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15 チームコロシアム:待機ルーム
しおりを挟む『かわいい』。
そこに込められた意味が良いものではないのは何となく分かる。
『世間知らず』『良い子ぶってる』『空気読めない』『ド天然』──どれも現実で、褒め言葉を装って言われてきたから。
そんな嫌味が通じないほど愚鈍ではないのに、彼らは俺が絶対に気付かないだろうと断定して言う。
まるで染まらない俺が悪いみたいに。
いつも通り半笑いで聞き流し、視線をチームコロシアムの待機ルームへ続くドアに向けた。
「俺、今日は19時には上がりたいんですけど、それで大丈夫ですか?」
「ん……ああ、オッケ。じゃあ余裕見て18時半に切り上げるか。ヒヨ、アラーム18時30分」
連れ立って歩き始めつつ、ブラパがアラーム鳥にアラーム設定をするよう呼び出す。
小さく丸い青い鳥がブラパの懐から飛び出し、「ヒヨヨッ!」と高く鳴いて彼の肩に留まった。
「青いシマエナガ……?」
アラーム鳥の公式バリエーションにも青い鳥はいたが、モデルはコルリとカワセミだったはず。
顔を近付けて観察すれば、青い鳥は団子のように丸い体をぽてっとブラパの肩に預け無防備に寝始めた。
待機モーションまで凝っている。
「これも鹿花製」
俺が訊く前にブラパが答えて、しかし顰めっ面で首を振る。
「鹿花に懐くのはいいが、あいつに頼み事すんのだけはやめとけよ。本当の本気でお前の為に言ってるからな、これは」
「……鹿花さんって、そんなすごい性癖なんですか?」
チームコロシアムへの入口ドアを開け、くぐる。
短いロードを挟み待機ルームに入るともう部屋は半分ほどが埋まっていた。
待機ルームにはどこからでも見える超大型のモニターが一つと、5人が座れるベンチソファが2×5の横長配置で計10個置かれている。
視界の左上に表示される人数は、37/50。
既に出来ている7チームと2人の俺たち、だろう。
こっちを見た待機中の人たちがざわつき始め、中には露骨に指を指してくる人までいた。
しかしブラパは一向に気にする様子もなく近場のソファに座り、俺もその横に座れと手で示してくる。
「ボイス通信の設定、『チーム』にしとけ。そうすりゃ聞こえねぇから」
「あ、はい」
俺の悪名の所為だったら申し訳ないな、と一瞬思ったのだけど、この慣れ方とさっきのマシューさんの言い方からするに、俺なんかよりブラパの方がずっと有名人らしい。
俺と居ることで迷惑だと思われないで済むなら良かった、と安堵してブラパの横に座ると、ボイス設定を2人だけにしたのにブラパは内緒話でもするように俺の耳に顔を寄せて小声で囁いた。
「……虫」
「は?」
「鹿花。これも、これも、これも、俺のルームの内装も作ってる鹿花が、一番好きなのが、虫」
「…………」
「表示限界で処理落ちするギリギリまで大量にこれっくらいの小さい虫を」
「あっもういいです! 理解しました! 十分です!!」
自分と俺のアバターと肩の小鳥を順に指差してから噛んで含めるように教えられ、途中でギブアップとばかりにブラパの口を手で塞いで待ったをかけた。
分かったか? と細めた目に訊かれ、ブンブンと頭を縦に振る。
非常に残念だけど、鹿花さんにアバター作成やその技法についてあれこれ訊くのはやめておこう。
「……あれ?」
次に待機ルームに入ってきた人が俺たちの横を素通りして1人で離れたソファに座ったのを見て首を傾げた。
チームコロシアムは待機ルームにインした順番に自動的にチームに振り分けられていく筈なのに、どうしてか俺たちのチームには人が追加されず後から入ってくる人は別の人たちと合流していく。
「なに不思議そうにしてんだ。ロックかけてあるだけだ」
「ロック?」
「チームロック。野良入れたくねぇ時に使うやつ」
言ってから、ブラパは「ああ、お前ソリストだっけ」と思い出したように呟いた。
「ロックってことは、2人だけですか?」
「そうだな」
「……周り、全部5人のフルチームですよね?」
「見た所そうっぽいな」
どう考えても不利過ぎだよね。
どういうつもりかと俺が顔を曇らせると、おかしなことに周りも俺と同じような表情をしているのに気付いた。
「あの」
「なんだ?」
「……周りから、かなりの殺意買ってる気がするんですが」
「そりゃそうだろ。SSSレートのフルチーム相手に2人で挑もうってんだぞ? そりゃ舐めてんのかって思われるって」
ハハッ、とブラパが高笑いする。
「とりえす? レートってなんです?」
「あぁ? ソロはレートも無ぇのか?」
「えっと……順位くらいはあったと思いますが」
どこかにランキング表があったような気がする。
所持ポイントしか見ていないから実装序盤に見たきりだが。
俺の顔が疑問符だらけなのを見てブラパはサブモニターを開いて数回指を動かすと「これ」と俺に見えるようこちらに寄せてきた。
そこにはコロシアムだけでなく、今現在開催されているイベントゲームモードすべてのランキングが載っているようだった。
横のブラパの指が『ソロコロシアム』のタブを開くと、ずらりとプレイヤー名が並ぶ。
1位の名前は──『DragOn』。
チームコロシアム『中央城』保持ギルドのリーダーもソロコロシアムをプレイしていたと知り驚いた。
「うわ、お前7位じゃん」
「え?」
2位以下も当たったことが無い人ばかりだなぁ、とのんびり見ていたのに横から肘でつつかれて、何を馬鹿な、とブラパの指が示した先を見れば本当に『亀吉』という俺の名前があった。
「え、でも俺、ここに書いてある上位帯の人とほとんど当たったことないんですが……」
戸惑いながら言うと、ブラパはランキングをスクロールして下がっていく。
「この辺は?」
「えっと……あ、この人と……この辺りからは、結構よく当たる人ばかり固まってます」
10位以下にやっと見知った名前がちらほら出始め、20位より下はほとんどが知っている名前ばかりになった。
レートがあるというならもっと下が妥当なんじゃないかと首を捻るが、ブラパは納得したように頷いている。
「お前、昼間勢だからだろ。ランカーは深夜にインしてる人ばっかだから当たらないんだろうよ」
「ああ……!」
そういうことか、と手を打つと、ブラパは今度はタブを『チームコロシアム』に変える。
1位はやはりまた『DragOn』だ。
名前の横に、ソロコロランキングには無かった『SSS』というマークが表示されている。
これがさっきブラパの言っていたレートか。
そのまま2位に視線を下げて、真横を見て、またランキング表に目を戻す。
「………………えっと」
「いえーい。チムコロ現在2位のBUCK LAPINでーす」
特に表情を変えず言葉だけ浮かれた調子でピースサインするブラパに、もうどこから突っ込んだらいいか分からない。
「あの……つまり」
俺が言いかけた所で、チリーン、と鈴の音が鳴った。
メンバーが揃い、ゲームが開始される合図だ。
「俺がチームリーダーでマッチしてるから、周り全員SSSってコト。昼間勢ったってお前より強ぇヤツばっかだからな。気ぃ抜くなよ~」
ゲームマップへロードを開始して消えゆくブラパがケラケラとそれはそれは楽しそうに笑うのを、もはや諦めの境地に近い心境で聞いて肩を落とした。
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