3 / 6
3
しおりを挟む
「はて? これはまた異なことをおっしゃいますこと」
キセンセシルは理解に苦しんだ。寝耳に水も良いところだ。勿論寝てはいないのだが。
ところが、ここが攻めどころとでも思ったか、クースデルセがまたも不敵な笑みを浮かべる。
「知らぬと申すか」
「何の事やらさっぱりですわ」
さっぱりなのはクースデルセがドヤれる理由もだ。
「貴様であろう? 幾度にも亘ってシーリーの持ち物を毀損せしめたのは!」
「とんだ言い掛かりですわ」
キセンセシルは即答しつつ、毀損しているのはあんたの頭の中だと、心の中で付け加えた。
「とぼけるつもりか!」
「とぼけるも何も、見ず知らずの方の持ち物をどうこうする趣味は持ち合わせておりません」
ピンクの髪だなぁくらいにしか思っていなかった相手に何が哀しゅうてそんな暇なことをしなければならないのかと、キセンセシルは内心でぼやく。声に出さなかったのは、あまりに言葉が多ければ言い訳じみて聞こえるからだ。
「趣味などではない」
「だとしたら、何だとおっしゃるのでしょう?」
クースデルセはまだドヤっている。どこにそんな自信を持てるのか。いよいよ以てさっぱりだ。
だからキセンセシルは問い質した。
すると、クースデルセがより一層ドヤる。
「嫉妬だ!」
自信満々に放たれた言葉に、さしものキセンセシルも一瞬だけ目が点になった。しかし次の瞬間には腹の底から笑いが込み上げる。
「おーっほっほっほっほっ! ほんとーにおつむのお弱いこと!」
笑い声は甲高くも、聞く者の耳をつんざくかのように激烈。キセンセシル自身が、どうやって声を出したのか、後々になってもさっぱり判らないような声だ。
クースデルセも、これは堪らないとばかりに両耳を押さえて叫ぶ。
「その耳障りな笑いを止めろ!」
「これはこれは失礼を。あまりに滑稽だったものですから」
今のはさすがにはしたなかったと自己反省するキセンセシルだ。
耳鳴りがするのか、クースデルセが耳をほじりながら問い掛ける。
「滑稽だと?」
「わたくしが殿下に近付く女性に嫉妬する筈がありませんもの」
婚約破棄したくてしょうがなかった相手が恋人を作ったからと言って、嫉妬などしよう筈がない。それを機に婚約破棄ができるのだから尚更だ。今まで婚約破棄をしたくてもできなかったのは、相手が気に入らないと言うだけでは根拠に乏しかったため。ただの我が儘だと世間に見なされたら恰好の陰口の的になってしまう。
「嘘を申すな。持ち物を毀損するに飽きたらず、更に悪辣な行為にも及んでおきながら、動機が嫉妬でない筈がなかろう」
「……参考までに伺いますが、その悪辣な行為とは如何様なものでございましょう?」
キセンセシルはむしろ面白くなっていた。思い込みだけでどんな笑い話をしてくれるのだろうかと。
「知れたこと。貴様がシーリーを階段から突き落としたのだ。幸いにも無事だったものの、事と次第によっては命に関わったのだぞ!」
ふーん、だった。もっと面白いものを期待したのでがっかりのキセンセシルだ。しかし浅知恵とはその程度のことを言うのだうなぁと、妙に納得もする。
「またまたとんだ言い掛かりですこと。因みにわたくしに嫌疑を掛けられた理由をお伺いしても?」
すると、クースデルセがまたドヤる。質問されたらドヤりたい年頃らしい。どんな年頃かは判らないが。
「良かろう。ハーナーシ、説明してやれ」
ドヤっていながら説明を他人に丸投げにして自分ではしないのかと、キセンセシルはむしろ驚きを以て受け止めた。
そんなキセンセシルを余所に、ハーナーシが当然のことのように説明を始める。
「あの日、自分が廊下の階段近くに差し掛かったところでシーリーの悲鳴を聞きました」
キセンセシルは理解に苦しんだ。寝耳に水も良いところだ。勿論寝てはいないのだが。
ところが、ここが攻めどころとでも思ったか、クースデルセがまたも不敵な笑みを浮かべる。
「知らぬと申すか」
「何の事やらさっぱりですわ」
さっぱりなのはクースデルセがドヤれる理由もだ。
「貴様であろう? 幾度にも亘ってシーリーの持ち物を毀損せしめたのは!」
「とんだ言い掛かりですわ」
キセンセシルは即答しつつ、毀損しているのはあんたの頭の中だと、心の中で付け加えた。
「とぼけるつもりか!」
「とぼけるも何も、見ず知らずの方の持ち物をどうこうする趣味は持ち合わせておりません」
ピンクの髪だなぁくらいにしか思っていなかった相手に何が哀しゅうてそんな暇なことをしなければならないのかと、キセンセシルは内心でぼやく。声に出さなかったのは、あまりに言葉が多ければ言い訳じみて聞こえるからだ。
