狡猾な狼は微笑みに牙を隠す

wannai

文字の大きさ
上 下
17 / 27
狡猾な狼は舌の裏に隠した我儘を暴かれたい

我儘② 愛を示して

しおりを挟む

「さて、じゃあ始めようか」
「はあ」

 土曜の夜九時、毎週この時間に始めると、尋が決めた。
 彼曰く、『久斗くんがどれだけ俺を愛してるかテスト』。
 金曜の夜だと仕事の疲れが残っているし、日曜の夜は翌日から仕事だから時間を気にしてダメ、と。まあ妥当なのだけれど、実施されること自体についてはいまだに納得していない。わざわざテストと称して試されなくても好きなんだから、さっさと抱いてくれればいい。
 二人とも風呂から上がったばかりで、けれど寝間着を着る前に「どうせ脱ぐから着ないで」と言われたのでパンツ一丁だ。五月の夜はまだ肌寒く、けれど暖房が入っている居間に居る限りは耐えられないほどでもない。
 尋が選んだ新居はやはり郊外の一軒家で、やはり風呂の広さだけは譲れないようだった。風呂が大きくて街中にあるマンションもあったのだが、なんだかんだとモニャモニャ理由をつけて却下されたのは謎だ。あっちの方が通勤時間も短いし買い物にも困らなかったのに。
 そういう謎の拘りも含めて、尋の我儘はとどまるところを知らない。我儘を許すことで尋が喜ぶのが嬉しいから大抵のことは聞いてやりたいが、このテストに関しては別だ。
 何故、どうして、両想いなのに我慢しなければならないのか。どちらかがまだ気持ちが追いついていないとか不安だとか、それなら納得出来るけれど、そうじゃない。俺どころか尋は俺以上にヤりたい筈なのに、何をやせ我慢しているのか。

「そんなに怖い顔しないでよ」

 ぶすくれる俺に尋は苦笑しつつ、何故か彼のスマホを手渡された。
 隣り合って座る居間のソファでそれを受け取って首を傾げると、尋は目を細めてスマホの画面を指で叩いた。

「今日のテスト。それで自分で弄ってるとこ撮って」

 動画でね、と微笑まれて、ジト目で睨む。

「……なんのテストでしたっけ?」
「『久斗くんがどれだけ俺を愛してるか』」
「単なるエロ調教ですか?」

 オナ自撮りが愛を測るテストと言われても。
 尋のスマホの画面に指を置くと、画面が点灯して指の写真が写し出された。自分と尋に嵌ったのと同じ指輪をした手。というかこれ、俺の指か。いつ撮ったんだこんなの。
 呆れて画面を見つめる俺に、尋はたっぷり間を開けてから、

「……違うよ?」

 と答えた。

「……」
「……」

 いやエロ調教だわこれ。
 画面を尋に向けて顔認証でロックを解除して、それを持って立ち上がった。

「してくれるの?」
「受けなきゃヤれないんでしょ」

 だったらやりますよ、と答えると、尋はでれでれと顔を緩ませた。
 あー可愛い。この程度で喜んでくれるならいくらだって付き合ってやる。
 居間を出ていこうとすると、「あ!」と思い出したみたいに大きな声を出した尋が慌てて立ち上がった。

「ダメだ、上はまだ暖房入れてなくて寒いんだった。俺が上で待ってるから、撮り終わったら持ってきてくれる?」

 寝室も暖めておくね、と言われて、黙って頷いた。
 居間から出ていく尋の後ろ姿を見送って、スマホを弄ってカメラアプリを起動させる。ローテーブルの上のボックスティッシュに立て掛けて角度を調整して、その前のソファの上が映るようにした。
 録画ボタンを押すと、ペコン、と音が鳴った。
 ソファに座って、パンツから萎えたままの肉を取り出す。これ、どこ見てればいいんだろう。カメラの方を向くのも何だか気恥ずかしいし、というか、わざわざ自分でしているのを撮るなんてのが馬鹿馬鹿しい。
 肉を擦りながら、こんなの見て面白いだろうか、と考える。どうしよう。どうサービスしたらいいのか。目の前に尋が居てくれれば、目線や表情で欲しがっているものが分かるんだけど。

