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第一章 幼少編
012「バレました」
しおりを挟む「な、なによ⋯⋯いま⋯⋯の⋯⋯」
「っ?!」
声の方に振り向くと、そこには口を大きくあんぐりとさせたレコが小刻みに震えながら立ち尽くしていた。
「あ、レコ⋯⋯先生?」
「あ、ああ、あんた⋯⋯今の⋯⋯Bランク指定の魔獣ダーク・ケルベロスよね? しかも今の魔法の威力は何? あ、あんた、もしかして上級魔法も習得していたの?!」
レコが何やら混乱しているようだ。
まあ、無理もない。魔法が使えないと思っていた俺が魔法を使って魔獣を倒したのだから。しかし、中級魔法を上級魔法と勘違いするなんてよほど、混乱していると見える。
まあ、すでに俺が魔法が使えるのを目の前で見てしまったのだ。混乱するのも無理はない。とりあえず、しっかりと事の経緯を説明しよう。
「いや、レコ先生⋯⋯何か勘違いをしているようですけど、僕が今、使ったのは中級魔法の氷結爆砕ですよ? それにBランクとはいえダーク・ケルベロスであれば氷属性に弱いのは勉強していましたから倒すのはそんなに難しくなかったですよ? なので、上級魔法士のレコ先生がそこまで驚かれるようなことは何もないかと⋯⋯」
「もう、いろいろツッコミどころありすぎて言葉と理解が追いつかないわーーっ!!!!!」
なんか、すんごい怒られた。
*********************
「はーーーーーーーーーーーーーー」
一度、レコが大きく深いため息を吐く。
「よし! 心の準備はできたわ! それじゃあ説明しなさい、カイト・シュタイナー!」
「⋯⋯は、はあ」
あと、なんかよくわからんが、俺は正座をさせられている。
そんなわけで、俺はとりあえず、レコの指示通り話を始めた。
「えー、まず、俺が使った魔法は中級魔法で⋯⋯」
「はい、ストップー。その話はだいぶ後の話だから。まずは、なんであんたが魔法を使えるようになったのかを教えなさい」
「え? そこから?」
「当たり前でしょっ! 五歳の子供が魔法を習得している事自体、あり得ないんだから!」
「あーそっか。まあ、そうですよね。では、魔法をどうやって習得したかですが、それは⋯⋯⋯⋯父の書斎にあった魔法書を見つけて、それを読んで魔法を発動させたら習得できました」
「はい、ストップ、ストーーーーップ! その前にあんた説明することがあるでしょ? 魔力は? 魔力はどうやってコントロールできたのよ!」
「え? あ、ああ⋯⋯それは、なんとなく体の中に魔力を感じ取れたので、それを体中に循環させて、次にその循環スピードをさらに加速・減速と繰り返して魔力の調整が一通りできるようになったので、それから魔法書を読んで発動させて魔法を習得しました」
「え? ちょ、ちょっと待って!? ま、魔力を⋯⋯⋯⋯循環?」
「? はい。え、だって⋯⋯体内で魔力の循環スピードを上げ下げすれば魔法の威力もコントロールできるじゃないですか?」
「え?」
「え?」
どうやら、この時点で俺とレコに大きな齟齬があるようだ。
「魔力を体内で循環させるなんて⋯⋯き、聞いた事ないわ。それに魔力の循環スピードを上げ下げしたら魔法の威力が変わるなんて話も⋯⋯。そ、そもそも、体内で魔力の存在を認識する事自体、かなり難しいものなのに魔力を体内で循環させるなんて⋯⋯。そんなの余程はっきりと魔力の存在を捉えないとできることじゃないわっ!」
「え? 魔法書には魔力をコントロールしないと魔法が使えないとあったので、とりあえず自分でいろいろ試してこのやり方に辿り着いたんだけど⋯⋯⋯⋯違うの?」
「違うわよ! 違いすぎるわよ、バカっ!」
レコによると、通常、魔力をコントロールするというのはあくまで体内にある魔力の存在を認識することをいうらしい。で、その魔力の存在を認識するのには個人差があるらしく、センスのある者であれば魔力の存在をある程度はっきりと認識できるようになるとのことだった。
そして、この魔力の認識がどれだけはっきりできているか否かで魔法の威力が変わってくるので、この魔力認識がどれだけできているかどうかがとても重要だそうだ。
ただ、その魔力をしっかり認識できた者でさえも、俺がやったように体内で魔力を循環させるなんて芸当は無理らしい。理由は体内で魔力を自在に動かせるほど魔力を認識できていないからだ。
