新世界より〜前世の知識を生かして歴代最高の音楽家になる〜

pino

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序曲

1.序曲

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春の陽気に包まれながら一人の男が息を引き取った。
 
音無拓人おとなしたくと、34歳。
その男の半生は音楽とともにあった。

5の歳でピアノを始め、その魅力に引き込まれた。
それから朝から晩まで狂ったようにピアノを弾き続け、小学生にして国内のコンクールで賞を総なめした。

それからメディアでも取り上げられ一時期有名人にもなった。
誰もが男のピアニストとしての将来を期待し、日本人初のショパンコンクール優勝という言葉が飛び交った。

しかし、男はピアノを続けなかった。
中学生になりピアノではなくヴァイオリンを始めたのだ。
世間は彼のその行動に落胆し、彼を責めるものもいた。

だが、そんな世間を黙らせる出来事があった。

男はヴァイオリンでも結果を残したのだ。
彼にとってピアノを辞めたのはピアノが嫌になったからではなかった。
ただ、彼はヴァイオリンという新たな魅力に惹かれてしまったのだ。

そしてまたもや、ヴァイオリンをやめ、今度はホルンやサックス、フルートなどの管楽器を始め、結果を残し続けた。
世間も彼を認め、その才能に畏敬の念を抱くようになった。
数々の楽器を演奏し、結果を残し続ける彼に誰もが彼は音楽だったら何でもできるという用に思うようになった。

そして、男はついに楽器を手放し、一つの棒を手に取った。
指揮者である。
5歳でピアノを始め、それからヴァイオリン、ホルンなど全てで結果を残した彼の指揮者への挑戦に誰もが注目し、その姿を見守っていた。

しかし、そんな彼の挑戦は思わぬ形で終わりを告げる。


⚫◯⚫◯

某月某日、拓人は今日も指揮の練習をしていた。
指揮は楽器を演奏することとは全く違うものだったが、それでもこれまでに培ってきた音楽へのセンスですでに形になってきていた。

練習を終えたのは日が沈み始めた頃である。
朝の7時頃に練習を始め、1時に休憩を取ってからずっと練習していた。
いつものことながら彼の行動は狂っていると言わざる負えない。

「もうこんな時間か。夜はどこかに食べに行こうかな」
それより先に風呂か…と思い、拓人は風呂に入りながら何を食べるか考えていた。

風呂から上がり、テレビをつけるとお好み焼きを食べ、「美味し~」などと言っている若手俳優が映っていた。
その姿を見て、無性にお好み焼きを食べたくなった拓人はコートを着て、近くのお好み焼き屋に歩いていくことにした。

(コート着てきてよかった)

外は少し肌寒く、吐く息は白かった。

(早くお好み焼き食べたいなあ)

豚玉に山芋、もちチーズもいいな…と考えながらお好み焼き屋に向かっていた。

すると、前からフードを深く被った黒ずくめの男が歩いてきているのが拓人の目に入ってきた。
遠目から見ても明らかに怪しい男がこちらに向かって歩いてきているのを見た拓人は距離を取ろうと思い道路の反対端の方へ移動した。

件のお好み焼き屋は隠れ家的な店で、人通りの少ない場所だったためその男の他に人はいなかった。

拓人はその男の横を目を合わさないように早足で通り過ぎた。
その時、突然黒ずくめの男が拓人の方に向かって走ってきた。

「!?」

拓人はすぐに逃げようとしたが、男はすぐそこまで来ていた。

(やばいっ)

黒ずくめの男の手には、包丁が握られており、明らかに拓人に殺意を向けていた。
拓人はこのままでは追いつかれると思い、持っていた理想と現実をコンセプトにしたブランドのショルダーバッグを男の顔に向けて投げつける。

結構高いやつだったのに…と思いつつも追いつかれるわけにはいけないという状況。
ショルダーバックを犠牲にした効果もあり、男との間に差ができた拓人はそのまま人通りの多い道に抜けようとした。

(よしっ!ここまで来たらもう追ってこないだろう)

大通りまで走ってきた拓人は強張った表情を溶かし、交番へと向かうことにした。
お好み焼きを食べに行く予定だったのになんで交番なんかに…
そう思いながら交番へと向かっていると、後ろから悲鳴が聞こえた。
振り返った拓人の顔は絶望に染まる。

「は…嘘だろ‥…」

拓人の目には先程自分を殺そうとした黒ずくめの男が目の前にいた。
そして次の瞬間、拓人の腹部は赤く血で染まっていた。

「いっ……はぁ…はぁ‥…何‥なんだよ」

黒ずくめの男は拓人の腹部から包丁を抜き、胸へと再び突き刺す。

「うぐっ…何…なんだよ……お前‥誰だよ」

いきなり追いかけられ、襲われたことで怒りを感じた拓人は黒ずくめの男に問いかける。
すると、男は憎悪を帯びた目で拓人をにらみながら答える。

「中学の頃、同じ吹部のメンバーだった吉田だよ。最後のコンクールだったのに1年のお前のせいで俺がメンバーから外されたんだよ。それなのにお前は‥…」

知ら…ねぇ‥…よ、誰…だよ…
そう思いながら、拓人の意識は遠のいていった。
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