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第三章

129「姫路ミズホの疑問②」

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「俺もわかりませんが、でも、もし誰かが『意図的』にそうしたとしたら怖いな~とは思いますけどね⋯⋯」
「意図的?」
「はい。『自分たちに都合が良いように⋯⋯』という理由で人々を⋯⋯例えば『洗脳』するとか⋯⋯」
「え? 洗脳? そうか! それは⋯⋯あるかも!」
「え? そうなんですか?(すっとぼけ)」
「うん。洗脳は昔からよく使われているよ。『プロパガンダ』ってやつとか『サブリミナル効果』とか⋯⋯。まーサブリミナル効果は洗脳とはちょっと違うかもだけど⋯⋯。でも、人類のこれまでの歴史ではよく使われているし、むしろ、今でも使われている! そうか~、洗脳か~⋯⋯」

 ミズホ先輩は何やら得心がいったようだ。

「でも、もし、『洗脳』していたとしたら一体どうやって⋯⋯⋯⋯あ、メディアか! あとSNSも⋯⋯!」
「⋯⋯⋯⋯」

 すごい。あれだけのヒントでそこまでどんどん賢者ワイズマンの話に近づいている。

「そうなると、そんな大規模な洗脳を可能とする連中は⋯⋯『おぼろ』ってこと? それとも他にも別の組織が存在するのかしら? いえ、待って! 確か『オカルト板』で『世界統一主義者グローバリスト』っていう組織というか、共同体というか、国境を持たないレベルの富裕層や権力者層がいるって言ってた!」
世界統一主義者グローバリスト?」
「うん! あくまでオカルト板の⋯⋯陰謀論の話でよく出てくるやつよ。ただ、本当にそんなものが存在するのかどうかっていうレベルの『眉唾な組織』だけどね」
「ミズホ先輩はどう思っているんですか?」
「私は半々。信じたくないけどありえそう⋯⋯て感じ。だって、これまでの人類の歴史の裏には暗躍していた組織はいっぱいいたしね。だから、その『現代版』が『世界統一主義者グローバリスト』ってのは正直めちゃめちゃありそうじゃない?」
「⋯⋯まーそうですね」
「でも、もしそんな組織が本当にいるとしたら、もはや私たち一般人じゃどうすることもできないじゃない!」
「そうでしょうか」
「え⋯⋯?」
「もし、仮に、そんな組織がいたとして、その場合⋯⋯俺がいた世界なら『一般人じゃどうすることもできない』っていうのは成立しますが、この世界はそうだとは思いません。⋯⋯⋯⋯だって、この世界には魔法やスキルがあって、それを使いこなせる一般人がいるじゃないですか」
「! ソラ君⋯⋯」

 俺は元々、社会になじめずドロップアウトしてニートになった。

 優しかった両親に甘えた俺は、その後仕事もせずに部屋に閉じこもっていた。そんな時、ネットで『陰謀論』にハマった。

 もちろん、『陰謀論』にはオカルトチックで作り話のような話もいっぱいあったが、逆に「これ本当にありそう⋯⋯」と思わせるような、『根拠ソース』付きの話もあった。

 そんな話の中には、俺のいた地球でも『世界統一主義者グローバリスト』みたいな存在がいるという話もあった。


「この世界は、一握りの富裕層の連中が社会を操作して自分たちの都合の良い世界を作っている」


 この話を聞いたとき、もしそれが本当なら「俺たちただのパンピーじゃどうしようもねーじゃん!」と思った。だって、喧嘩が強いわけでもないし、権力や組織を持っているわけでもないんだから。

「もし、特別な力⋯⋯超能力とか魔法とか使えたら、俺たちパンピーでもワンチャン何かできそうな気がするけどな⋯⋯」

 という話を、そのままミズホ先輩に話した。

「ソ、ソラ君⋯⋯」
「まー、そんな組織がいるかどうかもわからないですが、もしいたとしたら、今の自分なら戦います。だって、俺は魔法もスキルも使えるんですから」
「で、でも、そういう連中なら、絶対に『用心棒』みたいな強い人たちに⋯⋯⋯⋯ううん、下手したら軍隊レベルで守っている連中がいるかもしれないよ!」
「そうですね。でも、それでも、魔法とかスキルのない自分よりは可能性はあると思いますから⋯⋯やっぱり戦うと思います」
「⋯⋯!」


********************


「そっかー。すごいな、ソラ君は~。よしよし」
「! い、いえ、そんな⋯⋯」

 ミズホ先輩がそう言って、俺の頭をナデナデした。⋯⋯き、気持ちいい~。

「ありがとう。ソラ君の話を聞いて色々と考えさせられたよ」
「こちらこそ」
「ソラ君は、明日からは単独探索者ソロ・シーカーとして動くんだって?」
「はい」
「そっかー。やっぱり強くなるために?」
「はい」
「それは、さっきの話と関係している?」
「⋯⋯はい」
「⋯⋯そっか」
「!」

 そう言うと、ミズホ先輩の表情が少し曇った⋯⋯ように見えた。

「⋯⋯うん! 私も色々と頑張ってみようかな!」
「! ミズホ先輩?」
「さあ、休憩は終わりだよ、ソラ君! 恩寵ギフトの話はまた今度聞かせてね!」
「えっ?! あ、はいっ!!」

 そう言って、ミズホ先輩が俺の手を引いた。

 最初より、随分明るくなったミズホ先輩。最初は『不思議少女』の印象が強かったが⋯⋯今は少し頼もしく、すごく魅力的な女性に感じた。
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