後深山

句 好奇

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後深山

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  「僕自身、未だに変わらない状況の歩美を見て、どうにかしてあげたいと思うのですが、このままでは何も変わらないので、一度誰かに話して整理したいと考えて、この話を聞いてほしいと思いました」

葉書を送ってきたのは27歳の男性だ。
彼は1年前の出来事を私に話したいらしい。

私自身、小説家という立場上そういう話には目がないが、ホラー作家というだけでなぜ私なのか。これも巡り合わせというものか。
と思いこの話を書くに至ったわけである。
これからはその男性の話だ。



 「今日は風がつよいな」
まさにドンヨリという表現がぴったりな曇り空の1月中旬のある日、僕と武藤歩美は環境省からの依頼で山梨の田舎にある後深山に来ている。
この山は〝ごしんさん″と読むのが正解だが、近年はゴミの量があまりにも増えているため〝ゴミヤマ″と呼ばれている。
その後深山は最近異臭がするらしく、今回調査依頼がきたというわけである。
「仕事とはいえ、久しぶりの2人で旅行ね」
確かにそうだ。武藤歩美とは付き合って今年で2年目になるが、職場には隠しているため休みを合わせるのが難しい。我々2人の関係を知っている上司が気を遣って今回の調査を任せてくれたので、久しぶりに2人きりで旅行に近いものになったというわけだ。
「仕事自体は今日の夕方には終わるんでしょ? 明日は少し寄り道して帰りましょ」
「あぁ。 とりあえず昼飯食べて18時には終わらせよう」
今回はうちの会社の社長の知り合いの旅館に泊まれることになり、昼食を終えたあと旅館にわがままを言って、12時にチェックインさせてもらえることになった。

 12時34分。時計を確認した時には曇り空からパラパラ小さな雨が降っていた。
「うわ! 最悪だよ! 泥だらけになるねこれ」
僕と同じ上下黄緑色の作業着姿の歩美は、普段の困り眉を顔の中心に寄せて嘆いていた。
これ以上雨が強くなる前に仕事を片付けたかったのと、ここに長くいると歩美の機嫌が悪くなるかもしれないので、山に入ることにした。
「そういえば旅館の女将さんが言ってたんだけど忌み地って知ってる?」
「え、あぁ忌み地はわかるよ。どうかしたの?」
「なんかそれのような場所って昔は言われてたらしいよ後深山」
「ふぅん。今ではゴミ山か……なんか悲しいな」
山に入って3分も経たないうちに冷たい空気から生暖かいヌメッとした空気に変わったのに気付いた。
「これ雨強くなるかもしれないから急ごう」
歩美を急かして山の中へドンドン入っていく。
今回の調査はゴミの捨てられている範囲とゴミの大きさだ。ゴミの大きさはあくまで冷蔵庫、タイヤなど大きいものからプラスチックの袋など様々ある。
ただ範囲に関しては山を歩かなければわからないので少し時間がかかる。
幸いにも、この後深山は半日あれば登頂して、帰ってこれるくらいの大きさだ。
周りを歩いても、それほどかからないだろう。
「ゴミがあるのここまでじゃない? そんなに上の方には捨てられてないみたいね」
歩美はそういうと上に向けていた足を右側に向けてそのまま奥へと歩いていく。
 ……ゔぅぅぅ……
「何かの音……唸り声?」
歩美が顔だけこっちに向けて聞いてくる。
確かに唸り声みたいな声だ。
「まさか人なんていないだろ」
と言うと、そうねとだけ言ってまた歩美は足を進めていった。
その直後歩美が急に足を止めて何か僕を呼んだ。
「どうしたの?」
と聞くと何も言わずに指を差した。その先を見ると小さな滝のような水が垂れている場所があり、その真裏に人がしゃがめば入れるくらいの小さな洞窟があった。
「なにあそこ! すごい綺麗じゃない? 写真撮りに行きたい!」
と言うとその滝のようなものに向かって少し早歩きで向かってしまった。仕方なく僕も後ろを追うとその小さな洞窟の中から
……ゔぅぅぅ……
とまた唸り声が聞こえた。
「ねぇあの洞窟少しだけ覗かない?」
基本面倒くさがりなのにこういう時だけ何故か好奇心旺盛になる歩美が僕に言う。
「えぇ……やめようよ早く帰って温泉行こうよ」
「お願い! 少しだけ! 写真撮りたいのよ」
いつもこういう時は僕が負ける。まぁこの負けることがカップルとして長続きする理由だと思っている。
持っていたライトを照らし洞窟の中を覗くと、
ザザザサ……
と、虫のような小さなもの達の集まりが一斉に動くのが見えた。
餌を前にした犬のようにグイグイと洞窟に入っていく歩美に、少し呆れながら付いていくと、少し天井が高くなる場所に着いた。
そこには大量の蝙蝠がいるように見えたので流石にこれ以上進むのは危険だなと思い歩美に戻ろうと伝えた。
そうね。と素直に聞き入れた歩美と洞窟を出ようと振り返った時後ろから、またゔぅぅぅ……と唸り声が聞こえた。
ただ予想より近くに聞こえたので後ろを振り向くのが恐ろしくなり少しだけ急ぎながら出口を目指した。

