんとか!? そいつはどっちに行った!?」
身を乗り出して唾を飛ばしてくるのは勘弁して欲しい。
思わず顔を背け、相手を押し止めるような形で掌を開いて構えてしまった。
「死んだと思いますけど……」
「死んだ?」
「はい。誰かと戦ってましたし、ちょっとした事故も有りましたから」
「そうか、良かった」
冒険者はあからさまにホッとした表情をした。
「いつまでもこんな所で足止めされたくないからな。ありがとよ」
「はあ……。では、これで失礼します」
さっきの現場を通りたくなかったので迂回して帰ると、門が何やら騒々しかった。
門番さんは申し訳なさそうに言う。
「すまんな、ここは今、通れないんだ」
「何か有ったんですか?」
「第二王子と騎士団がここを通って町に入ることになったんだ。王子が入るまで一般人は通れない」
「王子って、また何で?」
「狩りをしていた西の森で負傷者が出たらしい」
「それは大変ですね……」
「そうだな。何でも、何十イグも奥に入らないと出ない筈の魔物がほんの三イグの所で出たとか何とか」
一〇〇キロメートル以上奥に入らないと居ない筈の魔物が一〇キロメートルやそこらの所で出たとは難儀なことである。
「そんな魔物が出ることってよく有るんでしょうか?」
「年に二、三度はな」
「結構、多いんですね」
「ああ。それが今回、王子と鉢合わせした訳だ」
「それはまた……」
「で、負傷者の治療のために急遽このクーロンスに来ることになったんだ」
「急遽ってことは、西の森には来ていてもクーロンスには来ない予定だったんですか?」
「ああ。行軍や野営の訓練も兼ねていてな。王都から西の森に来て、狩りをしたらそのまま帰る予定だったんだ」
「王都から西の森ですか……」
むむむ、西の森である理由がよく判らない。
指を顎に当てて少し上目遣いに考え込んでいると、門番さんが苦笑して解答をくれた。
「今回みたいな不測の事態が起きても対応できるように、町の近くでありながら割と強い魔物の居るここの西の森なんだ。訓練で死んだらつまらないだろ?」
「ああ、なるほど。ありがとうございます」
「疑問が解決して何よりだ」
門番さんは何が可笑しいのかクスクスと笑った。
あたしは待つより別の門を通った方が早いので、南門に回ることにした。
日が変わって、いつものようにお客さんを待っていると扉が開いた。
「いらっしゃいませーっ!」
「こんにちは」
「あ……、お久しぶりです」
エクローネさんの顔を見た途端、自分の顔に愛想笑いが貼り付くのを感じた。
「今日は、その、伺いたいことが有って参りました」
「聞きたいことですか……」
お店のお客さんじゃないと判った途端に愛想笑いも剥げ落ちる。
「あっ……」
エクローネさんは軽く息を呑んで目を伏せてしまった。
だが、あたしの顔の筋肉は、取り繕おうにも麻痺したように動かない。我ながらかなり根に持つタイプらしい。
「それで、ご用件の方は?」
「あ、すみません。昨日の夕方、西の森で大牙虎を倒した方を捜しているのですが、千佳さんに心当たりは有りませんか?」
昨日の件だろう。だけど、居合わせた人達の態度からすれば面倒事としか思えない。ならばどうするか。知らぬ存ぜぬを貫き通すまでだ。
「有りません」
「しかし、千佳さんは丁度その頃、西の森に行かれましたよね?」
「森には行きましたけど、心当たりは有りません」
「でも……」
むむむ、エクローネさんが妙に粘る。
「しつこいですね。仮に心当たりが有ったとしたらどうだと言うんですか?」
声が低くなっているのが自分でも判る。いつもはどうやって声を出してたんだっけ?
「それは、先には言えません」
「何ですか? それ。どうせ騙そうとでもしているんでしょう?」
「だ、騙そうとだなんてしていません!」
エクローネさんは勢い込んで反論するが、裏だか隠し事だかが有るのが見え見えではまるで信用できない。
「とにかく、あたしは騙されるのも、面倒事も、まっぴらです。お引き取りください」
「あの、だからですね……」
「お引き取りください!」
あたしが声を荒げるとエクローネさんは放心したように動かなくなった。そして、彼女の頬に涙が伝った。
「何故、貴女が泣くんですか!?」
「ご、ごめんなさい、わ、私……。帰ります」
エクローネさんは手で顔を覆いながら帰っていった。
それを見送るあたしは、自分が癇癪を起こした小さな子供に思えた。
この夜、町の北東方向で大きな地響きが続いた。第二王子と騎士団の面々がパニックになる一方、町の人々は二回目でも有るためか、パニックにはならなかったらしい。
そんな中、誰かが呟いたのだと言う。
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