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第一章 幼少編
018「十歳になりました/第一章 幼少編(完)」
しおりを挟む秘密会議が終わった次の日——俺は早速ベクターとジェーンに剣術・武闘術・魔法を学ぶこととなった。
「よし! では早速、剣術から始めよう。剣術が終わったら武闘術⋯⋯と交互に且つ、同時進行に教えていくからな!」
「はい!」
「あと、カイトは魔力が豊富だから身体強化を利用して訓練に臨みなさい。そうすれば、剣術・武闘術の訓練をしながら魔力コントロールの訓練にもなる」
「わかりました」
「うむ。では、始めよう」
こうして、俺は身体強化を使用した剣術・武闘術の訓練を開始した⋯⋯⋯⋯のだが、実は朝の特訓前に二時間ほど早起きして身体強化を使わない⋯⋯いわゆる生身の状態で独自訓練をしていた。
理由はもちろん⋯⋯『異世界に転生したらやりたいことリスト』を騎士学園に入ったらどんどん達成していきたいからだ。
それには、この五年間で完璧な『異世界チート転生者』としての実力を身につける必要がある。その為には魔法だけに頼るのではなく、肉体部分も鍛え、物理・魔法ともに隙のない体に仕上げるのだ。
「ふ⋯⋯腕が鳴るぜ。完璧な異世界チート転生者に⋯⋯⋯⋯俺はなるっ!!!」
俺は十歳までのこの五年間の特訓期間を『最重要』と捉え、できる限りの⋯⋯後悔のない努力をする覚悟と決意を持って全集中で臨んだ。
*********************
——五年後(現在)
「十歳⋯⋯とうとう騎士学園へ通う日がやってきたか」
俺はこの五年間にできるだけの努力を重ね、そして、貪欲に強さを求めた。
「カイト⋯⋯」
「カイトちゃん⋯⋯」
「父上! 母上!」
「そ、その⋯⋯なんだ⋯⋯すまなかったな」
「ええ⋯⋯本当に。あまり役に立たなくて⋯⋯ごめんね」
「ど、どうしたんですか、二人ともっ!?」
「いや、ほら五年前⋯⋯私とジェーンが鍛えてやると言っておきながら結局、半年足らずでお前は私たちを軽々と超えてしまい、何も教えられなくなってしまったではないか」
そう。俺は五歳から始まった二人との特訓からわずか半年足らずでベクターとジェーンを超えてしまったのだ。
当時、完全に超えられたことを実感した二人のショックは計り知れず、一週間ほど寝込んでいたのを覚えている。
「そうね⋯⋯。最初、カイトちゃんの力はすごいって言っときながら、心の奥では『でも、まだまだね』くらいに思っていた当時の自分を思い出すと⋯⋯軽く、恥ずか死ねるわね」
そう言って、二人は当時のことを遠い目をしながら思い出していた。
「で、ですが! やはり、本だけの知識しか知らなかった僕にとっては父上と母上の実戦と経験を通しての訓練はとても有意義でしたし、その後の独自訓練に活かされました」
俺は全力で二人をフォローする。実際、二人の実績と経験を交えた特訓はその後の独自訓練に活かされたのは事実だ。
「ありがとね、カイトちゃん。で、その後よね。カイトちゃんが森へ入って独自訓練をするようになったのは⋯⋯」
「うむ。ちょうどカイトが魔法を使えることが判明したときに倒した魔獣がBランクのダーク・ケルベロスだったということで、領内の森の浅い所にBランクの魔獣がいるのはおかしいから単独で調査をしたいと言ったのがきっかけだったな」
「ええ。特訓も兼ねて一人で原因調査に行ってね、Bランク魔獣が巣食っていた場所をみつけてね、そして一人でそのBランク魔獣の群れを討伐したのだったわね。ふふ⋯⋯一人で。Bランク魔獣の群れを⋯⋯一人で。五歳の子供が⋯⋯一人で。懐かしいわ~⋯⋯懐かしさと同時に当時のカイトちゃんに完全に力と才能の差を見せつけられて枕を濡らしたわ~」
「うむ。濡らしたな~」
二人がまた昔を思い出してへこみ始めた⋯⋯⋯⋯その時、
「お兄様っ!」
「お、アシュリー⋯⋯おおっと!」
すると、今年七歳になる我が妹⋯⋯めちゃくちゃかわいい我が妹⋯⋯母ジェーンと同じ透き通る青色の長い髪を揺らす世界一かわいい我が妹、アシュリー・シュタイナーが俺の胸にモーレツに飛び込んできた。
「こ、こら、アシュリー! そんな脇目も降らずに飛び込むんじゃない!? ケガしたらどうするんだっ!」
「ケガなんてするはずがないじゃないですか。だってお兄様が受け止めるんですから。そうでしょ? 私にケガなんてさせたら⋯⋯万死に値するんでしょ? 二年前⋯⋯私が五歳の頃に近所の子供達にいじめられそうになったとき、そう仰っていじめっ子たちを必要以上に脅して助けてくれたじゃないですか?」
「わーーーーっ!!!! こ、こら、アシュリー!? それは父上と母上には秘密⋯⋯」
「二年前? 脅し? 何の話だ、カイト?」
「あらあらカイトちゃん? お母さん⋯⋯⋯⋯その話聞いてないわよ?」
「あ⋯⋯父上、母上」
ヒク⋯⋯。
「えへっ!(テヘペロ)」
妹のアシュリーは、もしかしたら俺以上に良い性格をしているのかもしれない。俺にとって『世界一かわいい妹』だけに将来のことを考えると末恐ろしい。
だって、世界一かわいい妹なんだよ? そんな妹にお願い事されたら絶対に断れないじゃん? だって世界一かわいいんだよ? 当然だよね?
