魔法道具はじめました

浜柔

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第六六話 伝言

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 ルゼは夢を見た。幼いルゼとセウスペルが戯れる夢だ。誰かに呼ばれたような気がして振り向いたところで目が覚めた。
 心地良い温もりに包まれている。誰かに抱き締められている。肩に重みを感じてそちらを向くと、累造の顔が有った。
 自分を抱き締めているのが累造だと判って安堵する。不思議なことに最初に会った時から無条件に安堵と信頼を覚えるのだ。
 そして累造に身体を預け、累造の手を胸に抱くようにして、また眠りへと落ちていった。

 累造は夢を見た。空を駆ける夢だ。
 セウスペルの死期が近いのを知り、彼に家族の思い出の全てを重ねている我が娘の行く末を案じて焦燥感に苛まれる日々の中、遠くに惹かれるものを感じた。
 同時に感じる救いの予感に惹かれるままに意識を飛ばす。
 すると空を飛んでいる。眼下には見慣れた、されど見知らぬ町並みが続いている。
 惹かれるままに飛び、ある家へと降りる。入った中には兄妹らしき累造とりいなが居る。「ジュゲムジュゲム」などと累造が言い、りいなが突っ込みを入れている。
 惹かれたのは累造にだった。これで我が娘も救われるのだとの確信から、この自分によく似た少年に魂を重ねた。
 そして光が迸った。

 ビクンと跳ねるようにして累造は目覚めた。夢の中では気にも留めなかった違和感が頭痛のように襲ってくる。
 夢の中で見ていたのは自宅とその周辺、そして自分。それなのに見知らぬ町や家、知らない少年として認識したのだ。気持ち悪くて仕方がない。
 だが、今まではっきりしていなかったことも全て判った。取り憑かれたのは異世界転移の魔法陣の実験の時だったのだ。それで魔法が使えるようにもなった。ルゼが子供に見える時があったのもそのせい。
 今だってルゼの乳房を手の平に感じているが劣情なんて起きたりしない。起きない筈だ。
 だけど誘惑に負けて軽く揉んでみる。
 柔らかい……。
『こらっ!』
 頭痛と共に、そんな声が頭の中で響いた気がした。

 頭痛のために完全に目が覚めた累造は、ルゼが安らかな寝息を立てていて安堵した。触れる肌からも異常は感じられない。何ごとも無く夜を越せたようである。
 ルゼのことはこのまま寝かせておけば大丈夫だろうと考え、その場からの抜け出しに掛かる。そうしなければ、自分自身の一部に異常が出てしまうのだ。いくら誰かさんの影響を受けているとは言え、健全な男の子。大変危険である。
 ルゼを起こさないように抜け出すのは困難な行いだったが、やり遂げた。手早く身形を整えて馬車の外へと出る。
 外は昨夜の雨が嘘のように晴れ渡っていた。
 少し離れた所にセウスペルの亡骸が見える。彼を弔わなければならない。

  ◆

「チーナさん、チーナさん」
 朝食の支度を終えて掃除をしていたチーナは自分を呼ぶ累造の声を聞いた。だが、累造が帰ってきた気配は無い。
「累造君?」
「そうです、俺です。後ろです」
「え?」
 言われるまま振り向いた。
「わきゃーーーっ!」
 叫んだ。何せ累造の生首が浮いている。これが叫ばずにいらりょうか。気を失いそうになるのを必至に堪える。
「何事ですの!?」
 ニナーレが駆け込んできた。
「ニナーレさん?」
「はい。うっ……」
 ニナーレには累造が遠見の魔法陣を使っているのだとは一目で分かったが、宙に浮いた三〇センチメートル程の円の中に累造の首だけが映っている様はなんとも不気味だ。
「あの、チーナさんはどうしたんですか?」
「狼狽中ですの。不気味なのです。こちらから見ると累造さんの生首が浮いているように見えますの」
 うっ、と累造は一瞬息を止めた。その点を考慮していなかったのだ。だが、そんなことを考えている場合ではない。
「それは今後改善するとして、ケメンさんに連絡して迎えを送って欲しいんです」
「どう言うことですか!?」
 漸く復活したチーナがは問い質す。
 すると累造が伏し目がちになった。
「セウスペルが亡くなりました」
 息が詰まった。突然、なんてことを言うのだ。そんな話を信じられる筈がない。
 セウスペルはチーナが雑貨店に来た時から居るのが当たり前の存在なのだ。漠然とずっと居るものだと思っていた。それよりも彼を大切にしていたルゼの気持ちを慮ると切ない。だから信じたくない。
「もう、そんな冗談言わないでください!」
 累造は首を横に振る。
「そ、そんな……。本当なんですか?」
 累造は首を縦に振る。
「それじゃあ、私はセウスペルにお別れも言えないんですか?」
「すいません……」
 目から涙が溢れた。
「それで今、どこに居るんですの?」
 このままでは話が進まないとばかりにニナーレが割り込んだ。
「レザンタから南に馬車で半日ほどの場所です」
「判りましたの。チーナ、私が行きます。あなたはここで待っていてください」
 ニナーレは走り出した。

  ◆

「チーナさんに連絡しました。ケメンさんからのお迎えが来るのを待ちましょう」
 累造が持っていた遠見の魔法陣は虹の橋雑貨店に座標を固定していたため、ゴッツイ商会のケメンに直接伝えるのが難しかった。加えて、ゴッツイ商会を覗くような真似は気が引けたのだ。
「そうだね」
 ルゼはセウスペルの亡骸の傍で泣きそうな顔をしていた。累造が馬車から降りた後、程なくして目を覚まし、直ぐにこの場に来た。それからずっとセウスペルの首筋を撫で続けている。痛々しくも雷を受けた跡が有る場所だ。
「あの、お迎えが来るまでにはまだかなり時間が掛かるでしょうから、今の内なら……」
 累造は言外に「泣くのは今だ」と言ったが、ルゼは首を横に振った。
「ずっと泣いてたせいか、なんだか涙が枯れちゃったみたいだよ」
「そうですか」
 逡巡した。セウスペルの言葉を伝えるべきかどうかをだ。
 話せばルゼがもっと悲しみに暮れるかも知れない。だからもっと落ち着いてから話した方が良いかとも思ったが、話す切っ掛けを失うかも知れないし、忘れてしまうかも知れない。
 どちらにしても可能性でしかないなら、この場で話した方が良い。
 話さない選択は無いのだ。
「それなら、伝えておきたい事があります」
「何をだい?」
「ルゼさんは、セウスペルにとっては妹だったようです」
「え?」
「実際には単語の断片だけしか判らなかったんですが、セウスペルはルゼさんに『一緒に旅ができて嬉しい』『もっと一緒に居たかった』『泣かないで欲しい』『笑って欲しい』そして『愛しい妹』そんな風に言っていたのだと思います」
 うりゅ。ルゼの目に涙が溢れた。
「それにしても、最後の最後で妹を助けるなんて、男らし過ぎて憧れます」
「ば、馬鹿、そんなこと言ったら……、う、あ、わあああぁぁ!」
 セウスペルの亡骸に縋り付いて泣くルゼを、累造はただ見守った。
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