「……尋……」

 手の中で肉を擦りながら、とりあえず名前を呼んでみた。自分の名を呼びながら自慰に耽る様は尋も気に入るだろう。軽い気持ちで呼んでみたけれど、指の中の肉がビクリと跳ねて大きくなった。

「んん……、尋、尋」

 瞼を閉じて彼に触られている時を思い出しながらすると、割とイイ。尋の手を懸想すると、彼の声と体温まで再生出来る。包むように扱いてくるあの手はいつも熱くて、親指の付け根の柔らかいところで先端の粘膜を擦られると腰が溶けそうになる。
 カメラに見せつけるように手の中で滾る肉を擦り、夢中みたいに息荒く尋の名前を呼ぶ。

「……っ」

 しばらくそうして弄り回しているうち、びくびく、と震え、肉の先から白濁を吐いた。掌と股間周辺にそれが飛んで、荒くなった息を整えながらそれを見下ろして少しの間蕩然となる。ソファに垂れたのに気付いて慌ててティッシュを取って拭った。
 指の精液を拭いて、スマホの録画を止める。
 これを見て、尋は興奮してくれるだろうか。股間を綺麗に拭いて、それから濡れた下着は脱いで居間を出た。さすがに全裸は肌寒くてぶるりと震え上がる。少しだけ汚れてしまった下着を洗濯機に投げ込み、その先の階段を数段上がったところで寝室のドアが中から開かれた。

「早くおいで、寒いでしょ」

 毛布を持った尋が俺が行くより早く寄ってきて、頭からすっぽりと掛けてくる。ふわふわで肌触りのいいそれに包まれて、抱き寄せるような尋の腕に押されて寝室へ入った。ガス暖房のおかげかすでに室内は暖まっていて、毛布に包まったままベッドへ上がると尋が座っていたところだったのかほんのり暖かかった。

「それじゃあ、見せてね」

 俺からスマホを受け取った尋はそのまま横へ座ってきて、そして動画を再生し始めた。すぐさま動画の再生が始まったスマホからは尋の名前を呼ぶ自分の声が洩れ聞こえてきて、予想以上に恥ずかしくて毛布の中に隠れた。

「……」
「……」
「…………三十点」

 しばらくそれを見ていた尋は、動画を最後まで再生してから、そうぽつりと呟いた。

「え……」

 そりゃあ自分でもそれほどカメラ映えする見た目では無いと分かっているけれど、赤点ギリギリと判断されればさすがに傷付く。どの辺が悪かったのか、ともぞもぞ毛布から顔を出すと、尋が恨みがましい目でこちらを見ていた。その表情でどうやら彼の欲しがっていた映像と違うのは理解したが、しかし彼の股間はパンツを押し上げて主張している。

「……そんな勃たして、三十点?」

 採点ミスじゃないですか先生、と伸ばした指でつんつんとそこを叩くと、うううぅ、と唸りながら尋が抱きついてきた。

「久斗くんさぁ、俺を抱きたいの?」
「はあ?」
「抱きたいんだったら花丸満点だよ。俺の名前呼びながらとかもう最高過ぎてこの声アラームにして毎日最高の目覚めをしたい久斗くん大好き愛してる」
「……」

 よく分からないけれど、名前を呼んだのは大正解だったらしい。毛布ごと俺を抱き締めてくる尋の背中に腕を回して、彼の背中を撫でる。

「そんな喜んでくれて、何で三十点なんですか」
「だからさ、久斗くんは俺に抱かれたいんでしょ? 抱かれたくてこのテスト受けてくれてるんでしょ? だったらさぁ……」

 言いたいことは分かるよね? と額をくっつけてから鼻の頭にキスされた。
 ……ああ。恨みがましい目の理由がやっと分かった。尻の方に指を入れて自慰する姿が見たかったのか。

