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EX1-4 ※EX1完
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一週間後。キセンセシルは母とメーサに付き添われて森の中の屋敷へと向かっていた。
「あ、あれ……? ここはこんなに明るかったのですか?」
森の道は木漏れ日が柔らかく照らし、木の葉が擦れてさわさわと音色を奏で、鳥や獣が囀り唄う。豊かな命の営みだ。
馬車は程なくして森の中の屋敷に着いた。
「お、お嬢様……」
「え、ええ……」
メーサとキセンセシルは屋敷を前に茫然とした。屋敷は明るく落ち着いた色調で彩られ、絡まっていた筈のつる草も無くなっている。
「お待ちしておりました」
執事が血色の良い顔で出迎えた。
「え? え?」
キセンセシルは困惑しきり。
「当主の許へご案内いたします」
「よろしくね」
ケーケンシアが返事をし、中に入る。通された屋敷の中は日の光が射し込んでいて明るい。前回の暗さが嘘のようだ。
「「ええ……」」
キセンセシルとメーサは揃って困惑の声を上げた。
当主が待っていたのは庭が望めるリビングだった。血色の良い老人が立ち上がって朗らかに手を挙げる。
「やあ、良く来てくれた」
「「ええ!?」」
キセンセシルには目の前の老人がこの間の老人とは別人に見えた。しかしよくよく見れば、確かにベッドに横たわっていた老人だ。さっきからもうまともな言葉が出ていないが、キセンセシル自身は気付いていない。
勧められた席に着き、お茶を一服したところでケーケンシアと老人が種明かしをする。
「ご隠居には歯止め役になっていただいたのです」
「どうしてそのような……」
「ご隠居が婚約者の最初に名を連ねることで、他の早とちりした婚約者が婚約を公表したりしないように牽制しているのです」
各婚約者に知らしているのは順番のみだが、キセンセシルが婚約を解消した人数が判れば自分の順番かを判断可能だ。順番が回った婚約者が勝手に婚約を公表することもできる。そうなっては公認の婚約者となってしまい、キセンセシルが婚約を破棄しようにも世間体との兼ね合いを判断しなければならなくなる。相手がとんだろくでなしでも婚約を容易に破棄できないのだ。だからケーケンシアはそんな状況を避けようと、この屋敷の当主ジージハ・オーチャムに相談したのである。
対価はちょっとしたドッキリのお遊びに付き合うことだった。
「わたくしの時は屋敷の中を真っ赤にして、斬殺死体の振りをなさってましたね」
「あの時の奥方も可愛らしかったですなぁ」
「もう、ご隠居ったら」
老人と母が談笑する前で、キセンセシルもどうにか事情を飲み込めた。
しかしそうなったらなったで気になるところも出て来る。この屋敷の様子が前回とあまりに違うことだ。
「お屋敷にはつる草が絡まっていたと思うのですが……」
「あれでございますね。あれを巻き付けたり外したりするのは少々苦労いたしました」
執事が朗らかに答えた。ニヤッとした感じの笑い方は相変わらずだ。主が「こいつは笑い方がなってない」と茶々を入れるが、直そうにも直らないらしい。
しかしキセンセシルにとっては笑い方よりこの老人がどうやって力仕事をしたのかが気になる。それできょとんと見ていると、執事が上着を脱いで「まだまだ若い者には負けませんぞ」と、力強い力瘤を軽く作って見せてくれた。
あの青白い顔の老人は何だったの! とキセンセシルが心の中で叫んだのは言うまでもない。
話のついでで老人達がドッキリの仕掛けのあらましを説明する。青白い顔は当然ながらメイクだ。屋敷の壁を塗り替え、つる草を絡ませ、棺桶を用意し、室内も暗くした。それらは事後に元に戻して今の姿がある。
「あんなに驚くとは思いもしませんでしたがの」
「たまたまの雷雨が良い演出になりましたね」
老人二人は快活に笑った。
だが、キセンセシルにとっては笑い事ではない。
「もう! もう! ほんとーに怖かったのですからね!」
ぷんすかぷんすか。力一杯の抗議。しかし、いつになく子供っぽくむくれ、肩を怒らせるキセンセシルの可愛らしい様子は、母と老人二人の笑いを誘うばかり。それでますますキセンセシルがむくれ、そしてますます笑いを誘う。
傍で見ていたメーサはと言うと、キセンセシルを愛しさに笑えば良いのか、キセンセシルと一緒に怒れば良いのか判断が付かず、両方が入り交じった微妙な表情で顔を引き攣らせるのであった。
「あ、あれ……? ここはこんなに明るかったのですか?」
森の道は木漏れ日が柔らかく照らし、木の葉が擦れてさわさわと音色を奏で、鳥や獣が囀り唄う。豊かな命の営みだ。
馬車は程なくして森の中の屋敷に着いた。
「お、お嬢様……」
「え、ええ……」
メーサとキセンセシルは屋敷を前に茫然とした。屋敷は明るく落ち着いた色調で彩られ、絡まっていた筈のつる草も無くなっている。
「お待ちしておりました」
執事が血色の良い顔で出迎えた。
「え? え?」
キセンセシルは困惑しきり。
「当主の許へご案内いたします」
「よろしくね」
ケーケンシアが返事をし、中に入る。通された屋敷の中は日の光が射し込んでいて明るい。前回の暗さが嘘のようだ。
「「ええ……」」
キセンセシルとメーサは揃って困惑の声を上げた。
当主が待っていたのは庭が望めるリビングだった。血色の良い老人が立ち上がって朗らかに手を挙げる。
「やあ、良く来てくれた」
「「ええ!?」」
キセンセシルには目の前の老人がこの間の老人とは別人に見えた。しかしよくよく見れば、確かにベッドに横たわっていた老人だ。さっきからもうまともな言葉が出ていないが、キセンセシル自身は気付いていない。
勧められた席に着き、お茶を一服したところでケーケンシアと老人が種明かしをする。
「ご隠居には歯止め役になっていただいたのです」
「どうしてそのような……」
「ご隠居が婚約者の最初に名を連ねることで、他の早とちりした婚約者が婚約を公表したりしないように牽制しているのです」
各婚約者に知らしているのは順番のみだが、キセンセシルが婚約を解消した人数が判れば自分の順番かを判断可能だ。順番が回った婚約者が勝手に婚約を公表することもできる。そうなっては公認の婚約者となってしまい、キセンセシルが婚約を破棄しようにも世間体との兼ね合いを判断しなければならなくなる。相手がとんだろくでなしでも婚約を容易に破棄できないのだ。だからケーケンシアはそんな状況を避けようと、この屋敷の当主ジージハ・オーチャムに相談したのである。
対価はちょっとしたドッキリのお遊びに付き合うことだった。
「わたくしの時は屋敷の中を真っ赤にして、斬殺死体の振りをなさってましたね」
「あの時の奥方も可愛らしかったですなぁ」
「もう、ご隠居ったら」
老人と母が談笑する前で、キセンセシルもどうにか事情を飲み込めた。
しかしそうなったらなったで気になるところも出て来る。この屋敷の様子が前回とあまりに違うことだ。
「お屋敷にはつる草が絡まっていたと思うのですが……」
「あれでございますね。あれを巻き付けたり外したりするのは少々苦労いたしました」
執事が朗らかに答えた。ニヤッとした感じの笑い方は相変わらずだ。主が「こいつは笑い方がなってない」と茶々を入れるが、直そうにも直らないらしい。
しかしキセンセシルにとっては笑い方よりこの老人がどうやって力仕事をしたのかが気になる。それできょとんと見ていると、執事が上着を脱いで「まだまだ若い者には負けませんぞ」と、力強い力瘤を軽く作って見せてくれた。
あの青白い顔の老人は何だったの! とキセンセシルが心の中で叫んだのは言うまでもない。
話のついでで老人達がドッキリの仕掛けのあらましを説明する。青白い顔は当然ながらメイクだ。屋敷の壁を塗り替え、つる草を絡ませ、棺桶を用意し、室内も暗くした。それらは事後に元に戻して今の姿がある。
「あんなに驚くとは思いもしませんでしたがの」
「たまたまの雷雨が良い演出になりましたね」
老人二人は快活に笑った。
だが、キセンセシルにとっては笑い事ではない。
「もう! もう! ほんとーに怖かったのですからね!」
ぷんすかぷんすか。力一杯の抗議。しかし、いつになく子供っぽくむくれ、肩を怒らせるキセンセシルの可愛らしい様子は、母と老人二人の笑いを誘うばかり。それでますますキセンセシルがむくれ、そしてますます笑いを誘う。
傍で見ていたメーサはと言うと、キセンセシルを愛しさに笑えば良いのか、キセンセシルと一緒に怒れば良いのか判断が付かず、両方が入り交じった微妙な表情で顔を引き攣らせるのであった。
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