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人生の敗北者
しおりを挟む夜が明けて、太陽が登り出した。
男のセンスが微塵も無いスマホのアラームが、部屋中に響き渡る。
私は、眠くもならないし、お腹も空かない、退屈な夜をこんな冴えない男と過ごすハメになったのだ。
何としてでも、文句の一つぐらい言いたいものです。
「えぇい! 起きぬか、一般庶民! うるさくて機嫌が悪くなってしまいますわ!」
寝ぼけた顔で飛び起きた男は、まだ現状を理解出来ていないらしい。
「ヤバい、幻覚と幻聴がまだ治ってないな…… 病院に行く準備をしようかな」
(ちがーう!幻覚じゃなーい!信じてよ!)
寝癖を戻さないまま、男は外へ外出した。
一人になってしまった。
いや、私は最初から一人だ。
転生前は、あの男と似たような女だったし、現実から逃げていた。
芋臭い私は、仕事が出来ず先輩や後輩から笑われて、二十八歳にも関わらず男性経験もない、地味な女と自覚もしている。
そんな現状から逃げる為に、私はこの乙女ゲームにどっぷりと沼に落ちていく。
所謂、人生の『敗北者』というやつだ。
転生を果たして、華やかな人生を送れると思ったのに現実は残酷なものですね。
私の好きなゲームの世界なんだから、それぐらい知ってるわよ! 『悪役令嬢』になってしまうなんて。
起こる破滅フラグなんて全部知ってるし、それらを回避するなんて簡単だと思ってました。
それが、慢心だったのです。
私は、このゲームのエンディングを知らないから。
そのせいなのか、破滅フラグを回避すればするほどに、事態は悪くなる一方で私は処刑されてしまいました。
死んだかと思えば、現実に帰り、そして幽霊になってしまうなんて、仕打ちが酷すぎる。
私は自分の姿が鏡に映るのか気になって洗面台のミラーに身体を寄せた。
「何これ!? 公爵令嬢メリッサのままじゃない!」
◆
「躁鬱…… かぁ 明日会社に報告しなきゃなぁ」
どうやら、本当に精神病らしい。
男は、家に帰るなりベッドへ転がりまた一人言を呟いていた。
「いい加減わたくしを無視するのはやめない!」
ビクッと反応する男はゆっくりと、私に目を合わせる。
「やっぱり、幻覚じゃないよな…… 昨日から無視して悪かった!」
「現実を見なさい! なんでわたくしから、この無礼者に声を掛けてやらねばならないのよ 人とお話しすることも出来ないのかしら?」
「悪かったなコミュ障で! そもそも、ここは俺の家だ 用が済んだら帰ってくれ!」
「帰れないのよ! 物は持てないし、外にも出られない」
「ははは! 地縛霊みたいだな!」
「殺しますわよ下衆のくせに」
「そんな可愛い顔して殺すとか言うなよ…… 興奮しちゃうだろ?」
「はぁ、変態だったとは知りませんでしたわ……」
この男の名は 貴崎 小次郎(きさき こじろう)
私は、この男から確信を突かれてしまう。
「転生に失敗したんだろ? 栗山さん」
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