「次から指示はハッキリしてくれませんか」
「俺を愛してるなら分かって」
「エスパーじゃないんですよ」
「俺相手だけエスパーになって。俺の全部を理解して」

 もうそれ我儘とかいうレベルを超えてるんだけど。ハァ、と溜め息を吐くと、尋は不安そうに眉を下げて視線を向けてくる。

「……エスパーは無理かもしれませんけど、出来るだけ理解出来るように努力します」

 ちゅ、と尋の頬にキスすると、彼の目が嬉しそうに垂れ下がる。笑うと目尻が線になるの、可愛いなぁ。

「ちなみに、何点貯まったら抱いてくれるんですか?」
「ん~? 千点くらい?」
「……毎回満点でも二ヶ月ちょっとですか」
「満点どころか今日は三十点だよ、久斗くん」

 先は長いね、と微笑まれて、ニコ、と笑みを返しながら尋をベッドに押し倒した。彼の下着を引き下ろし、しっかり血を集めた陰茎を撫でながら口付ける。尋の口の中に指を入れて舐めてもらって、濡れた指でまた陰茎を扱いた。にゅく、にゅく、と小さく音を立てて俺の指の中で肉を擦られて、尋が気持ちよさそうに目を閉じる。
 駄目押しついでに、好きです、と囁きながらキスして舌を絡めた。俺の下の尋は抵抗する素振りも無く、俺の背中に腕を回してうっとりしている。

「……こら」
「チッ」

 このまま無理やり、と腰を落とそうとしたのに、寸前で悟られて尋が目を開けた。舌打ちしつつ、諦めきれずに狭間に肉の先を押し当てて受け入れようとしたのにぴしゃりと尻を叩かれた。

「ズルしないの」
「だって、そんな待てないです」
「待ってるのは俺だよ」
「もうほんとめちゃくちゃ好きなんでさっさと抱いて下さいダーリン」
「そういう台詞真顔で言える久斗くんが大好きだよ」

 溜め息混じりにぎゅっと抱き締められて、何がそんなに怖いのか、と抱き締め返す。

「あ、じゃあ、俺勝手に弄りますね」
「……うん?」
「どうぞ好きなだけ我慢して下さい」

 宣言して、そのまま彼の上で自分の穴に指を抜き挿しし始めた。

「ん……ん、ん」
「ひ、久斗くん……」

 ちゅ、ちゅ、と尋の頬にキスをしながらだから、彼からは俺がどんな風に弄っているかは見えない。けれど、わざとぬぽぬぽと下品な音が出るように掻き回せば、尋は頬を紅潮させて唾を呑んだ。大きく突き出た喉仏が動くのを細めた目で嗤い、切なげな嬌声を上げる。

「尋、尋……、ねぇ、俺ね、指、もう三本根本まで入るようになったんですよ……?」

 耳の穴に吹き込むように囁くと、尋は耐えきれないみたいにぎゅっと強く瞼を閉じてしまった。でも、いくら目を閉じたって音は聞こえる。
 グチュグチュと淫猥な音をさせながら腰を揺らして、尋の興奮を煽るように何度もその頬と口元に吸い付いた。好き、抱いて、と囁くけれど、触れた陰茎の先から我慢汁をだらだら溢す彼はしかし、顰めっ面で拒否を示してくる。

「……尋」
「しない」

 キッパリそう言われて、はあ、と溜め息を吐いて肩を落とした。
 あわよくば尋の理性を飛ばして縺れ込みたかったのだけれど、これだけ頑なだと望み薄だろう。ずるりと自分の中から指を抜き、身体を起こしてティッシュ箱を探した。
 いつ求められても対応出来るように勝手に拡張を始めてしまったけれど、正直ソコが気持ちいいとは思えていない。中を蠢く違和感には早々に慣れ、けれどゲーム内で感じたような快感とは無縁だった。現実なんてこんなもんか、とは思いつつ、尋と繋がれるとなれば話は別だ。繋がることにこそ意味がある。気持ち良さなんてのは二の次だ。

「久斗くん」
「はい?」

 彼の上での自慰をやめた俺の手首を掴んで、尋が目を開けてじっと見つめてくる。揶揄うようでもなく、真面目な色をしたその目を見つめ返すと、尋は眉間に深い皺を寄せてその身体を起こした。