この話を聞いた時、俺はふと気になったことを思い出したのでレコに質問してみた。
「はい、レコ先生!」
「っ!?⋯⋯な、なによ」
「さっき、自分がダーク・ケルベロスを⋯⋯」
「ちょっと待って!」
「え?」
「魔力コントロールの話はとりあえずわかった。理解は追いついていないけどとりあえず置いておく。なんせ、ツッコミどころが多すぎるから! で、とりあえず今度はダーク・ケルベロスの話だけど⋯⋯なんであんた、Bランク魔獣のダーク・ケルベロスをあれだけいとも簡単に倒せたのよっ?! しかも、なんか楽しそうに倒していたし! なによ、あれはっ! ていうか、なんでこんな森の浅い場所であんなBランク魔獣が現れてんのよ! もういろいろ意味わかんないわよ、バカーーーーっ!!!!!!」
おっと。
またレコの中で少し混乱が生じ始めたようだな。ていうか、レコは初めから俺の戦闘を見ていたのか。道理で戦闘中、誰かに見られているような感覚があっただが、それは、そういうことだったのか。
レコの気配を「何となく⋯⋯」くらいにしか察知できなかったってことは、それだけレコが気配を消すのが上手い⋯⋯優秀ってことか。まあ、今はそんな話関係ないが。
「え、えーと⋯⋯まず順を追って話をしましょう。まず、何から聞きたいですか?」
「まず⋯⋯⋯⋯どうしてあのBランク魔獣のダーク・ケルベロスに対してあれだけ圧倒できたのよ!」
「え? それは身体強化を使ったからですけど⋯⋯」
「いやいやいや。普通いくら身体強化を使ったとしてもあのダーク・ケルベロス相手にあそこまで圧倒できないわよ!」
「え? そうなの?」
「身体強化は確かに自分の身体能力全般を底上げする魔法だけどあれはしょせん初級魔法なのよ! 自分の身体能力のよくて⋯⋯二~三倍程度しか引き上げられないわ! だから、その程度の効果しかない身体強化を、あなたのその五歳の体で使用したところでせいぜい大人の少し力持ち程度にしか腕力は底上げされないし、同じように敏捷性や動体視力なんかもその程度にしか底上げされないはずなの! でも、あんたの戦いを見てたら身体強化の効果は二~三倍どころじゃなかった。あれはどういうことなのっ!」
「どう⋯⋯て言われても、ぼ、僕も何がなんだか⋯⋯」
つまり、レコの言っていることを要約すると⋯⋯⋯⋯『身体強化の効果がレコが知っている通常の効果よりもかなり高い』ということか。しかし、なぜ?
「! も、もしかして⋯⋯。ううん、間違いないわ」
「え? なに?」
「あなたの魔法の効果が通常のそれよりも著しく高いのは、おそらく⋯⋯⋯⋯独自の魔力コントロールが原因ね」
「あ!」
「魔力はただでさえ体内でその存在をはっきりと認識することさえも容易じゃないわ。でも、あなたはその魔力を認識するだけじゃなく、体内で循環もさせている。それが通常の魔法効果よりも高い効果を生み出しているんだと思うわ。実際、その魔力の循環スピードの強弱で魔法の威力が変わるって⋯⋯あんた自分で言ってたじゃない?」
「た、確かに⋯⋯」
「どうやら間違いないようね」
「そうか。だから、最後ダーク・ケルベロスに放った中級魔法の氷結爆砕が想像以上に威力が高かったのか」
「え? あ、あれ⋯⋯本当に中級魔法の氷結爆砕だったの? 私には上級魔法の氷魔法だとてっきり⋯⋯。そう、あなたの魔力コントロールを持ってすれば中級魔法の氷結爆砕もあれだけの威力を出せるってわけね」
(カイト・シュタイナー。私よりも遥か先を行く、本物の⋯⋯⋯⋯規格外の天才)
「え? 何か言った?」
「っ?! べ、別に何も言ってないわよ! それよりも私を『先生』と呼ぶのはもうやめなさい。今のあんたに『先生』呼ばわりされても、逆に馬鹿にされてるみたいだもの。レ、レコでいいわ!」
「え? いいの?」
「いいったらいいの!」
「わ、わかったよ⋯⋯⋯⋯レコ」
「よ、よしっ!」
理由はわからないが、とりあえずレコの機嫌が直ったようだ。
ん?
あ、あれ?
な、なんだろう?
すこし、レコの頬が赤みを帯びているような⋯⋯?
ま、まさか!?
これが俗にいう⋯⋯異世界ハーレムならではの⋯⋯、
ヒロインフラグというやつなのではっ?!
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