僕が先に洞窟を出て次に歩美が洞窟を出る。そのあとをライトで照らすと
ヒタッヒタッ……と明らかに裸足の人間が濡れている地面を歩く音が聞こえた。このような時はすぐに逃げなければならないのは分かっている。ただそこから目線を逸らせない。そこの場所から立ち去れない。
ヒタッヒタッ……の音が近づいてくる。ライトで床を照らすと足跡のようなものが微かにみえる。
だがそこには何もいない……いや、いないんじゃない! 視えないだけだ!
そう思った瞬間に僕は歩美を連れて急いでその洞窟の入り口から離れた。
少し走りづらい泥濘んだ道を通って林の中まで進んでふと空を見ると夜空になっていた。まだ3時間も経ってないつもりだったが左手首を見ると時計は22時を示していた。

その時木陰から嫌な視線を感じ振り向くと人のような人じゃないものがこっちを向いているように見えた。
目を凝らすとそれは高さ170cmほどで托鉢をしている修行僧のような格好をしていた。右手には錫杖を持ちおよそ目があるであろう高さから二つの白く丸いものがこちらを見ていた。なぜかそれを見つけた時僕と歩美は全く体が動かなくなり逸らしたくても視線をそこから外せなかった。
何秒間そのままいたかわからない。その瞬間その修行僧のようなものがいきなり錫杖を地面に叩きつけシャンッ大きな音を鳴らした。
その瞬間僕の体は自由になった。右側にいる歩美を見ると歩美が歩美ではなくなっていた。
いや歩美であることに変わりはない。ただ目が真っ赤に充血しておよそ黒目と呼べるところ以外は真っ赤になっていた。繋いでいる右手からは絶えず振動が感じられ空いたまま動かない口から「ボボボボ……」と音が出続けていた。
歩美!と声をかけてもボボボボ……が止まる気配はない。
視線を戻すとその修行僧のようなものは消えていた。

急いで下山し救急車を呼んだ。
後深山まであと5分程で着くと言われ時計を確認すると18時27分だった。
ボボボボ……と言い続ける歩美の肩を抱きながら山を後にするとふと後ろからゔぅぅぅ…と聞こえたような気がした。


なぜかその後の葉書の文がだんだん読めなくなっていた。何かを書いてはある。ただ日本語というよりかは線をたくさん引いたというような謎の言葉のようなものが続いてるだけである。
ただ、1番最後の言葉がボボ……であることだけは分かった。
私はこれ以上踏み入れてはいけないと思いここまでを書いた次第である。ただこの話を誰かにしてはははあいけけせないまはほぼぼぼ……
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