「君、全然気持ち良くなってないの?」
「……」

 だからなんだ、と思いつつ、もしかしてこれも彼を欺いたとカウントされるのか、と少し不安になった。

「嘘吐いたのか、とか言わないで下さいよ。ちょっと大袈裟にしただけで」
「大袈裟? ゲームでの君と同じような感じ方だったじゃない。……後ろ、弄っても気持ち良くないんだね?」

 確認するような言い方に、渋々頷いた。
 尋は何か考えるように視線を彷徨かせて、それから「俺が弄ってみてもいい?」と訊いてくる。

「そりゃ、大歓迎ですよ、俺は」

 指のついでに股間のソレも挿入してくれればもっと良い、と俺が指先でつつくと、尋は身体を起こして俺と上下を逆になった。ベッドに仰向けに寝そべった俺の脚の間に尋が入ってきて、大きく脚を開かされる。

「脚、自分で持っててね」

 膝を折った脚を両肩につけたやや苦しい格好にされて、しかも自分で抱えていろと指示されて眉間に皺が寄った。後ろの窄まった所が露わになって尋の目に晒されて、ヒクヒクと疼く。
 尋は俺にその恥ずかしい格好を強制したまま一旦ベッドを降り、そして戸棚からローションを持ってきた。いつも陰茎を擦り合わせる時に使っているのとは違うパッケージで、そんなのあったっけ、と首を傾げる。

「これね、アナルセックス用のだよ。普通のやつより粘度が高くて乾きにくいんだ」

 俺の視線に気付いた尋が説明してくれて、用意はしてくれていたのか、と少し安堵した。が、彼が揺らすそのボトルに、半分ほどしか入っていないのに気付いて胸に冷たいものが過ぎる。
 ──それ、誰と使ったやつ?
 咄嗟に口にしそうになって、けれど唇を噛んで飲み込んだ。せっかくやる気を出してくれそうなシチュエーションなんだ、野暮は言うまい。以前誰と使ったかなんて今の俺たちには関係無いし、そもそも尋が現実でもヤリチンであろう事は前から歴然だったことじゃないか。

「指、挿れるよ」

 胸の辺りが不穏にざわつく俺はしかし、表面上はなんともない顔が出来ているらしい。
 ベッドシーツをもう一枚持って戻ってきた尋は折ったままのそれを俺の尻の下に敷いてから、ローションをたっぷり纏わせてゆっくりと指を挿入してきた。
 俺が自分で拡張したソコはそれほど抵抗なく彼の指を根本まで飲み込み、そして同じくらいの時間をかけて抜かれていく。尋の説明した通り、彼の使うローションはいつも使うものよりどろりとした感触が強くて、柔らかい縁が引き攣れるような怖さは無かった。
 一本から二本、二本から三本へと指が増やされて、少しずつ圧迫感が増えていく。ほとんど音のしなかった抜き挿しするだけの行為から、段々と激しく、掻き回すような動きに変わっていく。

「……んっ」

 不意に、身体が跳ねた。
 薄靄の中に居るような行為の中に、急に鮮烈な快感が目覚めて困惑した。

「ここ?」

 探るような動きの指が俺の中の気持ち良くなれる所を叩いて確認してくる。とん、とん、とん、と軽く叩かれただけなのに、懐かしいその気持ち良さに前から精を吐いていた。びゅくっ、と勢いよく跳ね出て俺の腹を汚した白濁を見下ろして、尋は嬉しそうに笑う。