「趣味などではない」
「だとしたら、何だとおっしゃるのでしょう?」
クースデルセはまだドヤっている。どこにそんな自信を持てるのか。いよいよ以てさっぱりだ。
だからキセンセシルは問い質した。
すると、クースデルセがより一層ドヤる。
「嫉妬だ!」
自信満々に放たれた言葉に、さしものキセンセシルも一瞬だけ目が点になった。しかし次の瞬間には腹の底から笑いが込み上げる。
「おーっほっほっほっほっ! ほんとーにおつむのお弱いこと!」
笑い声は甲高くも、聞く者の耳をつんざくかのように激烈。キセンセシル自身が、どうやって声を出したのか、後々になってもさっぱり判らないような声だ。
クースデルセも、これは堪らないとばかりに両耳を押さえて叫ぶ。
「その耳障りな笑いを止めろ!」
「これはこれは失礼を。あまりに滑稽だったものですから」
今のはさすがにはしたなかったと自己反省するキセンセシルだ。
耳鳴りがするのか、クースデルセが耳をほじりながら問い掛ける。
「滑稽だと?」
「わたくしが殿下に近付く女性に嫉妬する筈がありませんもの」
婚約破棄したくてしょうがなかった相手が恋人を作ったからと言って、嫉妬などしよう筈がない。それを機に婚約破棄ができるのだから尚更だ。今まで婚約破棄をしたくてもできなかったのは、相手が気に入らないと言うだけでは根拠に乏しかったため。ただの我が儘だと世間に見なされたら恰好の陰口の的になってしまう。
「嘘を申すな。持ち物を毀損するに飽きたらず、更に悪辣な行為にも及んでおきながら、動機が嫉妬でない筈がなかろう」
「……参考までに伺いますが、その悪辣な行為とは如何様なものでございましょう?」
キセンセシルはむしろ面白くなっていた。思い込みだけでどんな笑い話をしてくれるのだろうかと。
「知れたこと。貴様がシーリーを階段から突き落としたのだ。幸いにも無事だったものの、事と次第によっては命に関わったのだぞ!」
ふーん、だった。もっと面白いものを期待したのでがっかりのキセンセシルだ。しかし浅知恵とはその程度のことを言うのだうなぁと、妙に納得もする。
「またまたとんだ言い掛かりですこと。因みにわたくしに嫌疑を掛けられた理由をお伺いしても?」
すると、クースデルセがまたドヤる。質問されたらドヤりたい年頃らしい。どんな年頃かは判らないが。
「良かろう。ハーナーシ、説明してやれ」
ドヤっていながら説明を他人に丸投げにして自分ではしないのかと、キセンセシルはむしろ驚きを以て受け止めた。
そんなキセンセシルを余所に、ハーナーシが当然のことのように説明を始める。
「あの日、自分が廊下の階段近くに差し掛かったところでシーリーの悲鳴を聞きました」
262
あなたにおすすめの小説
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
婚約破棄ならもうしましたよ?
春先 あみ
恋愛
リリア・ラテフィール伯爵令嬢の元にお約束の婚約破棄を突き付けてきたビーツ侯爵家嫡男とピピ男爵令嬢
しかし、彼等の断罪イベントは国家転覆を目論む巧妙な罠!?…だったらよかったなぁ!!
リリアの親友、フィーナが主観でお送りします
「なんで今日の今なのよ!!婚約破棄ならとっくにしたじゃない!!」
………
初投稿作品です
恋愛コメディは初めて書きます
楽しんで頂ければ幸いです
感想等いただけるととても嬉しいです!
2019年3月25日、完結致しました!
ありがとうございます!
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
婚約破棄と言いますが、好意が無いことを横においても、婚約できるような関係ではないのですが?
迷い人
恋愛
婚約破棄を宣言した次期公爵スタンリー・グルーバーは、恥をかいて引きこもり、当主候補から抹消された。
私、悪くありませんよね?
婚約者にざまぁしない話(ざまぁ有り)
しぎ
恋愛
「ガブリエーレ・グラオ!前に出てこい!」
卒業パーティーでの王子の突然の暴挙。
集められる三人の令嬢と婚約破棄。
「えぇ、喜んで婚約破棄いたしますわ。」
「ずっとこの日を待っていました。」
そして、最後に一人の令嬢は・・・
基本隔日更新予定です。
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる