天ぷらで行く!

浜柔

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09 魔法入門

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 新居で迎えた初めての朝。窓の隙間は直接光が漏れ出るようなものではないけど、ほんのりと明るくなっているので朝なのは判る。
 だけど気分は晴れやかとは行かない。お店を開けるかどうか、怪しくなっているから。
 服が高いのは知っていたけど、他も殆ど何もかもが高かった。食べ物がそんなに高くないから食べるだけなら何とかなるけど、何かをしようと思ったら途端に負担が重くのし掛かって来る訳だ。
 だけど少しずつでも作業しなければ何も動かないから、取り敢えずはまた掃除かな。
 朝食は昨日の内に買っていたパン。台所を使えるようにしないとスープも付けられない。結局掃除だ。

 灯りを点ける。魔光石と言う、魔力を込めたら暫く光り続ける魔法道具を使うのだけど、これは昨日の反省を籠めて昨日の内に買っておいた。1つ1万円。そんな値段だから今まで手を出せなかったんだ。それを2つ。
 買ったのは防寒具と同じ店で。その店は冒険者向けの店だったようで、携帯に便利な道具や魔法道具を色々売っていた。
 それで魔光石はと言うと、魔力さえ有ればいいので、燃料を心配しなくていい。追加の出費が無いのは素敵だ。そうそう壊れるものでもないらしいので、長く使えることを期待しよう。
 お陰で、部屋は窓を閉めてもそこそこ明るい。窓を開けていても建物の真ん中付近の部屋には光が殆ど届かなくて薄暗いままだから、窓を閉めて全て魔光石頼みにしても大差無い。魔光石の方が明るかったりもする。
 そんな訳で、窓を閉めて掃除だ。これなら人目を気にしなくていい。服を全部脱いで汚れないようにすることだってできるぞ。それはそれで少々心許なくはあるけどね。でも今は少しだけ我慢して掃き掃除をしよう。
 ばさばさ。もあもあ。ざりざり。
 天井を掃けば埃が舞い飛ぶし、床はずっと砂を踏んだような感触が消えない。のっけから挫けそう。
 無心だ。ここは無心になるしかない。黙々と箒を動かすのだ。

 ひたすら手を動かし続けた甲斐は有った。昼をかなり回ったけど、一通りの掃き掃除が終わった。途中で水桶1つと雑巾を見つけたけど、何に使ったのか気になる汚れ方だから、捨てるしかないかな。置いていたら何か使い道が……、無いよねぇ。
 取り敢えず今日の掃除はここまで。拭き掃除がまだ残っているけど、もう今日の気力を使い果たした気分だから明日に回そう。買い物もしたいからね。身体からだに付いた埃を洗い流して昼食をパンの残りで済ませたら出掛けるとしようじゃないか。
 今日の買い物の目標は、防寒着を買った店に有った「初級魔法とその応用」と言う本。10万円だったので二の足を踏んだのだけど、物価がこうも高いのでは魔法で代用可能なら何でも代用した方がいいかなって。それに、風魔法を覚えれば掃除も捗るに違いないもの。

 目的の本は買った。そして今、あたしは草原のただ中だ。
 ここまでは走って来た。チートのお陰で5分も走ればいいのだ。それだけで町は地平線の向こうに行ってしまうのだから、町から出るまでの方がよっぽど時間が掛かってる。
「さあ、魔法の練習だー」
 ここなら失敗しても人様に迷惑が掛からないもんね。練習し放題だ。自宅は元より、町中で魔法の練習なんて危なくてできないもの。
 本は拘束魔法で保護してから広げる。難しい言い回しの多い契約書はまだ読めなかったけど、この本は簡単な言い回しなので読める。書いている内容そのものはかなり単純だった。

 魔法とは、魔力を変化させて流れを作ること。これによって物体に干渉し、現象を引き起こす。この現象のことも魔法と呼ばれる。
 魔法そのものの説明はこれだけ。なんだか国語辞典に載っているような内容よね。よくよく見たら、参考資料に国語辞典が有った。著作権みたいなものが有るとは思えない世界なのに、なんて律儀な著者なんだ。
 でも、魔法の説明を国語辞典に頼るなんて変な話よね。どう言うことなんだろうねぇ……。ここで考えても無駄だけど。
 ともかく本を読み進める。
 それで判ったのは、魔法はどちらかと言うと、身体で憶えるものと言うこと。
 あー、だからかな。国語辞典みたいになてるのは。歩き方や自転車の乗り方を言葉では上手く説明できない感じで。

 魔法の憶え方は体系化されていて、初級魔法の丸憶えから始める。初級魔法は魔力の制御を呪文として言語化されていて、行使者が魔力の流れを感じられなくても、指先に魔力を込めつつ呪文さえ唱えれば発動できるように作られている。何度も魔法を使っていれば段々と魔力の流れを感じられるようにもなって、行く行くは呪文の省略、最終的には無詠唱も可能になる。
 大別されるのは火、風、水、土の4つで、それぞれ初級から学ばないといけない。ざっくりと、火は現象を、風は気体を、水は液体を、土は固体に影響を与える魔法体系で、それぞれで魔力の流れ方が違うらしい。
 その初級魔法の呪文は意味不明の言葉の羅列になっている。日常生活で偶然発動したりしないように、わざとこうしているみたい。だけどそのせいで、誰かに教わるか、これみたいな本を読まないと、取っ掛かりすら見付けられない訳だ。
 だけどその取っ掛かりが有っても、半端な教わり方とか、勉強の仕方とかをしていると、応用が利かずに丸憶えのままでしか使えないらしい。あたしがおかみさんに習った飲み水魔法みたいにってことだね。
 応用できるようになったら、複合させて新しい魔法を構築することもできるようだ。ただ、そんな新魔法は当然のように無詠唱、つまり魔力の流れを制御するだけで発動させるから、後世に伝えられることは殆ど無いらしい。

 あたしは魔法について知らなさ過ぎたよね……。もう少し知っていればもっと楽だったような気がするし、ちょっと凹む。
 だけど、今からはそうじゃないのだ! まずは本の始めの方に書かれている風魔法から練習だ。
 ――かぜよふけふけごろにゃんにゃんみぎからひだりへとんてんしゃんみっちゃんみちみちおろろんろん。
「…………アホか!」
 ベシッ!
 わわわ!
 思わず本を叩き付けてしまったじゃないか。拘束魔法で保護していなかったら、今頃は本がバラバラになってるところだよ……。
 冷静に冷静に。そうあたしは冷静だ! よしっ!
 何にしても迂闊だった。なまじ意味が判る言葉が入っているだけにイラッとしてしまった。気を取り直して呪文を唱えてみよう。
「かぜよふけふけごろにゃんにゃんみぎからひだりへとんてんしゃんみっちゃんみちみちおろろんろん」
 ごわっ。
 右から結構強く風が吹いた。一瞬、身体を持って行かれそうだった。強さは籠める魔力に比例するので、少し籠め過ぎだったようだ。今度は、込める魔力を減らして……。
 そよっ。
 今度はそよ風だった。この程度なら家の中でも練習できそう。……今の、自然の風じゃないよね?
 まあ、そこは大丈夫として、残る問題は右から左にばっかりじゃ不便だから、風の向きを変えたい。本には何か方法が……。「無詠唱なら、応用で風の向きを変えられます」って何だ! うっかりまた本を叩き付けそうになったじゃないか!
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