「すぐ見つかって良かった。ゲーム内だとプログラム的にどのアバターでも位置固定だから楽なんだけどね」

 久斗くんのイイ所はゲームより奥にあるんだね、なんて尋は言って、そしてまた指を動かし出した。

「……っ、待っ、今、もう」
「うん、でもまだ足りないでしょ?」

 当たり前みたいに首を傾げて、尋は容赦なく見つけたばかりの俺を狂わせる一点を突くように、ずぼずぼとさっきよりも激しい動きで穿ってくる。

「っ、~~……っ!」

 気持ちいい。すごく気持ちいい。ゲーム内でも脳味噌が蕩け出しそうなほどだと思っていたけれど、現実でも同じくらい、イイ。目を開けている筈なのに目の前が真っ白に瞬いて、目眩がしてるみたいにふわふわ揺れる。
 尋の指は絶対に狙いを外さずに俺の悦い所を突いてきて、一度の指の往復ごとに失神しては強烈な快感に起こされているみたいだ。ゲームと違うのは俺の肉が連続で出す事は無いというだけ。抉られる中はイきっぱなしで、大きく開けた口の端からはだらしなく涎が垂れている感覚がある。
 こんなに、気持ちいいのに。

「声、出しても大丈夫だよ?」

 尋がそう言って、優しく俺の太腿の裏を撫でてくる。
 彼の手管は的確で、繊細で、そして慣れきっていた。俺をこれだけ乱れさせて、けれど彼はいつも通り薄っすらと微笑んでいるだけで、その顔に別段の興奮の影は無い。
 尋の前では、こうなるのが当たり前なんだ。
 そう気付いて、イき続ける身体とは逆に心が冷えていく。これまで彼が抱いた、おそらくは俺なんかよりずっと美しい少年や青年たちも、そうだったように。だとすれば、彼の好みでない外見の俺がどれだけ乱れようと、心を乱してくれる筈もない。
 俺の肉茎から三度精を吐くまで、尋の責めは続いた。最後の方は膝を抱えている力も無くなり、だらりと脱力している俺の膝裏を尋が押さえて閉じないようにされていた。

「可愛かったよ」

 ひゅうひゅうと喉から空気の抜けるようなか細い呼吸を繰り返す俺の額に口付けて、尋は俺の上に乗ってきた。動く気力も湧かない俺の白濁が溜まった腹にその股間を押し付けて、擦り付けるように動く。唇を合わせて舌を絡めながら、尋はそうして俺の腹の上に出した。

「あは、これ、もうどっちのだか分かんないね」

 俺の腹の上の粘液を指で混ぜながら、尋が笑う。

「久斗くん?」
「……」
「ひーさーとーくーん?」
「……ん」
「……疲れちゃったかな。いいよ、そのまま寝て。片付けは俺がやるね」

 俺の髪を撫でた尋が、俺の身体を丁寧に拭いてから寝具を整えて、それから布団を掛けてきた。疲れて寝落ちたフリをして瞼を閉じる俺の耳に、部屋を出て汚れたシーツを抱えて階段を降りていく尋の足音が聞こえる。
 この世に、俺以外に、尋に抱かれた人が居る。俺には許されない行為を、してもらえた男たちが、おそらくは沢山。俺とは状況が違うと冷静に考えれば分かるのだけれど、耳鳴りのようにそんな痛い言葉が俺の中でわんわんと鳴いている。
 彼好みの美しい男たちですら捕まえておけなかった尋が俺を選んでいるのなんて、たまたまでしか無いんじゃないだろうか。今少し熱に浮かされているだけで、冷めたら俺なんて、初対面の時のようにすげなく切られてしまうんじゃないか。
 だって、言葉に熱が有り過ぎる。死んだ後に一緒に死ねるかだとか、正気で言える事じゃない。きっとたぶん、一時的に熱が上がっているだけなんだ。
 今の今までそれに気付かなかっただなんて、だいぶ俺も彼の熱に当てられていたようだ。
 左手の薬指に嵌った指輪を親指で撫でて、緩く溜め息を吐く。一生だとか生き死にだとか、言葉が強過ぎたのは、高熱の見せる夢の中だからなんだろう。
 彼に合わせて熱に踊っちゃいけない。
 戒めるように唇を噛んで、初めて知った恋の苦さにもう一度溜め息を吐いた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私の愛する人は、私ではない人を愛しています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21,229pt お気に入り:6,690

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7,392pt お気に入り:5,777

浮気の認識の違いが結婚式当日に判明しました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:717pt お気に入り:1,225

フィメールの日

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

熱い吐息

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:23

【完結】生き残りたい俺は死者と語る。

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:450

処理中です...