*********************
「お兄様! わたくし来年は絶対に騎士学園に『飛び級』で進学できるよう頑張ります!」
「ふふ、アシュリー⋯⋯いいんだよ、そんな無理しなくても。別に飛び級なんてしないで、他の同い年の子たちと一緒に十歳になってから入学すれば⋯⋯」
「いいえ! 私は絶対にお兄様と一緒にすぐにでも騎士学園に通いたいのです! うう⋯⋯騎士学園への飛び級制度が八歳からだなんて⋯⋯。七歳からだったらお兄様と今年一緒に騎士学園に入学できたのにぃぃぃ~~!!!」
そう言って、アシュリーは心底悔しそうに地団駄を踏み散らかす。
「アシュリー⋯⋯」
は~⋯⋯なんて、兄想いの妹なんだ。
前世で俺は妹に『同じ家族だと思っていない』なんて言われるほど嫌われていた。まあ、妹にそんな風に思わせるだけの人生を送っていたので仕方ないのだが⋯⋯。
それもあってか、異世界で俺の妹として生まれてきたアシュリーには『誇れる兄』『自慢の兄』として少しでもカッコつけたいと思っている。
その為にも、騎士学園に入学したら『異世界に転生したらやりたいことリスト』を一つ一つ実現させていく所存である。
「カイト⋯⋯」
「? はい。なんでしょう、父上⋯⋯」
「以前⋯⋯カイトが五歳の頃、私はお前に騎士学園に入学したら力を大いに奮って騎士学園の生徒をまとめて欲しいと言ったが、あれな⋯⋯⋯⋯ちょっと考え直そうかと思っている」
「え? どういうことですか?」
「お前が我々の想像の遥か上の強さだったことを知った今⋯⋯お前が力を大いに奮ってしまうと騎士学園自体が物理的に崩壊しかねないし⋯⋯ひいてはクラリオン王国の騎士学園周辺の地形をも変えてしまう恐れがあるということを言いたいのだ」
「⋯⋯つ、つまり『力の制御に気をつけて欲しい』と?」
「そういうことだ」
「ご心配なく! そこは僕も考えております! 僕の『夢の実現』の為にもやり過ぎは禁物なのでっ!」
「夢⋯⋯?」
「お気になさらず、父上! ちゃんと力を制御して学園生活を楽しみたいと思います!」
「う、うむ。よくわからんがお前がそこまで自信を持って言い切るのなら安心だ。頼むぞ、カイト」
「はいっ!」
「カイトちゃん。学園生活楽しんでね」
「はい! ありがとうございます、母上!」
「お兄様! 来年は⋯⋯来年は必ず⋯⋯わたくし騎士学園に飛び級入学で合格して、お兄様と同じ学び舎へ向かいます!」
「うん、わかった。楽しみにしているよ、アシュリー。では、いってまいります!」
「うむ。行ってこい!」
「いってらっしゃい、カイト!」
「お兄様、いってらっしゃいませ!」
そうして俺は馬車に乗りこみ、一路クラリオン王国騎士学園がある⋯⋯⋯⋯王都クラリオン・シティーへと向かった。
こうして、俺の長いようで短かった幼少生活が終わった。
第一章 幼少編(完)
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